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ミステリの祭典

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みりんさんの登録情報
平均点:6.66点 書評数:276件

プロフィール| 書評

No.276 8点 聯愁殺
西澤保彦
(2024/05/20 04:58登録)
ははーん、Amazonの評価もやたら低いし、こりゃ"練習殺"ってぇ親父ギャグエンドだな
って笑ってたら予想の斜め上をいく衝撃の真相をかましてきた。脱帽。337ページ3h22min読了。

探偵役6人による推理合戦!『毒入りチョコレート事件』の完全オマージュ!重要な情報が後出しになるところまで完全一致!!こちらもザ・"推理"小説って感じです。
長すぎる推理合戦が評価を落としている原因の1つですが、たとえ舞台に空間的広がりがなくても、物語に起伏がなくても、私多重解決が好きなんで、飽きずに楽しく読んでいられました。
スマートな導入+楽しい推理合戦+衝撃の真相という感じで序盤、中盤、終盤、隙がない作品だと思いますよ。


氷川氏の熱量あふれる解説にて、デクスターに興味持った。メモメモ
そしてどうやら「メタ・ミステリ」ってのは私が軽々しく扱っていい言葉じゃないことも知れた。


No.275 5点 さよなら妖精
米澤穂信
(2024/05/19 20:23登録)
ぬ、これが「日常の謎」というやつか。記憶が正しければ、初めて読んだかも。
『王とサーカス』に登場した太刀洗万智の高校生時代が描かれた作品ですね。あれだけフラグピンピンだったのに太刀洗と守屋にはその後何もなかったのか…

「日常の謎」だと思ってかるーい気持ちで読んでいると最後で持ってかれますよ。352ページ3h10min読了。


No.274 8点 沈没船で眠りたい
新馬場新
(2024/05/19 02:20登録)
"どれだけ世界が変わっても たったひとつ この感情だけは"
良いキャッチコピーですね。井上真偽『ベーシックインカム』と少し似てる。

テセウスの船・自己同一性がテーマのガールミーツガールSF小説。つい最近、ChatGPTや生成AIなんてものが出てきました。それに伴い、AIを使用して創作活動を行う者が非難される現象がしばしば起こります。このことが「令和のラッダイト運動」だと揶揄されたりしますよね。本作品はその延長線上で、人間の仕事がほとんど機械学習に取って代わられた2044年の近未来のお話。急速に発展したテクノロジーを壊すネオ・ラダイト運動が起こるなか、機械と心中を決意した少女の謎を読み解くミステリーでもあります。326ページ3h48min読了。

人間は細胞の破壊と再生を繰り返すため、同じ状態である瞬間は一秒もありません。それでも昨日の私と今日の私を同一個体であると認識しています。しかし、その体のほとんどが機械になったとしても同じことが言えるでしょうか。私には自信がありません。実際に悠は自己同一性を保てなくなり、身体だけでなく精神も次第に朽ちていきます。テセウスの"船"であれば、そこで終わりですが人間は違います。悠と千鶴を繋ぎ止めている愛情だけは代替不可なのです。ましてやその愛情とは容姿や性格など一時の悠で形成されるものではありません。彼女と過ごした時間、講義、フェス、病室、コンビニ袋を揺らして走った夏の夜、今と地続きにいる歴史が愛を保証するのだと千鶴は言い切ります。

これは埋もれさせてはならないSF小説の傑作ではないでしょうか。『かがみの孤城』で泣けなかった私の目にもまだ涙が数滴残っていたんだと安心させてくれました。一応どんでん返しも2つほどあります。

※作中では『1984年』などの有名SFが多数紹介されます。気になったので(特に下から3つ目!)、詳しい方いたらタイトル教えてください。
「太陽風ヨットが出てくる話」←太陽からの風?
「少女が親友のために冴えたやり方を思いつく話」←たったひとつの冴えたやり方?
「ネズミのアルジャーノンが出てくる話」←アルジャーノンに花束を
「頭の中に埋め込まれた宝石が自我を持つ話」←?
「違う身体に接続されて恋をする女の話」←?
「意固地な猫が夏へと繋がる扉を探す話」←夏への扉


