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クリスティ再読さん
平均点: 6.42点 書評数: 1256件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1176 6点 殺しあい- ドナルド・E・ウェストレイク 2023/10/06 21:38
ウェストレイクの初期って「ハメットの再来」とか持ち上げすぎたのが負担だったのか、あっさりとユーモア犯罪小説・悪党パーカー・刑事くずれと早々に路線分化してしまう。本作とか改めて読んで「そりゃ、60年代にはもうハードボイルドって難しいんだよね...」という気分になることからも、そもそも「ハメット路線」は続くわけなかったんだろう。

本作ってクライマックスを除くと「赤い収穫」みたいにガンガン人が死ぬ小説じゃないんだよね。どっちかいえば雰囲気は「ガラスの鍵」に近い。「ずんぐり」と評される主人公は、オプを意識しているんだろうけど、雇われてポイズンヴィルに赴いたオプと違い、本作の主人公、私立探偵ティムは街に根付いた生活をするジモティーな生活者であり、自分の生活(ともちろん生命)を守るために策謀した結果、街を破壊するレベルの大惨事を煽ることになるわけだ。ポイズンヴィルの毒にアテられて「狂った」オプはそれでも(アンチ)ヒーローなんだが、本作のティムはヒーローというよりも、単に「自分の身を守ろうと」して、暴動の火をつけるハメに陥ってしまう。大惨事には主人公だって立ちすくむさ。爽快感、とはいかないよ。

本作の事件のきっかけとなったのは「市政浄化連盟」という「正義」の団体。いやはや、評者もこのところ「社会正義」を振り回す連中に多大な迷惑を被っていたりもすることから、他人事じゃない(苦笑)それこそマフィア未満なイタリア系移民たちを扇動して...とかとしてみたいよ(泣)

No.1175 6点 来訪者- ロアルド・ダール 2023/10/06 21:18
男女の闘争譚がダールの一大テーマだ、ということを「あなたに似た人」「キス・キス」で評者は書いたわけだが、それに続くこの短編集では、この男女の闘争が艶笑譚に変貌してくる....まあいいけどさあ。
なので、意外なオチはしっかりとキメてくれるけど、ミステリ、というほどのものではないな。「来訪者」「雌犬」はオズワルド叔父シリーズで、ホラ男爵のような性の冒険家であるオズワルド叔父の自叙伝から、という体裁で語られる話。

いや本当に落語みたいな洒脱な語り口にやられる。落語家が「マクラ」としていろいろ導入を苦心惨憺するわけだが、こんな感じでオズワルド叔父のエピソードをいろいろ語っていく。うん、短編小説としてはけして「模範となる」ような書き方じゃないわけだけど、これで通用するのがダールの魔術、というものだろうな。いや本当に話が意外な方向に転がっていって、先が読めない。初見殺しとかそういう言い方をしたいくらい。


一応悲劇な「やり残したこと」は、オトコのダメさ加減がヒドいもの...だから艶笑、といっても深刻な男女闘争なんだけども、この深刻さは離れてみれば「バカなもの」でしかないのが、ダールのシニカルな部分のようにも感じる。

No.1174 7点 一角獣・多角獣(異色作家短篇集)- シオドア・スタージョン 2023/10/04 18:07
異色作家は評者も好物だから、シリーズやってきたいとは思ってる。
でスタージョン。クイーンの「盤面の敵」のライターとして本サイトでは「有名」かも(苦笑)。「人間以上」はSFの大名作で有名だけど、いや意外にこの人、長編少ないんだな。即物的吸血鬼小説の「きみの血を」はポケミスで紹介されたから、以前評者も評している。
で「奇妙な味」を大々的に紹介した「異色作家短編集」の一つでスタージョンも取り上げられている。どうやらこの本は日本の独自編集のようだ。メルヘンあり、SFあり、ホラーあり、恋愛あり、奇談あり、とジャンルで見たら統一感がない...と見たら全然違う。「テーマ」が一貫しているんだね。器用だけど不器用な、とでも言いたくなるくらいに、扱いに困るところがある。「孤独な魂に送られてくるメッセージ」と法月倫太郎氏が評したのが有名だけど、「自他の境界」がクズグズと崩れていくような、奇妙な崩壊感覚を評者はどの作品でも強く感じる。
なので読んでいて「怖い」短編集だった。「人間以上」も実は「ホモ・ゲシュタルト(集合人)」として、ピーキーな能力しかない超能力者たち(他の能力は人並み以下)が集って全体として「人間」を超える話だったわけで、「自分が自分である」自我の壁が崩壊していくことに、恐怖とともに解放を感じるという「危うい」部分がこのスタージョンらしさ、というものなのだと思う。そういう意味だとね、エヴァンゲリオンの人類補完計画ってスタージョンのパクリなんだろうな。
まあだから、どの短編もこの変奏といえばそうで、これを「泣ける話」にもっていけば「孤独な円盤」だし、SFで理屈をつければ「シジジイ」の話になってくる。ミステリ風の「死ね、名演奏家、死ね」だって、ジャズバンドという「ホモ・ゲシュタルト」の話なのである。
(けど「一角獣・多角獣」って名タイトルだと思う...)

