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ぷちレコードさん
平均点: 6.33点 書評数: 210件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.90 5点 地べたを旅立つ 掃除機探偵の推理と冒険- そえだ信 2022/01/06 22:33
副題にあるように探偵は掃除機。交通事故で昏睡中の刑事がなぜか円形型のロボット掃除機に憑依してしまい、小学五年の姪を守るために、札幌市から小樽市まで旅に出る。
目覚めた部屋の隣室には殺人死体もあり、刑事として謎解きもしていく。掃除機にはスマートスピーカー機能がついているので、Wi-Fiがあればメールも打てる。でもなかなか信用されない。しかも充電は必須。
次々に難問が押し寄せるものの、それを一つずつクリアしていくアイデアが面白いし、語り口も楽しい。掃除機には限界もあり、どうしても人任せになるのが難だが、それでも奇想天外の設定を巧みに生かしていて悪くない。

No.89 5点 幽女の如き怨むもの- 三津田信三 2021/12/23 23:10
お馴染みの様式的な殺人は影を潜め、身を売られた女性の悲哀がたっぷり描かれるシリーズ中の異色作。
周到な伏線や手掛かりが隠されているのはもちろんなのだが、遊郭という場所、遊女という存在、その時代でなければ成立しない謎が解体されると同時に、薄幸な女たちの悲哀も浮かび上がる。心打たれる本格ミステリ。

No.88 7点 新参者- 東野圭吾 2021/12/23 23:06
正面からではなく、背面や両サイドからの視点を変えることで、「被害者は誰か?」「一体何が起きたのか?」と同時に「なぜ殺されたのか?」「刑事は何をしたいのか?」という謎が多層化した物語。
しかも、八つの断片からなる連作短編集が、最後の一章で一気に長編となり意外な全貌を浮かび上がらせる。物語としても奥深くコクがある技巧派の面目躍如たる作品といえる。

No.87 9点 魔眼の匣の殺人- 今村昌弘 2021/12/07 23:07
「あと2日で4人が死ぬ」という予言が横たわる中で、人は何を考え、どう行動するのか。舞台設定こそ前作の「屍人荘の殺人」より地味かもしれないが、超自然的な現象とロジカルな謎解きを組み合わせる手並みの鮮やかさは前作以上といっていいでしょう。
「クローズドサークル」や「人が死ぬごとに減っていく人形」といった定番過ぎる題材とも真正面から向き合っている。ミステリの名探偵はなぜ、警察を待たずに関係者を集めて犯人を名指しするのか。クライマックスでは、パロディとして扱われることの多いこんな疑問に対しても、本作ならではの回答をぶつけている。

No.86 6点 日曜の夜は出たくない- 倉知淳 2021/11/20 22:55
生活感漂う日常パズラー連作短編と思ったら、最後でひっくり返り長編としての筋が一本通るタイプのミステリ。
トリックの弱さを凝りに凝った趣向でカバーする。各編ごとに語り口を変えて、最後はアクロバティックな多段落ちできれいに締める。主人公の猫丸先輩は、外見のほのぼのとしたムードと裏腹に突き放した冷たさが魅力的。

No.85 6点 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 2021/11/05 22:23
人物たちの企みと齟齬、事実の開示の意図的な遅らせ、予想外の展開、意外な真相など語りとプロットに捻りをきかせて予測させない。日常の何でもない一場面ですらサスペンスを高めて語る。
いじめ、スポーツにおける頭ごなしの叱責、家庭内虐待、不審者による理由なき暴力などが主題になっているが、見事なのは小学生の話なのに広がりと豊かさを兼ね備えていることだろう。人間のコミュニケーションにおいて重要なものは何かという視点が貫かれているからで、大人まで考えに耽る要素を十分に持つ。

No.84 7点 シャドウ- 道尾秀介 2021/11/05 22:11
登場人物は精神医学の医師や研究者数名とその家族。精神障害が核となっている構図が第一章で分かる。複数の登場人物の視点によって物語が語られるという一見ありふれた手法を逆手に取り、終幕近くになって事件の全貌が明らかになるとともに、一挙にカタストロフィへとなだれ込んでいく展開は圧巻。