No.273 7点 皇帝のかぎ煙草入れ
ジョン・ディクスン・カー
(2024/05/18 14:46登録)
カーは読みづらいと認識していたのだが、原因が判明した。旧版のフォントのせいだな。新訳で308ページ4h13min読了。
カー作品の中で1番評点が高い作品ですが、そこまですごいかなあ。トリックそのものではなく、読者を欺く叙述の技巧が評価されているのかな。クズ男に振り回される女性のラブサスペンスとしてかなり楽しめるので7点に。

旧訳と新訳の両方あるので、読んでて楽しかった部分を比較。自身の不倫を棚に上げて、妻には貞淑であることを求める夫トビイに妻イヴが怒りを爆発させるシーン。新訳の方が細大漏らさず拾ってる感あって好きかな(原文知りませんが…)

井上一夫の旧訳ver p186より
「ではあなたは私がそんなことをしたら、許して水に流してやるといえて? さぞや寛大なお心をお持ちでしょうよ! 百万だらぶつぶついってね! あなたの理想というのはどうしたの? それでもあなたは純真で清浄な道徳観念をもった、純情な青年紳士のつもり?」

駒月雅子の新訳ver p197より
「じゃあ、わたしが同じことをやっても許せるのね? なにもかも水に流せるのね? まあ、何でできた方でしょう。 さすがはきれいごとばかり並べる偽善者だわ! 『デイヴィッド・コパフィールド』に出てくるユーライア・ヒープ顔負けね! あなたの理想とやらはなんでしたっけ? この期に及んで、まだ品行方正な好青年を気取るおつもり?」

他にも夫を罵る下品な言葉として「ペテン師(旧訳)」→「いんちき男(新訳)」 こちらは旧訳の方がいいかな。うーん翻訳物って買う時にどっち選べば良いか分からないから厄介だ。


No.272 7点 涜神館殺人事件
手代木正太郎
(2024/05/16 10:45登録)
新本格ファンを自称しているにもかかわらず、最近まったく読めていなかった。が、実に3ヶ月ぶりにジュン・シンホンカク(ぼくのかんがえたさいきょうの…というような狭義なヤツね)に出会えた。最近新本格成分足りてねぇから目覚めが悪いなあって方にオススメの一冊。407ページ5h29min読了。

『べ○セ○ク』に登場しそうな山羊の装丁からも想像がつきますが、霊媒能力や超常現象、現実には存在し得ない獣などが跋扈するオカルトミステリです。今までホラーはオカルトを包含する、ホラー⊃オカルトの関係だと思っていたんですが、この作品を読んで全く別物だなと考えを改めました。見当違いだったらすみません。当然オカルト要素が恐怖を生むこともありますよ。
ですが、「200年閉ざされていた中庭に遺体を運んだ方法」「殺人者の消失方法」「小劇場での密室殺人」など魅力的な謎の解明にはオカルトに頼りません。「殺人者の消失トリック」のみHowがチープなんですが、部屋の配色と彫像の意味に感心するのでセーフです。他の2つはミスリードも含めてお見事という他ありません。そしてなんといっても真犯人の登場シーンがクライマックス。素晴らしい。そこからはややチープに…… エピローグは心霊現象に対する見識を述べてから晴れやかに締めくくられます。

久しぶりに読んで「ああやっぱ新本格いいなあ、定期的に補充しないと」と思えたので、好意的に評価したい!てか好き!感情的には8点つけたい!なんだけど、少々ぶん投げた部分を差し引いて、迷った挙句7点に。作風が大変気に入ったので、著者の他作品も必ず読みますよ。


No.271 7点 夢野久作 ちくま日本文学
夢野久作
(2024/05/14 20:12登録)
私はあまり再読をしません。未知の衝撃を求めて、未読の作品に手を出してしまいます。しかし夢野久作は例外です。昨日読んだとしても、今日また読むと新たな印象を受けたり、新たな解釈が生まれたりします。読めば読むほど味が出るスルメ作家ですね。一読では私の理解が及ばないだけという説もあります(苦笑)

夢野久作の実の父親にして、政界の黒幕・杉山茂丸について語る実話が面白かった。まさにこの親にしてこの子ありですね。父親は「息子の小説は最初の一二行読むうちに、何のことやらわからなくなる」と評していたそうです笑 
著者は能や歌舞伎に精通しているので、謡曲のすゝめエッセイ『謡曲黒白談』もついていますが、しっかり夢Qらしいオチがあります(実話かは不明)。
『猟奇歌』とは雑誌『猟奇』の編集者が立ち上げた短歌のジャンルで、色々な作家が投稿していたそうですが、いずれもレベルは低く、夢野久作の独壇場となっていたそうです(笑) 童話や怪奇小説だけでなく、詩や短歌まで軽くこなす多才さに驚きます。