No.1173 5点 判事への手紙- ジョルジュ・シムノン 2023/10/03 00:53
シメノン選集もあと少し。奮発して古書で購入。
この「判事」、エルネスト・コメリヨー予審判事だから、メグレシリーズでお馴染みのあの人かしら。でも小説はコメリヨー判事が予審を担当した殺人犯、アラボワーヌ医師が書く宛先であり、アラボワーヌの目で断片的に僅かに描かれる程度。
このアラボワーヌ医師は、周囲も納得しないようなよくわからない理由で誰かを殺し...だけど、一人称手紙文だから、具体的な事件が小説終盤になるまでわからない。田舎町で開業した医師で、死没した前妻との間に二人の女の子・母が健在で、アルマンドという妻がいる。この医師の人生を丹念に描いていく。
シムノンだと「強い女性に支配される男」というのは本当に頻出パターン。本作のアルマンドも「アラボワーヌ医師の人生のプロデューサー」みたいな強い女性。医師はふとしたきっかけで拾った女性、マルティーヌとの情事に溺れ...殺人事件が予告されて「犯行以前」みたいな格好で手紙が進行していくのだけども、何がどうなるのか、終盤に至るまでまったく予断を許さない。
で、犯罪心理小説か、というとシムノンなので心理の不透明感が強くて、「愛の不条理」とか純文学的な本格心理小説という側面の方が強いな。グレアム・グリーンの「情事の終り」あたりと近い小説。ややサディズムのような描写もある。温厚な田舎医師なんだけどもねえ。
シムノンとしては長めの小説になると思うよ。ガチガチの心理主義だからヘヴィ。「ミステリの形式」は借りただけで、狙いは「ミステリの動機」からは大幅に逸脱している。やや晦渋になりすぎたと本作を反省し、リライトして「可愛い悪魔」になったんじゃないかな。あっちのが小説としてうまく処理されている。
(思うが、この殺人の動機って一番近いのは「彼らは廃馬を撃つ」な気がする)

No.1172 7点 誰の死体?- ドロシー・L・セイヤーズ 2023/10/01 11:47
セイヤーズのデビュー作。もちろんピーター卿も初のお目見え。
「毒」以降で結構変化がある、という話を聞いてはいたけど、最初からピーター卿のキャラはしっかり確立されていて、小説としての読み応えがあるのにびっくりするほど。第一作からスゴいな。
キャラ小説とかコージーとか言っちゃえばそうかもしれない。パズラーとしては小粒、といえばそうかもしれない。

いや、別に。僕にとっては趣味だからね。何もかもいやになっていた時に、ものすごくわくわくできるんで始めたんだ。一番困るのは―あるところまでは―楽しめることさ。(中略)ところが生身の人間を本気で追いつめて縛り首にさせる段になると(略)どんな言い訳があっても僕なんぞが割りこむんだって気にさせる。

英国ミステリのアマチュアリズムってあるんだけど、それを「設定」ではなくて本音を混ぜ込んだ「強がり」としてピーター卿に語らせて、さらにピーター卿が真相を洞察した時点で戦争神経症を発症して一時リタイア。これ「正義」の心理的なコスト、といったことを思い浮かばせて大変興味深い。正義って実は精神的にツラいものなんだ。この「それでも」の部分で、評者なんかは「パズラー(の精神)が生成してくるまさに現場」に立ち会っているかのようにさえ感じた。
前半のウッドハウス風のピーター卿の「軽薄さ」も実のところ、内心の脆弱さを隠すための韜晦にすぎないんだよね。だからこそ、クライマックスに当たる真犯人との対決シーンが、こんな動揺を切り抜けたピーター卿の「内心の冒険」として趣き深く感じるんだろうな。

