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zusoさん
平均点: 6.24点 書評数: 197件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.157 5点 聚楽 太閤の錬金窟- 宇月原晴明 2023/08/16 22:18
戦国時代の日本に西洋のグノーシス思想と錬金術を持ち込みジャンヌ・ダルクとジル・ド・レの伝説まで結びつけてしまうという力技。
大胆で巧緻な奇想の限りを尽くした、異形の戦国絵巻が堪能できる伝奇巨編である。半村良の伝奇小説を愛する人に、特に強くおすすめしたい。

No.156 8点 ゴールデンスランバー- 伊坂幸太郎 2023/08/03 22:14
ケネディ大統領暗殺事件と酷似した首相暗殺事件が仙台市内で起きる。
無実にもかかわらず事件の犯人として追われる青柳雅春という青年が主人公だが、彼の視点から語られる話と交互に、かつて青柳の恋人だった樋口晴子の話が重要な副旋律として奏でられる。
青柳の友人や元同僚との過去のエピソードも交えつつ緻密に構成された物語は、最後に意外な結末を迎え感動する。

No.155 6点 百万のマルコ- 柳広司 2023/08/03 22:10
マルコ・ポーロがフビライ・ハーンに仕えた時の思い出を語る連作短編集。
負けが確実と思われたハーンとの賭けにどうやって勝ったのか、山の老人に捕まった時に何を言って逃れたのか、異国での難題をどう処理したのか。
ファンタジーと頓智話を合体させた趣の楽しい作品。

No.154 7点 invert 城塚翡翠倒叙集- 相沢沙呼 2023/07/20 22:23
「medium霊媒探偵城塚翡翠」の続編となる中短編集。
本作に収録された三編は、いずれも犯人の視点から犯行を描き、その後、翡翠が真相解明に乗り出すという倒叙ミステリ形式なのだが、これと霊媒探偵の相性が抜群に良い。読者は、犯人を見抜く霊媒の特殊能力と序盤から歩調を合わせて読み進められるのだ。
それ故に、各編で最終的に明かされる現実社会で通用する犯人特定のロジックに唸らされる。キャラクターとしての翡翠の造形にも磨きが掛かっておりパワーアップしている。

No.153 6点 震度0- 横山秀夫 2023/07/20 22:16
派手なアクションと無縁な会話劇ながら、警察組織に巣食う悪徳を鋭くえぐり出している。良心の呵責なきまま、無自覚に信念を曲げていく警察幹部たち。
このような悪意こそ、あらゆる腐敗の元凶と言えるのだろう。

No.152 6点 闇からの声- イーデン・フィルポッツ 2023/07/03 23:09
初めから事件の犯人は分かっているが物証はない。この犯人をどうやって尻尾を出させるか、それがこの物語の主眼となっている。
老練な名刑事だったリングローズは、刑事としてだけでなく人間としての豊富な経験と知識を武器に別人に成りすまし、犯人を罠にかけていく。その際に展開する心理戦がサスペンスフルで面白い。

No.151 5点 ドレス- 藤野可織 2023/07/03 23:05
八編を収めた短編集。やがて甲冑のようになる謎のアクセサリーが、恋人たちを引き裂く表題作など、視覚的な不気味さを引き継ぎつつ、五感そして認識へと言い知れぬ不穏ぶりを広げている。
白眉は「息子」。息子が消える話だ。だが消されるのは認識であり、記憶なのだ。

No.150 6点 教場- 長岡弘樹 2023/06/19 23:02
採用試験に合格した者が教育を受ける場所、警察学校。そこは人材育成の場であると同時に、適性のない人間を脱落させるふるいの役割も果たす。過酷な訓練で極度の緊張にさらされる生徒たちは、時に邪な考えをを抱いて行動する。それを冷静に見抜き、さりげなく問題を処理していくのが教官、風間公親だ。
規則罰則の厳しさ、教官たちの鬼っぷりに驚かされる一方、職務質問や水難救助といった特殊な授業内容に興味が湧く。ミステリとしてもある種のサバイバルものとしても読める。風間教官の心に残る名ゼリフも多い。

No.149 7点 湖底のまつり- 泡坂妻夫 2023/06/19 22:51
ダム湖でなければ成立しない小説であり、ダム湖が抱く物語性に目覚めさせられる。恋の痛手を癒すため、一人で東北にやってきた若い女性。川原に佇んでいたところ、急な増水によって流されてしまう。助けられ運ばれた先は、ほどなくしてダムに沈む運命にある集落だった。
読むうちに、多くの謎が浮かんでは沈むこの小説。ダム湖と自然湖の見分けがつかないのと同じように、ただ眺めていただけでは見分けのつかないものが世の中にはたくさんあることを、読み終わると痛感する。

No.148 8点 寝ぼけ署長- 山本周五郎 2023/06/06 22:42
時代小説作家の印象が強い山本周五郎の、現代を舞台にした珍しい警察小説。
とある警察署に赴任してきた五道三省は、言動の呑気さから「寝ぼけ署長」なる渾名を奉られる。だが実は、大変な切れ者なのだ。「不正や悪は、それを為すことがすでにその人間にとって、劫罰だ」と断じる五道は、罪を犯した者でもできる限り救おうとする。
謎解きの答えだけでなく、彼の深い考えも深く知りたくなる短編集だ。