おそらく本書は、自由闊達に趣味を楽しんできた夢野久作だからこそ書けたような個性あふれる作品をあえてチョイスしていると思われます。『いなか、の、じけん』『瓶詰地獄』『押絵の奇蹟』『氷の涯』『人間腸詰』『猟奇歌』『謡曲黒白談』『杉山茂丸』の8編。
前半6作はメジャー作品が並びますが、『死後の恋』はさすがに入れて欲しかったかなあ…


No.270 5点 夢Q夢魔物語-夢野久作怪異小品集
夢野久作
(2024/05/13 23:01登録)
「真の幻想家的資質をそなえた作家」たる夢野久作の知られざる本領を提示すべく選ばれたアンソロジーとのことです。「怪異小品集」という名の通り、怪奇系短編や童話、連作短歌、エッセイ、ルポルタージュに至るまで合計60作品収録された短編集。他の傑作選などには載らないような小品ばかりで、60作品中既読だったのは『髪切虫』『瓶詰地獄』『縊死体』『青ネクタイ』『崑崙茶』のわずか5作品と、痒いところにまで手が届くセレクトでした。
気に入ったのを4つ挙げると『正夢』『虫の生命』『病院』『ツクツク法師』 何度読んでも意味がわからないお話もあれば、逆になんの捻りもないフツーのお話もあり、玉石混交でしたね。

1つ1つは5分足らずで読める短いものばかりなので、トイレに置いておくと丁度いいな。ペラペラめくって目に止まったのを読めば、毎朝の快便の助けになること間違いなし!


No.269 6点 毒入り火刑法廷
榊林銘
(2024/05/12 14:55登録)
『毒入りチョコレート事件』+『火刑法廷』かと思って読んだが、両方ともあまり関係なかったね。
読みにくい文章ってわけでもないのに、なぜかやたら疲労感が…405ページ6h4min読了。 

魔女を断罪する火刑法廷は一筋縄ではいかない。「魔法」は「殺人」よりも罪が重いのです。なので、殺人は認めるけども魔法だけは使ってねぇぞと偽証する展開があったりして笑えます。取り上げられる3つの事件はすべて密室であるため、見取り図とにらめっこしながら2転3転する真相を追うのは本格的味わいがありますし、御子柴礼司シリーズで味わえるような法廷ミステリ特有の駆け引きも楽しめます。まあ、本格としては小粒感があるので、魔法少女2人の切ない友情を見届けるキャラクター小説として読めば良いのではないでしょうかね。よって、個人的には1つ目の事件がお気に入り。
1つ目の裁判は「飛行」2つ目の裁判は「変身」3つ目の裁判は「感応」がそれぞれテーマであり、しっかりとなんたらルールの順番になっている事に読後しばらくしてから気づき、シナリオ構成の妙にうなる。

※読み飛ばしたのか不安ですが、結局2つ目の事件の密室のHowって明かされたの?


No.268 7点 火刑法廷
ジョン・ディクスン・カー
(2024/05/12 14:52登録)
あれ、何かがおかしい。中学生の頃に、「頬杖ついてるオバサンは読みやすいけど、このドヤ顔のオッサンはすこぶる読みづれぇから要注意だぜ!」と心得ていた。けど、なんか知らんが今読むと翻訳物にしては普通に読みやすかった。379ページ5h10min読了。

二つの人間消失トリックが論理的に明かされるエピローグ前までは佳作(6点)。ちなみに遺体消滅の方法で、そんな芸当ができたのか?なんかズルくね?と思った私のような方はレイ・ブラッドベリへさんの書評を読むと良いでしょう。作者の騙しのテクニックが分かりやすくまとまっていて、感謝です(*^^*)
エピローグをミステリを超越したボーナスステージと捉えるのか、台無しにした蛇足要素と捉えるかは読み手次第ですね。この小説を支える最も魅力的な"謎"が解明されたということで私は+1点。
ちょっと前なら「は?そんなひっくり返し方ダメだろ」と怒ってたかもしれないけど、最近は「ないよりはあった方がいいんじゃね」の欲張り精神が脳内を支配するようになってきた。