あとトリック自体はリアルなものだが、絶対に日本のマニアにはウケないもの。セイヤーズってホントそういうタイプだね。松本清張と同じで、トリックメーカーなんだけどトリッキーじゃないから、マニア受けしないんだよ。

No.1171 8点 日本探偵小説全集(5)浜尾四郎集- 浜尾四郎 2023/09/22 14:00
「殺人鬼」というと中学生の頃に桃源社の単行本を図書館で借りて読んだんだなあ....やたらと懐かしい。70年代の「異端文学」ブームの中で、評者みたいなガキでも乱歩・正史から始まっていろいろ耽読していたわけで、親は心配した?のかもしれんがねえ(苦笑)

でまあまずは「殺人鬼」。改めて読み直すと、やはり戦前の「グリーン家ショック」と呼ぶべきものが、いかに凄かったかというのを彷彿とする。ブルジョア家庭内で起きる連続殺人が暴き出す家系の旧悪と因縁。悪鬼のような真犯人は家族の一員か?それを解き明かす立役者としての名探偵....こんな構図が、戦前の日本での好みにハマって、今に至るまで「ニッポンのミステリ」を呪縛し続けていると思うと、やはりちょっとした感慨めいたものも感じてしまう。洋館やら音楽趣味やら「モダン」を前面に打ち出して、「浴槽の花嫁」みたいな海外実話と海外ミステリのブッキッシュな興味もしっかりと。評者だと(それなりの)中二病が合わさって、しっかりミステリにハマったものなんだよね(苦笑)
もちろん内容的にはしっかり・手堅く書かれたパズラーのわけで、逆に言えば「グリーン家」がパズラーとしてはわりといい加減なところを勘案すれば、ここまで「一生懸命論理的なパズラーを実現しようとしている」あたり、結構感動するものがあるんだ。「黒死館」はもちろんグリーン家の「魔改造」だったわけだけど、本作の粘着質なまでの論理性も、充分魔改造のうちだと思う。
評者パズラーの評価基準で、「探偵がどの情報で真犯人を指摘できるようになったのか?」というのは大事なことだと思っているんだ。小説の最初から「名探偵は真犯人をお見通し」といった態度を取られると、実は評者はシラケる。本作あたり「意外なくらいに名探偵じゃない」藤枝真太郎は試行錯誤しながら時には事件の意外な展開に翻弄され、迷路に入りながら、それでも最後には正しく事件を再評価して真犯人を指摘することになる。この紆余曲折のプロセスを丁寧に描いているのを評者は評価したい。

創元のこの全集に収録した他の短編でも窺われるのだけど、作者は法律家で法律を逆用したような犯罪計画をいろいろ紹介していて、法と正義に対する実務家らしい穏当な範囲での懐疑を持っている。だからこそ「神のごとき名探偵」というものに、最初から懐疑的だったんだろう。実話並みのリアルで皮肉な真相やら「プロビバリティの犯罪」やら、そういう「法と悪意」を巡る短編は興味深いけど、小説としては「殺された天一坊」と「途上の犯人」以外は、あまり完成度が高くない。小説家としては「小説が上手ではない」人だか、その分篤実に書いているのが「殺人鬼」は成功している。でも短編は切れ味が鈍い。それでも「殺された天一坊」は政治家大岡越前の「法と正義」を巡って、ミステリをはみ出す興趣があって世評通り短編のベスト。
「途上の犯人」は作者と目される弁護士兼作家が、汽車で出会った男の「プロビバリティの殺人」に関する告白を聞いて、それを助長したのは自分ではないかと自責する話。だから「グリーン家ショック」の如実な「殺人鬼」であっても、単純に「先駆的なパズラー」として片づけられないような陰影感が出てると見るのは、やや評者がひいき目に見過ぎている、のかな。
8点はちょっとヒイキな点だと思う(苦笑)

