優しき殺人者 |
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作家 | ドロシー・S・デイヴィス |
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出版日 | 1954年06月 |
平均点 | 7.00点 |
書評数 | 1人 |
No.1 | 7点 | mini | |
(2016/08/15 09:59登録) * 私的読書テーマ”生誕100周年作家を漁る”、第7弾はドロシー・S・デイヴィスだ 黄金時代偏重な翻訳ミステリーの中で翻訳紹介が滞っている時代が戦後の1940~1960年代にかけてである この時代は本格派以外のジャンルの興隆や本格派そのものが質的変化を起こしていた時代なので、本格派しか興味の無い読者達が出版社に要望もしなければ訳されても読もうともしない風潮が見逃されてる原因になっている おそらく未訳の宝が大量にまだ眠っているのだろうね 1949年デビューのドロシー・ソールズベリ・デイヴィスもこの時代に活躍した作家で、マクロイなどと並んで女性でMWA会長職にも就いたことが有る重鎮作家の1人である ”重鎮”という語句が決して誇張ではないのが、MWA巨匠賞とアンソニー賞功労賞部門の両方を受賞している事からもわかる、アンソニー賞功労賞などは第1回目の受賞者だ またMWA巨匠賞をデイヴィスが受賞した前々年の受賞者がマーガレット・ミラー、前年がジョン・ル・カレ、翌年がエド・マクベイン、翌々年がマイケル・ギルバートだから、デイヴィスの位置付けが分かるでしょ ただギルバートの場合は作家だけでなくMWAの顧問弁護士的な功労も兼ねての評価だとは思う 要するにドロシー・S・デイヴィスは巨匠な割に日本への紹介がまともにされてなかった作家の1人であるという事である 「優しき殺人者」は初期の代表作で、アンソロジーで断片的に紹介された短編は別にすると数少ない訳された長編作品の1つである 正直ジャンル投票は迷った、本格派としても読めるし、警察小説的な要素も有る しかし警察小説的要素は話の進め方の上での要素の一部に過ぎず、これはジャンルが違うと思う むしろ戦後になって本格派というジャンルが質的変化を起こした状況をよく表しているとも言えるので本格派に投票でもいいかなと思った位、まぁ最後に謎解きが行われるわけじゃないので無難にサスペンスに投票したけど この時代は例えばヒルダ・ローレンスやヴェラ・キャスパリなど本格とサスペンスとの境界線みたいな作家が次々に出てきたのだろう ポケミス版のこの作品、一番驚くのが解説が乱歩なんだよね 乱歩はこの作を”奇妙な味”という視点で捉えようとしているが、私は乱歩は分かってないと思う、”奇妙な味”って戦前の黄金時代及びそれ以前の作品群に対しては通用するが、戦後作品にその表現を使っても意味が無い 当時の真っ只中に生きた乱歩に対して、現代に生きる我々は戦後のミステリー史の流れを俯瞰できるわけで、乱歩も時代の変化は当然感じてたのだろうけど、結局その語句でしか解釈できなかったのだろうか やはり戦後はミステリー小説自体が質的変化を起こしていた、これは好き嫌いに関係なく認めなければならない |