No.267 7点 遠海事件: 佐藤誠はなぜ首を切断したのか?
詠坂雄二
(2024/05/09 19:45登録)
ああああああやられた〜!これは秀逸なミスリードですね。
Whyを当ててみろ!と言わんばかりの挑発的な副題もいいです。タイトルだけのコケオドシではなくそこにはしっかりした理由が存在します(少しボカされますが)。首切り連続殺人という猟奇事件の裏では、人間の本質について問う社会派要素も。

※みんな教えての「切断の理由」にて、信頼度の高いお二方が勧めていたので気になって読みました。良い読者体験ができました。ありがとうございます。


No.266 6点 冥土行進曲
夢野久作
(2024/05/08 19:49登録)
夢野久作が1932〜1934年に発表した短編が8編収録。未読の6編の感想を。

狂人は笑う 5点
「青いネクタイ」と「崑崙茶」の2つ 
相変わらず狂人の解像度が高いですね。

縊死体 5点

焦点を合わせる 6点
スパイ小説。正直騙し合いが複雑すぎてよく分からなかったので、再読してようやく掴めた。痛快なラストに至るまでの前フリも結構面白い。

斜坑 6点
スカッとしますね。にしても、三津田信三『黒面の狐』もそうだが、炭坑って薄暗いのに小説だとやけに映えるね。もっとこの舞台を採用した方が良いのでは?

爆弾太平記 7点
舞台は韓国併合時の釜山周辺の島。
爆弾漁業とはその名の通り爆弾を水中で破裂させ、水面に浮かび上がった魚を狩る方法。この方法は生態系の破壊を招き、結果的に不作に陥るという不正漁業。実際にこういう漁業が横行していたとは知らなかったので、勉強になりました(日本史で習うのかな?) 轟雷雄は50万の漁民の思いを背負い、不正漁業を取り締まるべく行動を起こします。結果的には9名の死者を出す大事件へと発展するのですが、不正漁業の裏で密かに行われていた権力者達の悪辣極まる趣味が暴かれるのでした。轟雷雄視点の独白体形式で冒険譚のような形で語られますが、こういうのを書かせたらやはり抜群に面白い。

冥土行進曲 6点
ベタな復讐物語かと思いきやドタバタ・ギャング・サスペンスが始まり、そしていつもの幻想風味が香ってきたところでめでたしめでたしオチ。タイトルに反して軽いお話


No.265 7点 瓶詰地獄(乙女の本棚)
夢野久作
(2024/05/08 19:42登録)
この作品を読んでる時、毎回脳内でとある曲が流れる。
「そして僕ら今ここで♪ 生まれ変わるよ♪ 誰もさわれない♪ 2人だけの国♪」ああ…この作品にピッタリな曲ですね。アダムとイブです。ここまで2人を狂わせたのは近親であるからというだけでなく、兄弟である可能性も否定できないと思います。絵的には兄妹の方が映えるのでいいんですけどね。
『瓶詰地獄』は毎度読み終わってから考察系ブログを読み漁ってしまうまでがセット。議論の尽きない作品ですね。
お気に入りアートは圧倒的に53ページ。

『ルルとミミ』『死後の恋』と同じ乙女の本棚シリーズ。チョイスもドストライクだしいいなあこの企画。『キチガイ地獄』も同じように絵本に合いそう(タイトルでBANされるか?) 『木魂』『押絵の奇蹟』とかもぜひやってほしいなあ


No.264 8点 顔のない肖像画
連城三紀彦
(2024/05/06 09:59登録)
連城って長編より短編が圧倒的に有名だけど、ふつうに長編の方が面白くねって逆張りしてた。そんな逆張りの民に読んでほしい1冊。いや、短編も長編もすこぶる面白いということでこの謎バトルは決着。
情緒あふれる悲哀のミステリーを描いたり、情景描写に富んだドロドロ大正恋愛小説を描いたり、本作のようなお得意の叙情性を封印して反転命・本格魂を見せつけてくれたりと、作品ごとに印象がガラッと変わる作家ですね。趣向的には『戻り川心中』や『宵待草夜情』より『夜よ鼠たちのために』に近い感じです。とりあえずしばらくは本作を含めたこの4作が連城短編集四天王になりそうだな