No.1170 4点 ルパン危機一髪- 南洋一郎 2023/09/19 14:43
この本困るんだよね。ボア&ナルの贋作ルパンシリーズ最終作「アルセーヌ・ルパンの誓い」なんだけど、日本では大人向け完訳が出ておらず、南洋一郎のリライトによるポプラ社児童向けしか出ていない(しかも入手は古書のみ)。
本サイト的に厄介なのは、本のカバーの著者は「南洋一郎」の名前だけ。一応6ページ目にボア&ナルの原著作権の表示はある。奥付では「訳者 南洋一郎」だけの表記。そのくせ、最終ページの「怪盗ルパン全集」の総目録では「26~30はボアロー・ナルスジャックの原作です」と断り書きあり。「はじめに」では「モーリス=ルブランのメモをもとにして、ボアローとナルスジャックがまとめた第五作目になります」と「公式設定」をそのまま記載。

まあ「えいや!」で南洋一郎で扱おう。そう思うのは、意外にルパン自身の恋愛に淡白なボア&ナル・ルパンなんだけども、本作では「たぶん」子を想う母でもあるヒロインへのルパンの恋愛感情がしっかりと描かれていたんだろう....だって、南洋一郎先生、児童向けでは平気で恋愛描写をカットする方だからね。いや実際、この真相ってルパン自身のガチ恋愛色なしに成立しづらいもののように思うんだ。「南洋一郎作品」の方に振りたくなるのはそういうあたり。

爆弾質問を控えた野党政治家がエレベーター内で殺害された!ルノルマン刑事部長はそんな政界がらみの事件に出馬。元部下の私立探偵に殺された政治家が依頼していたのが判明するが、その私立探偵も殺さているのが発見される。さらに政治家の秘書も何か秘密を掴んでおり、ルノルマンの助けを求めるが間に合わず、その秘書も密室で殺された...秘書が隠していた豪華な煙草入れの謎は?政治家夫人の愛人の若き母にルパンは恋を?

本作のルパンは「813」で活躍したルノルマン刑事部長。一瞬レニーヌ公爵になるけど、ほとんど「俺はホントはルパンなんだけど...」状態でルノルマンをずっとしている。警察官の部下(「813」で殉職したグレル刑事がお供)と、ルパン自身の配下と両方使っていて、あと紆余曲折のミスディレクションで推理が右往左往するから、感覚は「警察小説」。密室の謎は残念ながら大した内容ではない。

そんな感じ。南洋一郎も何か覇気がなくて、やっつけ仕事っぽい。本作が遺作になったそうだ。ボア&ナル的にもどうも締らないシリーズ最終作みたいにも感じる。この贋作ルパン、やはり「ウネルヴィル城館の秘密」が入手性もいいしベストかな。個人的には「百億フランの炎」も捨てがたいが。(「贋作アルセーヌ・ルパン」で検索するといいですよ)

No.1169 5点 陸橋殺人事件- ロナルド・A・ノックス 2023/09/16 12:06
「推理小説ファンが最後に行きつく作品」と作品紹介で書かれるような作品....というのは、ちょっとばかり「ウラ」がある。確かにミステリって「遊戯性」が大事であり、評者もそういう「遊戯性」を否定するなんて野暮なことだと思ってる。しかしこの遊戯性を突き詰めちゃうと、実のところパロディになってしまうから、意外にパロディでありミステリとしてもナイス、という作品が結構あるんだね。いやだから、本作はお気楽なイギリス紳士階級の「お楽しみ」としての、シャレのめしたパロディ・ミステリとして、1925年なんてまだ「ミステリの確立期」に出ちゃった問題作だったりするのだ。
四人組の探偵はゴルフ場のカントリークラブに居住するゴルフ仲間。教区の世話そっちのけのゴルフ狂の牧師、脱線ばかりの大学教授、元情報部員(笑)な遊び人、正体不明の男、とこのトンチンカンな四人組が、ゴルフのプレー中に見つけた死体の死の真相を巡って議論し冒険し...という話。
だからはっきり言ってオキラクゴクラク。あまり真面目に取り合ってはいけない話、というのをまず強調しないといけないんだろう。だから4人の推理は迷走に迷走を極めて、最後は当然「教訓」を得ちゃう。でも時刻表が載っていたりして「時刻表ミステリ」。いやしっかり時刻表ベースの推理が披露されたりするからねえ。
まあだから本作、ミステリの系譜と同時に、イギリスのユーモア小説の系譜にしっかり連なっている作品だと思うのがいいようにも感じる。ウッドハウスとか「ボートの三人男」とかね。クライマックス?の章が「ゴードン、哲学談議で慰める」であり、これに「読者へ―この小説が長すぎて退屈したときは、本章は省いてもよろしい」と原注がついているようなものである。
お笑いには確実に自らを笑う「メタ」が含まれているんだよ。

