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ミステリの祭典

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モンフォーコンの鼠

作家 鹿島茂
出版日2014年05月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 麝香福郎
(2023/07/15 21:58登録)
舞台は七月革命直後のパリ。人工は密集しながら、下水道も浄化槽もなかった時代。屎尿は野積みで自然乾燥に任せていた。おまけに自動車もなく、物資の輸送と人々の移動は馬力に頼っていた。馬が現在の自動車並みとまではいかなくても、パリとその近郊で多数使役され、病気や事故で死ぬことも頻繁にあった。廃馬処理の汚物も、当然積みっぱなしで腐敗。臭気は風向き次第でパリの街に漂った。
19世紀、ヨーロッパの大都市はどこも似たような危機に瀕し、政府が対策を考え始めた、いわば公衆衛生の黎明期。この蘊蓄の描写からバルザックの書く小説の中に融解していくあたりから、史実から逸脱し想定外に大きく展開する。
モンフォーコンの乾燥汚物屍肉に群がり大量繁殖していた鼠、そして地下に広がる採石跡の坑道や空間を利用して、空想社会主義者フーリエの弟子たちが絢爛にして奇怪なユートピアを作り上げてしまうのである。モンフォーコンへの著者の並々ならぬ愛を感じる。
パリの地下に広がる理想郷を探検していく様子は、まるで江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」のよう。博覧強記の知識から繰り出される蘊蓄に加えてお色気あり、革命活劇あり、恐怖ありの奇想天外な娯楽大作。フランス史に疎い人でも十分楽しめる。

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