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zusoさん
平均点: 6.25点 書評数: 199件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.119 5点 希望と殺意はレールに乗って アメかぶ探偵の事件簿- 山本巧次 2022/11/14 22:39
一九五七年、南信州の清田村の村会議員が東京で何者かに殺害され、政治献金を奪われたという事件。
複雑かつ秘密めいた人間関係から情報を引き出せるのは、アメかぶと呼ばれる城之内の遠慮を知らない態度と、旧領主のお嬢様という真優の立場の強さがあればこそ。小さな村の出来事ながら、登場人物が時代の大きな流れと無縁ではなかったことを点描する最終章の余韻が味わい深い。

No.118 5点 テュポーンの楽園- 梅原克文 2022/11/03 22:26
織見奈々を中心に、自衛隊や警察がテュポーンと呼ばれる怪物と闘う物語。
舞台となるのは、安須という人口九百人ほどの町。この限られた場所での戦闘を圧倒的な迫力で描きつつ、怪物の成り立ちや存在意義などを徐々に明かしていく手つきは鮮やか。強大な敵と戦うための知恵、さまざまな知識に裏打ちされた知恵でも愉しませてくれる。

No.117 6点 護られなかった者たちへ- 中山七里 2022/11/03 22:16
生活保護受給を中心とした社会福祉の問題点を核として進むストーリー展開に気を取られ、見事に騙された。予想外のラストである人から語られるメッセージが胸に突き刺さり、心から離れない。

No.116 6点 風神の手- 道尾秀介 2022/10/17 23:09
三つの中編とエピローグ的な短編一つという作品集。
第一話では夜の鮎漁をモチーフに、二十七年前の恋心と殺意、そしてその想定外の顛末が描かれる。続く第二章では小学生コンビの冒険が、さらに第三章ではある脅迫事件が語られる。そしてこの三つの物語を併せ読むことで、巧妙に散りばめられたエピソードの数々が結び付き、それぞれがまた別の意味を持つことを知り、そして一陣の風が多くの人生にどう影響を与えたかが見えてくる。最後の短編も含め、心に刺さる良い物語を読ませてもらった。

No.115 7点 義経号、北溟を疾る- 辻真先 2022/10/17 23:01
明治天皇を乗せた蒸気機関車を巡る冒険小説。
予定に反して夜汽車になってしまったという史実を活かし、そこに新選組の残党や清水次郎長の子分、あるいは狼に育てられた少女を配置して列車襲撃の攻防を描き、さらに不可能犯罪の謎解きを加える。キャラクターもいいし疾走感もいい。北の大地を轟音とともに疾る蒸気機関車の迫力は、ベテラン鉄道マニアの作者ならでは。

No.114 5点 不思議絵師 蓮十- かたやま和華 2022/10/06 22:18
描いた絵が動き出す特殊な能力がある絵師の蓮十を主人公にした連作集。収録作の完成度にバラツキはあるが、蓮十が刺青の下絵を描いた火消しの周囲で放火が連続する「桜褪」は、超常現象が起こることを前提にした謎解きとして高く評価できる。

No.113 8点 新宿鮫- 大沢在昌 2022/10/06 22:11
拳銃密売犯を追う防犯課の鮫島警察部の捜査活動と、警察官殺害事件を追う捜査本部の活動を、同時進行的に描いていく警察小説。
冒頭からラストまで、目一杯に緊迫感がみなぎっており、ストーリー構成から人物造形に至るまで素晴らしい。

No.112 7点 白光- 連城三紀彦 2022/09/17 22:40
本書が優れているのは、多重解決が解釈ゲームにとどまらず、家族や夫婦における人間関係の空虚さを背景とすることで、推理や解決がそのままキャラクターを際立たせる要素となっている点にある。
推理とは、他者意識とナルシシズムを前提としなければ成り立たないことを、見事に描き切っている。

No.111 6点 未完成- 古処誠二 2022/09/17 22:36
舞台となる島はある種、意識の上でのクローズド・サークルになっている。自衛隊の基地があることによって島の中で思い込まれていることがあり、そういう部分で動機を設定している。
メルヘン的にではなく、ジャーナリスティックな問題設定で、独自の論理が特定地域を支配しているという状況を描き得た点を評価したい。

No.110 7点 火蛾- 古泉迦十 2022/08/29 22:42
第十七回メフィスト賞を受賞した異色作。蠟燭の炎が揺れるテントで物語られる話は、果たして現実なのか幻想なのか。
殺害方法、動機、そして真犯人など、本格ミステリにおけるロジックが、イスラム教などの宗教観念に支配された世界に従属して展開される。そのさまは実にスリリング。

No.109 6点 裂けて海峡- 志水辰夫 2022/08/29 22:39
作者ならではの感傷や抒情といった面はもちろんのこと、日本の小説ではあまりお目にかからない上質なユーモアが作品に散りばめられており、キャラクター造型や見事な文章と相まって、痛快かつ感動的な物語を創り出している。

No.108 6点 パレード- 吉田修一 2022/08/17 22:47
東京都内のマンション。4階の2LDKの部屋に男女の若者たちが暮らしている。最初は4人、途中から5人になる。その住人たちが順々に語り手となって物語は進む。
複数の視点から見る出来事や人物は立体的。一方で、誰も同じ景色を見ていないことに気づく。誰もが「本当の自分」を見せず、出来事や人物の解釈にも、ずれがある。真実はどこか曖昧で、読んでいくうちに真実から遠ざかっていく気さえする。
そんな若者たちが暮らすこの部屋では、上辺だけの付き合い。だからこそ悪意や残虐さがどこかに蓄積され、増幅していくのかもしれない。そして、ある事件をきっかけに、この空間のいびつさがあらわになる。
そして人間のグロテスクさが閃光を浴びるよう一瞬、映し出され日常の奇妙さと底知れぬ怖さが浮かび上がる。