No.1168 5点 毒のたわむれ- ジョン・ディクスン・カー 2023/09/14 03:19
バンコラン物番外編みたいな本作だから、語り手のジェフ・マールくんは「バンコランがいてくれたら...」なんてよくボヤく。しかし、舞台は花の巴里じゃなくて、アメリカ・ニューイングランドのどこか(っぽい)。今更ながらカーはイギリス人じゃなくてアメリカ人だということを想起させる。
旧家の狭い家族関係の中で毒殺(未遂を含み)が連続することで、家族が疑心暗鬼に駆られて...という設定から、評者はクリスティの「ねじれた家」とか「無実はさいなむ」といった作品をどうしても連想してしまう。前半そんな陰鬱な雰囲気が素敵なんだよね。「毒殺」というのは、どこに何が入っているかわからない、という面で、実はかなり「怖い」ものなんだ。この「毒の怖さ」と家族の誰かが殺人者の「怖さ」が、結構よく出ていると思う。
けどまあ、後半は話が動かなくなって退屈する...と思ったら超展開みたいな事件も起きて??となるし、納得度の低い心理学的動機とか、無理して作った探偵像とか、後半になってまとまりを欠いてしまうのが大きな問題。クリスティのように「事件で解体する家族のドラマ」がしっかり描かれるというものでもないしなあ。
「残念な作品」でいいと思う。
(そういえば、「魔女の隠れ家」で、ロンドン警視庁の「ロシター総監」への言及がチラっと出る。カー的にはブリッジ的な作品なんだけど、前後に少しづつ重なり合っているわけだね)

No.1167 6点 魔女の隠れ家- ジョン・ディクスン・カー 2023/09/11 15:49
バンコランものはもちろん豪華絢爛系怪奇スリラーだし、「プレーグコート」もゴチャゴチャしすぎだし、とカーって胃もたれしやすい作家...
でも、フェル博士第一作の本作はというと、ラブロマンスと怪奇、それに執事のバッジくんやらフェル夫妻が醸し出すユーモア感がバランスが取れていて、同時期の他作品と比べ圧倒的にリーダビリティがいい。いや、カーもそろそろ肩の力が抜けた来たんだな(苦笑)

で、事件も本筋は結構シンプル。トリックも王道。ちょっとした手違いがフーダニットに結びつくあたり、やはり本作がカーのターニングポイントになっているのは間違いのないところだろう。
難をいえば、事件が小ぶりで地味。被害者の描写が少ないから、被害者の性格が真相での「動き方」を説明をするに、やや説明不足になっているあたりかなあ。
本作で初めてカーもスタティックな「パズラー」というものをしっかりと意識するようになった、と見るのが穏当なあたりじゃないのかしら。本作を「第二のデビュー作」と捉えるべきだ。6点つけたけど、ご祝儀込み。

(いやフェル夫人、のちの作品でも言及はあるけど、本作はしっかりとキャラがある。意外にキャラ好きだから、本作だけで事実上退場しているのは何かもったいない)

No.1166 7点 地下洞- アンドリュウ・ガーヴ 2023/09/02 11:52
皆さん口を揃えるように仰る「ガーヴの怪作」。

う~ん、こう来るか(苦笑)

確かに「何で?」な伏線はあるんだよ。三題噺みたいな強引さも感じなくはないけども、偶然発見した鍾乳洞という「非日常」の舞台設定が、そういう「?」をうまく打ち消して、さらには中盤のガーヴらしい達者なメロドラマにノセられて、ついつい読んじゃう「悪質な」作品(苦笑)。「このぉ!」とかキョーガクの真相に対して言いたくなる。

ちょいと連想するのは、ブラックバーンだったりする。でも両方とも「イギリスのスリラー」という面じゃ、同じジャンルだ。「トンデモ・スリラー」、でもウェルメイドというのが、実に「イギリス印」なのかもしれないや。

いやいや、客観的にはよく書けていると思うけども、ネタが...という奴。でもこういうの「好き」という読者は、確実に存在するわけ。それこそ「まあ、読んでみなって」とか言って、ヒトに勧めて困惑する様を楽しんだりしたくなるような...というと評者もずいぶん、人が悪い。

