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ミステリの祭典

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聖者のかけら

作家 川添愛
出版日2019年10月
平均点7.00点
書評数1人

No.1 7点 麝香福郎
(2022/07/17 19:31登録)
本書は史実を下敷きに、ベネディクトが聖遺物をめぐる大いなる謎と複雑な宗教社会のうねりに巻き込まれていく歴史ミステリだ。
とにかく胸がときめく設定が満載の小説だが、当然ながら道理に疎い素直なお坊ちゃんだけでは話は転がってこない。そこで本書にはもう一人、彼の協力者となる探偵役が登場する。それがピエトロだ。
この男のキャラクターがなかなか強烈。まず、教会の司祭でありながら、裏では聖遺物を見つけては、こっそり売りさばいている。頭の回転が速く口が達者で、自分の利益優先で最大限効率的に行動し、神の働きかけは基本ありえないと考えている。そうベネディクトとは正反対の世間擦れしたリアリストなのである。
真実に一歩一歩迫る一方で、ベネディクトはこの変わり者ピエトロや、他のさまざまな修道士・会子と信仰にまつわる対話を重ねていく。聖フランチェスコが実践した清貧とは何か。神が願いを聞き届けてくれないときは、自分ひとりで抱え込むか、周囲に相談するか。思い焦がれるほどに神や聖者を、そして友人を信じ敬うとはどういうことか。
こうした真摯な問答には、時代も舞台も現代とはまるで違うけれど、人間社会を生きていく上での普遍的な知恵が秘められているようで、読んでいて非常に快い。成長譚であり、バディ小説としても啓発書としても存分に楽しめる。

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