No.83 5点 真夏の方程式- 東野圭吾 2021/10/23 23:13
資源開発か環境保護かで揺れる海辺の町が舞台。
書かれたのは震災前だが、震災後に読むと現実の問題とリンクした読み方ができると思う。
「無知ゆえの幸福」と自他に許さないのが湯川の矜持で、そこはぶれていない。ただ得失を冷静に計算すれば未来を最適に制御できるという信念が通用しないのが、震災で露になったリスク社会の実相。その意味で、今回の湯川の判断は適切だったのか。いささか中途半端な気がしてならない。

No.82 5点 元彼の遺言状- 新川帆立 2021/10/23 23:08
第19回このミステリーがすごい大賞受賞作。
「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇妙な遺言を残して、大手製薬会社の御曹司・森川栄治が亡くなった。殺人を疑われる要素はなかったが、遺産目当ての犯人たちが次々と押し寄せる。弁護士の剣持麗子は英治と学生時代に交際した過去があるが、犯人候補に名乗り出た英治の友人の代理人として、「犯人選考会」に参加する。
設定も度肝を抜くが、ヒロインの弁護士像も、極めて異色。お金好きで身勝手、すぐに人を馬鹿にする性格で親しみがわかない。もちろん読んでいけば少しずつ印象が変化するように作られているし、事件の意外な展開も真相もよく考えられている。出色のデビュー作といえるが、全体的に少し受けを狙いすぎの部分が鼻につく。

No.81 5点 スイーツレシピで謎解きを 推理が言えない少女と保健室の眠り姫- 友井羊 2021/10/09 23:12
チョコレート盗難の疑いをかけられたのをきっかけに、主人公は自分の推理力を目覚めさせていく。
ひとつひとつの作品の謎解きもさることながら、やはり読みどころは最終章で明らかになる大仕掛け。あまりに予想外、しかも書き手の立場にとって難度が高すぎる趣向に茫然。もう一度読み返したくなる。

No.80 6点 雪冤- 大門剛明 2021/10/09 23:05
死刑制度の根本を問う真摯な社会派の姿勢を貫きながら、本格もののケレンの味を余すところなく発揮している。
あまりにもどんでん返しが続くので、本当に辻褄が合ったのか不安感が残ったが。

No.79 6点 バック・ステージ- 芦沢央 2021/09/26 22:10
卓抜した心理描写を駆使したシリアスなサスペンスを描いた作品が多い中、本作はかなりポップな読み口になっている。(もちろん、ヒリヒリするような感情に迫るサスペンスもあるが...)
連作短編集の形をとっており、その仕掛けの鮮やかさには驚かされた。

No.78 8点 告白- 湊かなえ 2021/09/26 22:07
担任の女教師が教え子の生徒たちに語り掛ける短編の不快な後味も強烈だが、さらに同じ事件をめぐって視点を変えながら、連作長編に仕立てる技量もなかなかのもの。
毒に満ちた、巻を措く能わずの気色悪さに、類稀なる才能をみた。

No.77 6点 時の密室- 芦辺拓 2021/09/11 23:15
エッシャーの騙し絵をキーポイントにした連作的な長編で、個々の事件の独立性が高くて、それが揃うとまた違った様相を見せるのが面白い。
小ぶりなネタ、素っ頓狂な仕掛け、テキストレベルの工夫などバラエティに富んでいる。

No.76 6点 暗幕のゲルニカ- 原田マハ 2021/09/02 23:12
一枚の絵画をめぐって二つの時代を舞台に物語が進んでいく。特にピカソの生きた時代の描写は凄まじい。この時代に足を踏み入れたかのようなリアリティを感じさせるし、ゲルニカ誕生の背景にも思わず納得させられた。
美術の知識が無くても、ピカソの凄さや芸術の力が伝わってくる。過去と現代、生きる時間は違えど、芸術を武器に戦争に「NO」を突き付ける人々の姿に胸が熱くなる。