No.1165 6点 四つの兇器- ジョン・ディクスン・カー 2023/08/29 14:49
評者、探偵役としてバンコランって好きなタイプなんだよね。悪魔的なダークヒーローっていいじゃない?さらにベルエポックのパリで、キャバレーやら秘密クラブやら「頽廃の巴里」といった舞台を、怪奇色豊かに描いたのが、初期の4作になるわけだ。これを「本格ミステリとしてはいかがなものか?」と評するのは、いささか方向違いのようにも感じていた。「妖女の隠れ家」でカーはパズラーに方向転換したんだよ。

とはいえ「バンコラン最後の事件」である本作は、そういう初期の「頽廃的な怪奇ミステリ」のカラーがあまり再現できてなくって、チェスタートンの「三つの凶器」に張り合う「多すぎる凶器の謎」を巡る話になる。元ネタがうまく逆説を絡めてキレイに「多すぎる凶器の謎」を説明したのに対して、カーらしいというのか「ごちゃごちゃと偶然と計算違いが重なった真相」になってしまう。うん、まあこれがカーと言えばカーなんだけども(苦笑)

引退したバンコランも「かかし」と呼ばれるくらいに颯爽としたところがない...けども、中盤で3章使って中間決算みたいに状況を整理するあたりは、カーらしさはある。まあ、バンコランだとそもそもこういう「中間説明」が駆け引きだったりするから、真に受けちゃいけないんだけどもね。で、終盤は秘密カジノでの大勝負の話になって、これはこれで面白い。この話のフリ具合って、後期の歴史ミステリの味わいに近いようにも感じる。

うん、バンコランものってファンタジー増しマシな時代劇なんだよ。

No.1164 6点 メグレとリラの女- ジョルジュ・シムノン 2023/08/22 09:35
メグレ、ヴィシー温泉に湯治に行く。
ヨーロッパだとお風呂に入るわけじゃなっくて「飲む」のが温泉利用の中心のようだ。タルコフスキーの「ノスタルジア」が温泉地が舞台で、屋外プールみたいなのに水着で入っていたけど、日本の温泉とは大きく違うのが面白い。
過労と歳で何となく体調が悪いメグレのために、医者は2種類の源泉を毎日飲むように処方される。こんな利用法らしい。もちろんメグレ夫人と...でもメグレだから事件も追っかけてくる。
湯治場で出会う、特徴的なファッションにより「リラの女」とメグレが秘かに読んでいた中年女性が自分が経営する下宿で絞殺された!ヴィシーを管轄するルクール警視はメグレの旧部下。殺された女性の不思議な佇まいに関心があったメグレは、ルクールに乞われて事件に関わる...この殺された女性の過去とは一体?

こんな話。だから湯治と捜査が並行するようなもので、普段以上にメグレ夫人の出番も多い。旅先のクセに、ほのぼのアットホームな雰囲気が漂う。メグレはアウェイな事件は多いけど、温泉町でも皆メグレを知っていて、リスペクトされているのが、さらに「ゆるめ」の雰囲気を醸し出している。
ミステリとしては..うん、とっても気の毒な犯人。それなりにミスディレクション風の仕掛けもあるんだが、その仕掛けと被害者の「自立した女性像」とミスマッチしている感が強くて、何かね~という印象もある。

まあだけどさ、こういうのはシリーズものでしかできない世界でもあるよ。メグレというシリーズを続けてきたご褒美みたいな作品と思うのがいいんじゃないかな。
(tider-tiger さんもご指摘だけど、訳者伊東守男氏による解説がなかなかヒドい。いやさあ、こういうシリーズものによって、読者とキャラとの間の継続的で親密な関係性を築いてきたことで、はじめて立ち現れる「空気感」というというか、個人を越えた集合的な「世界」もあるとと思う。単発の「作品主義」も、読者と作者が一対一で対峙する「作家主義」も文芸創作のすべてではないし、ジャンル小説としてのジャンルと作者の相克など、エンタメが持つ「文芸論的な論点」というのも非常に興味深いものだと評者は思っているよ)