潰された目 7点 反転指数50
アレが目的なら、もっと他に良い方法がありそうなもんだが…んなことはいい。久々の連城ミステリ短編は初っ端から切れ味抜群。どこか湊かなえ感がある。

美しい針 7点 反転指数65
サイコ系でちょい官能的

路上の闇 6点 反転指数30
タクシーでの心理戦は漫才みたいな感じで楽しい。かなり予想はつきやすいオチ

僕を見つけて 9点 反転指数90
特殊な誘拐もので短編にはもったいないほどの出来。いつもの叙情性をプラスして、子供の純情さを訴えかけるような悲劇の誘拐サスペンスドラマとして長編に仕立て上げれば、涙腺がイってたかもしれない。著者は誘拐の新機軸をたくさん生み出していますね

夜はもう一つの顔 7点 反転指数50
ほーこれは逆に短編で良かった。連城がよく使う種類の反転方法だが、オチをバッチリ決めてくれたので良し

孤独な関係 8点 反転指数75
ふんふんこの程度の罠、俺なら見抜けるぜ!って先読みしていた読者の先をいく一撃。脱力系だが、人によっては共感を生むかもね。

顔のない肖像画 9点 反転指数100
ええええ〜そんなのありかよ!絵に限らず収集家という性は時に本質を見失うものですよね。


No.263 5点 あじさい前線
連城三紀彦
(2024/05/05 19:08登録)
連城三紀彦の第8長編 
なぜ1件も書評がないのか疑問に思っていたが読んで納得。ミステリ要素は皆無の完全なる自分探し小説だった(コピペ了)
離婚直後の40歳の女性が日本各地に散らばった元恋人8人に会いに旅立つ日本縦断物語です。連城といえばドロドロした男女関係を描くことが多いイメージですが、本作は全体的に薄味だと感じました。朝子や8人の元恋人の多種多様な人間模様を楽しむ小説なんでしょう。


No.262 5点 残紅
連城三紀彦
(2024/05/03 13:26登録)
連城三紀彦の第4長編 
わりと初期作品(1985年刊行)なのに、なぜ1件も書評がないのか疑問に思っていたが読んで納得。ミステリ要素は皆無の完全なる恋愛小説だった。初期作なだけあって、文学の香りは芳醇。
あとがきによると、実在の歌人である原阿佐緒(1888-1961)の半生を脚色して小説にしたらしい。なので時代は大正。男性優位社会が根付いているこの時代に、魔性の女の悲劇的な半生を叙情あふれる文章で読ませます。恋愛小説ではありますが、心理サスペンス小説といっても良いかもしれませんね。
主人公麻緒は美しいだけでそこまで悪女ではないし、悪いのは完全に男達だけどさあ…いくらなんでもリスクヘッジができてないよ麻緒さん。まあ恋愛小説にそんなこと言い出したら話が進まないのでダメですがね。
"あれほど執着し、そのために泣いた男たちも、所詮は次の停留場まで乗り合わせるだけの客と変わらないのだった"
↑がこの物語の1番大事なところです(たぶん)


No.261 7点 どこまでも殺されて
連城三紀彦
(2024/05/02 08:18登録)
どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる。
既に七回殺され、今まさに八回目の死を迎えようとしている男。

ここまで書くと誰しもが『七回死んだ男』を連想しますよね??「あっちよりも先なんですね」という書評を目にして、私はてっきり『七回死んだ男』の先行作品なのかと思っていたんですよ。ところがそっちではなくあっちなんですよ!!すごい!連城!すごい!変な部分で感動してしまった。

連城のわりに恋愛色薄め・ミステリ色強めの長編なので本格好きにもおすすめです。


No.260 7点 人間腸詰(角川文庫版)
夢野久作
(2024/04/29 13:58登録)
1936年に47歳という若さでこの世を去ってしまった夢野久作。この短編集は1934〜1936年という晩年に発表された短編を八編収録。蟷螂の斧さんが書評されている『人間腸詰-夢野久作怪奇幻想傑作選』とは収録作品が違うので、新たに登録し、こちらに書評させていただきます。

人間腸詰 7点
『空を飛ぶパラソル』では太陽、『死後の恋』では宝石、『笑う啞女』では月光。夢Qの作品では光の演出によって印象的な(ショッキングな)シーンを魅せることが多い気がします。今作は水銀燈がその役割を担っていましたね。