No.147 6点 不意撃ち- 辻原登 2023/06/06 22:37
無事に定年を迎えた男に、ある密やかな欲望が芽生えて都会の中で隠棲を企む「月も隈なきは」、失踪した風俗嬢を追う男が、日常の間隙に広がるエロスの異空間に遭遇する「渡鹿野」、東北大震災の津波の映像をテレビで見ていて、「出番が来たん違う?」と犯罪へと走る「仮面」、他、現代の文豪が綴る全五編の作品集。
人生とは、運命の悪意による不意打ちなのか。悪夢小説に唸り、たじろぎ、悶々とする。

No.146 7点 ダ・ヴィンチ・コード- ダン・ブラウン 2023/05/18 23:08
シオン修道会とダ・ヴィンチをめぐる神学ミステリ。
警察の追跡を逃れながらの、ルーヴル内での暗号解説がスリル満点。ひとつが解明されると、また別の暗号が立ちふさがる。
ソニエールが命を懸けて守ろうとした「秘密」はキリスト教を根幹から揺るがすようなものだった。あの「最後の晩餐」にまつわるあっと驚く謎解きも出てきて、ページをめくる手が止まらなかった。

No.145 5点 ロング・ドッグ・バイ- 霞流一 2023/05/18 23:04
近所の公園で多発する不可解な出来事に小さな町は騒然。「彼ら」の目にしか映らない謎を解き明かすのは「彼ら」にしかない技能と拘り。
若い柴犬の依頼で、雑種の探偵「俺」は、プロ集団の手を借りて調査に乗り出した。
犬種の歴史や習性など、蘊蓄もたっぷりの犬目線のハードボイルド推理。

No.144 6点 ビブリア古書堂の事件手帖7- 三上延 2023/05/05 23:08
古書をめぐるシリーズの完結編で、今回は初の洋書、それもシェークスピア。当時の演劇や出版状況など詳細に語りながら、同時に栞子の家族の秘密(母親との冷めた関係。母と祖父の確執。祖父がはありめぐらした罠。)も解き明かしていく。
人生と古書の縁を繊細にリリカルに捉えた連作。スピンオフでもいいから続けてほしいものだ。

No.143 7点 三鬼 三島屋変調百物語四之続- 宮部みゆき 2023/05/05 23:04
江戸・神田にある袋物屋の三島屋では、姪のおちかが市井の人々から不思議な話・怪異な話を聞き集めている、変わり百物語のシリーズ第四弾。
今回は亡者が集う家や寒村に出る鬼など四編を収録。宮部怪談の特徴は、哀しみや切なさが残ること。怪異を生んだ人の心の闇を描き、それを主人公と周囲の人々の優しさで包み込む。だから悲しいだけでなく、ぬくもりがある。

No.142 6点 陽気なギャングは三つ数えろ - 伊坂幸太郎 2023/04/20 22:31
銀行強盗の四人組は、ハイエナ記者に付きまとわれる。更に当たり屋、痴漢冤罪などの災厄が続き、ある組織と対峙することに。悪徳記者と組織を敵に回して、どう危機を乗り越えるのか。
まず窮地に立たされ、打破していく手続きが周到。もっとサスペンスと波乱があればと思わないでもないが、まずまずのスリルが味わえる。
響野の饒舌と賑々しくカラフルでユーモラスな人物の共演、悪党たちと渡り合うゲームの展開は、洗練された犯罪コメディといえる。

No.141 7点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2023/04/20 22:26
初期の作風に近い甘美なエロスと死「白雨」、現実と夢の境界の綱渡り「冬薔薇」、目眩むようなどんでん返しの連続「蘭が枯れるまで」、深層意識がサスペンスを生む渾然たる「無人駅」、異様な設定とツイストのきいた巧妙な語り口の表題作「小さな異邦人」と作者らしい短編が並ぶ。
テーマは時効、交換殺人、誘拐、記憶などお馴染みだがプロットは先鋭的、それでいて作者らしい抒情をたたえ、どこまでも艶やかで、どこまでも狂おしく、どこまでもグルーヴに満ちていて陶然となる。このムード、悲しさ、切なさがたまらない。

No.140 6点 Aではない君と- 薬丸岳 2023/04/05 22:03
14歳の息子が同級生殺害の容疑で逮捕されるという衝撃的な事実を突き付けられる父親の葛藤を描いている。
加害者の家族に心理の中心が置かれることで深層の不安が刺激され、苦悶が共有される。頑なな少年の悲しみがあふれ出す後半は胸が熱くなった。

No.139 6点 躯体上の翼- 結城充考 2023/04/05 22:00
終末期の世界に、儚い逢瀬をのぞむ機械知性を捉えている。たそがれる世界の物憂い崩壊感とロマンティシズムが絡み合い、SFでしか描けない切なさが心に沁みる。

No.138 5点 星を撃ち落とす- 友桐夏 2023/03/21 22:23
少女たち語る事件という物語と少女たち自身の内面とが密接に結びつき、真実と偽りが区別されることもない。そのために、深い謎に陥っていくような倒錯的ともいえるような魅力にあふれている。読み進めるごとに、それまでの世界観が目まぐるしく変化するさまが美しい。

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