No.75 5点 見当たり捜査官- 戸梶圭太 2021/09/02 23:08
警視庁捜査共助課の久米山警部補の仕事は、指名手配犯、容疑者と思われる人間の体格や顔つきなどの特徴を覚え日夜、駅や繁華街などの雑踏に立ち、似ているものを探す「見当たり捜査」。この見当たり捜査に従事している男を主人公にした連作短編集。
思わぬ邪魔やトラブルに見舞われて捕り逃す。その繰り返しを描きつつ、人情でほろりとさせる話あり、何をやっても上手くいかない男の身につまされる話ありとバラエティに富んだ作品集。

No.74 5点 死写室- 霞流一 2021/08/15 23:00
撮影所、地方のロケ先、試写室、映画館などで起こった事件を扱っている短編集。
作者の作品ではおなじみの探偵、紅門福助が登場する連作ミステリ。作者はかつて映画会社に勤めていたことがあり、その舞台裏や細部を熟知している。加えて、独自のユーモア感覚が随所に発揮されており、強烈な個性の人物やとんでもない出来事が次々に登場する。
さまざまな映画の現場を舞台に、本格探偵小説の趣向とドタバタコメディーの要素が合わさったミステリに仕上がっている。

No.73 8点 13・67- 陳浩基 2021/08/10 23:16
一九六七年から二〇一三年という激動の香港史の裏側で、市民の平穏な暮らしを守るため、自らの身を捧げた警察官の人生を遡りつつ照らすことで、彼が第一話で描かれるような存在になった理由が丁寧に描かれていく。
警察小説として優れていながら、謎解き小説としても類まれない面白さがある。丁寧に描かれた伏線から導き出せる、あっと驚く真相。しかも毎話、盲点を突いてくる。その手際はお見事としか言いようがない。

No.72 7点 傷痕のメッセージ- 知念実希人 2021/07/30 23:07
医療の専門知識を生かしつつ、家族の絆を問うスリリングな展開で引っ張っていく。
大学付属病院の女性医師で、外科から病理部へ出向中の千早は、唯一の家族である父をがんで亡くす。かつて刑事だった父の遺言に従い、同級生で指導医の紫織と病理解剖した結果、胃に暗号が刻まれていることが明らかに。同じころ、かつて父が追い、未解決のままだった連続殺人犯「千羽鶴」の犯行が28年ぶりに再開され、2人に忍び寄る。
父が抱えていた謎と現在進行形の殺人事件の絡まり合い方が絶妙。
何よりも作品をユニークにしているのは、司法解剖を担う法医学医ではなく、医学の発展のために解剖する病理医に焦点を合わせた点だろう。探偵役である紫織の死者との向き合い方が、亡き父の声を娘に伝えることにつながり、胸に迫る。

No.71 5点 モンスターズ- 山口雅也 2021/07/21 22:11
シリーズ探偵の登場しない中短編を集めた作品集「ミステリーズ」「マニアックス」に続く第三弾。
ドッペルゲンガーをテーマにした恐怖譚「もう一人の私がもう一人」、アメリカ私立探偵小説のパロディーのような「半熟卵にしてくれと探偵は言った」と作品ごとにスタイルは異なるが、通好みのテーマやしゃれたディティール、洗練された語り口と会話、技巧に富んだ趣向や逆転の妙など、作者ならではの作品が並んでいる。
特に最後に収録された中編「モンスターズ」は、なんと一九四〇年代のドイツを舞台に、吸血鬼やフランケンシュタイン、そして透明人間までが登場するナチものなのだ。海外の異色短編作家を好むようなミステリファンにお薦めしたい。

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ぷちレコードさん
ひとこと
中学生の頃、ミステリにはまった。でも続いたのは3年間ぐらい。今また、ミステリにはまりつつある。やっぱりミステリは最高だ。
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