木魂 7点
再読だがほとんど忘れてた。景色が公理や方程式に見えるほど偏執狂の男が数学的解釈より家族愛を選び取る。短編なのにうるっとくる。当時の数学教育への憤りとかもあったりしたのかな?
初読時より1点加点して7点。

無系統虎列刺 6点
吐酒石は正式名:酒石酸カリウムアンチモニウム(初耳!) で17世紀頃から催吐薬として使われはじめましたが、副作用が強いため、現代ではほとんど使われていないそうです。酒石酸と重曹の組み合わせは中和反応により炭酸ガスが発生するため、発泡剤として用いられています。

近眼芸妓と迷宮事件 5点
連城イズムですね、時系列が逆ですが笑
アンチ共産主義もひとつまみ

S岬西洋婦人絞殺事件 5点
特筆すべき点のない普通の探偵小説。少し唐突な犯人。

髪切虫 6点
宇宙線からメッセージを受け取った髪切虫の不思議なお話。噛み切り虫だと思ってたけど、ほんとに髪切れるんだねこの虫。

悪魔祈祷書 6点
再読。森羅万象は原子からなり、人間の複雑に見える思考というのも所詮は化学反応に過ぎない。と神の存在を否定しつつ、反対に悪が人類を発展させてきたという説。興味深くのめりこんで読んでいるとひっくり返される笑 これも面白い。
ちなみに悪魔の聖書というのは実在するそうですね。

戦場 8点
舞台は第一次世界大戦の独逸の戦場。
軍医として最初に学ぶことは自傷の鑑別方法(これほんと?) 戦争の影で蠢く、私利私欲に塗れた陰謀を解き明かすミステリー。反戦をテーマにお得意のナンセンス(轟音のくだりとか)を織り交ぜて、苛烈な戦場の虚無感を描いた夢Q後期の傑作短編だと思われる。第二次世界大戦前に発表されているのがいいね。晩年といっても切れ味は変わらず…もう少し長生きしてほしかったな(泣)


No.259 6点 死後の恋(乙女の本棚)
夢野久作
(2024/04/29 13:47登録)
『ルルとミミ』と同じ乙女の本棚シリーズの絵本です。『死後の恋』のあのシーンを絵で見たいという思いで読みましたが、描かれていませんでした。さすがに乙女には刺激が強すぎると判断したのでしょう。74pの絵が個人的にはベストショットかな。
お子様のいるレビュアーの方はぜひ読み聞かせをしてあげてくださいね(『ルルとミミ』の方がウケ良いかもですが…)

『死後の恋』はこれで5回目くらいだが、何度読んでも飽きない。普段再読なんてあまりしないけど、夢Qって再読性の高い作家だなぁ…


No.258 5点 ネバーランド
恩田陸
(2024/04/28 13:09登録)
恩田陸を読むとノスタルジーにたっぷり浸れる…ミステリじゃないけどいいねこういうの。平日の睡眠時間を削って、ではなく休日にゆっくり読むと更に心地よい。
腐のにおいも少々…


No.257 5点 パニック・パーティ
アントニイ・バークリー
(2024/04/28 01:37登録)
シリーズ最終作!ロジャー・シェリンガム最後の事件!!感動のラスト!!!…とはならずにヌルッと終わってしまいました笑 ドライですねぇバークリーさん…
評点の低さに身構えてしまいましたが、サスペンス小説としてまあまあ面白いですよ。孤島に集められた15人のうち1人だけいなくなると、そこからはパニック小説が始まります。食糧の調達とか住処の確保とかサバイバル要素もあればもっと面白かったかもなあ…
テーマはおそらく極限状態に垣間見える人間の本性という(よくある)ヤツなんだろうな ※自分にはそれくらいしか読み取れず(´-ω-`)
推理できる要素がほぼありませんでしたが、「主催者の目的」についてはわりと納得のいく良いサプライズでしたね。3人ほど血の通ったキャラがいてそこも良し。


シリーズを読み終えて、バークリーの印象は逆張りおもしろおじさんって感じだ。一気読みするには勿体無い作家だったな。王道探偵小説×10→バークリー×1 くらいの配分で読み進めるのが正解だった気がする。なんにせよ黄金期英米ミステリは未読作ばかりなのでこれからが楽しみです。
んーところで、1作目と2作目にだけ登場したワトソン役のアレックって何だったんだろうなアイツ。

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