No.107 5点 雨と短銃- 伊吹亜門 2022/08/17 22:36
前作「刀と傘 明治京洛推理帖」の前日譚。
物語の舞台は、幕末の京の都。犬猿の仲である薩摩藩と長州藩に協約を結ばせるため、坂本龍馬が動いていた。だが稲荷神社の境内で、薩摩藩の菊水簾吾郎が、長州藩の小此木鶴羽を斬り、重傷を負わせるという事件が発生。しか簾吾郎は、逃げ場のない鳥居道から、忽然と姿を消した。この件で竜馬が頼ったのが、尾張藩公用人の鹿野師光だ。仕方なく依頼を受けた師光は、簾吾郎の行方を追ううちに、意外な真相にたどり着く。
師光が探偵役となり不可解な事件に立ち向かう。鳥居道での人間消失の真相は、やや肩透かしだが、首なし死体の件の真相は鮮やか。その時代その場所だから成立するトリックに感心させられた。

No.106 6点 聖域- 大倉崇裕 2022/08/01 22:17
異世界のような高山(聖域)には、下界とは異なる空気が流れている。作者が愛情をこめて「山屋」と呼ぶ限られた人間の限られた世界は、それだけでミステリアスだが、その異世界で起きた死も、やはり下界で謎を解いていくしかない。心に傷を持つ主人公が丹念に真相を追っていく過程に引き込まれた。

No.105 5点 東京ダモイ- 鏑木蓮 2022/08/01 22:13
終戦後のロシアの捕虜収容所内で起きた殺人事件が、現代の日本で解決するという作品だが、凶器トリックのみならず、現代ミステリでは難しい暗号トリックを扱っており、トリックだけが際立つといいうこともなく、無理なく自然にまとめられている。
伏線の扱いもよく、キャラクターもそこそこ描写されており、デビュー作としてはまずまず。

No.104 5点 ペッパーズゴースト- 伊坂幸太郎 2022/07/19 22:14
主人公は中学校の国語教師の檀で、彼には「飛沫感染」すると相手の明日を垣間見ることができる特殊能力があり、生徒の事故を防いだために生徒の父親と知り合い、テロ事件へと巻き込まれていく。
本書が面白いのはそれと並行して、生徒が書いた小説が展開することだろう。その小説が中盤になってメインの事件と複雑に絡みだしてねじれていく。思わず脱力してしまうユーモアが光るメタフィクション的趣向、複数の伏線の見事な回収、そして最後の最後に明らかになる事件の真相も鮮やか。ただし、犯行計画の動機は納得しかねる。

No.103 6点 ダブルバインド- 城山真一 2022/07/19 22:08
金沢東部署刑事課長の比留は窮地に立たされていた。部下が強盗犯を取り逃して左遷人事がほぼ確定。私生活では妻を病気で亡くし、娘は父親が別にいるという出生の秘密を知って家出。さらに人事異動内示日に、管内の駐在署員が撲殺される事件が起き、そこに逃走中の強盗犯が関わっていることを知る。
過去に因縁のある上司との対峙を持ち込み、最初から最後まで驚きと緊迫感を与え続ける。あまりに三つの事件を絡ませすぎてやや劇画的になってしまったのが残念。

No.102 6点 少女- 湊かなえ 2022/07/05 23:21
物語は、誰が書いたか分からない遺書から始まる。その謎が解明されないまま、「死の瞬間を見ること」に興味を持った高校生の少女の2人のすれ違いや、お互いを理解していく様子が描かれ、でも最後に...という展開。
物語のキーワードは因果応報。軽い気持ちでやったことが誰かが死ぬことにまで繋がってしまう。ちょっとしたことでも、別の人にとっては大きなことなのだと怖く感じる。ただ、因果応報には悪い意味だけでなく、頑張った分、自分に返ってくる意味もあると思う。

No.101 6点 フィッシュボーン- 生馬直樹 2022/07/05 23:15
暴力団組長の父を持つ陸人、虐待を受け児童施設で育った航、愛人殺しの罪で父親が服役中の匡海が出会い、長じてヤクザとなる。やがて3人組は、地元・新潟にある大手製薬会社の社長令嬢誘拐計画を立てることになるのだが。
殺伐とした世界でありながらも艶やかな抒情が紡がれる、それから相手を思いやりながら繋がり合おうとするものの断念と絶望を味わうしかない冷徹な状況。
何よりも驚くのは物語のツイストとどんでん返しで、終盤はまさかの展開となり、予想の上をいく。

No.100 6点 綾峰音楽堂殺人事件- 藤谷治 2022/06/19 23:11
経営難の地方オーケストラ「綾峰フィル」が拠点とする県立音楽堂が複合施設に改築されることになった。改築前の最終公演で、オケが無言の抗議として演奏したのは、ハイドンの交響曲第45番「告別」。舞台上の楽員が一人一人退場していくという風変わりな作品だ。そのさなか、音楽堂で人が殺される。被害者は、地元局のラジオ番組で助成金頼みの綾峰フィルを攻撃してきたDJだった。
大学教授の音楽評論家が、飄々と謎解きを進める物語の中に、文化を取り巻く世相が鋭く織り込まれる。「東京みたいなもの」を欲しがる地方都市、クラシック音楽に税金で補助する自治体の葛藤、政治、行政に圧力を加えるポピュリズム。音楽は誰のためのものか、深く考えさせられる。

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