No.1163 7点 十二人の評決- レイモンド・ポストゲート 2023/08/20 00:38
このポケミス、本当に例外的な本だったりする。
同じ作品なのに、二重に番号が振られたんだよね。たしかにハヤカワ、改訳はするんだけど、ポケミス→文庫で改訳されることが多いから、ポケミスに二重に番号が振られることはない。昔ポケミスの上で改訳したケースが「幻の女」「ユダの窓」「時の娘」「災厄の町」などあるけど、番号同じで改訳されている。本作はNo.179(黒沼健訳 1954)→No.1684(宇野輝雄訳 1999)と番号を変えて改訳された珍しい例になる。

そんなこともあって、旧訳の江戸川乱歩の解説も同時収録。実はこの乱歩の解説を読むと??となる部分もあるのだ。いや、本作、いかにも乱歩が好きそうな作品でもある。第二部「事件」の、少年と伯母の確執を「奇妙な味」と捉えているのもそうだし、第一部「陪審」では、かつて完全犯罪を達成した女性がこの裁判の陪審に選ばれる趣向がトップで語られて、こんな皮肉な話も乱歩は好きそうだ。
しかし乱歩は本作を「英新本格派」と捉えている。実際には合理的な推理で解決される作品でも何でもない本作、である。本作はかなりエキセントリックなキャラの相克や確執を辛辣に描いたあたりに面白味があるんだが、別に意外な真相でも何でもなければ、最後に告白で真相が語られるだけ。おおよそ「本格」という概念からは外れた作品だとするのが適切だろう。

まあ確かにイネスやらアリンガムやらクリスピンやら、どこまで「本格」と呼んでいいのか?と思う部分もある。しっかり割り切れるスタティックな「パズラー」というよりも、ダイナミックに話が転がっていくあたりに評者は特徴と魅力を感じるんだがなあ...そう考えてみると、乱歩ですら「本格」概念をかなり恣意的に使っているようにも思われる。実際にはイギリスではアメリカで発祥した「パズラー」はあまりしっかりと定着せず、イギリス固有の「スリラー」と習合して独特の「渋み」のあるこういった作品が書かれて行った、と概観する方が評者は納得できる。

(あと言うと、旧訳の訳者の黒沼健氏って、初期のポケミスだと乱歩肝煎りの大名作の訳者として活躍したのだけど、すべて早いうちに改訳になっている。いや読んだ限りたとえば西田政治や村崎敏郎みたいに悪評が高い訳者、という印象はないんだがなあ...それでも協会では理事していたり、1985年没で長生きした方でもある。何か大人な事情があるのでは?とも思われるのだが、どなたかご存知の方がいらっしゃらないかしら)
後記:弾十六さまよりご示唆を頂きました。掲示板 No.35098「黒沼健さんの謎について」をご参照ください。ありがとうございました。

No.1162 6点 死が二人を- エド・マクベイン 2023/08/16 20:46
今日はキャレラの妹アンジェラの結婚式!その朝キャレラは花婿のトミイからの電話にたたき起こされた。トミイの元に送られた小包の中には猛毒の黒後家蜘蛛が....この日、トミイを狙ったと思しい怪事件が次々と起きていく。キャレラは参列者にコットンとクリングを混ぜてトミイの警護に当たらせた。トミイを恨む元戦友がいるらしいので、その捜査をマイヤーに頼んだ...結婚式は無事に終わるのか?

という話。だからシリーズ内でもかなりの変化球。キャレラのプライベートの描写が多いから「日常回」といった印象。「何が起きるのか」というスリラー的な興味で引っ張るので、「謎解き」的側面はほとんどない作品。

でなんだけど、これたとえば「真昼の決闘」とか「終着駅」「十二人の怒れる男」といった、いわゆる「リアルタイム劇」、劇中時間と上演時間とが一致して展開する映画や演劇を意識して模した作品みたいだ。小説だから厳密にどうこうじゃないけども、時間経過を飛ばしたいときには、同時進行のたとえばマイヤーの捜査に話を振り、あるいはキャレラの父親の視点に振ったりとか、そんな振り合いで小説が進行していく。「ドキュメンタリタッチ」とか言っているが、そういう叙述技法である。

まあでも評者、日常回が好きなタイプでもある。面白く読めた。
あ、ちなみにラストでは、キャレラの妻ティディが双子をご出産。おめでとうございます。

No.1161 5点 落ちる男- マーク・サドラー 2023/08/15 18:53
論じにくい作品。ダン・フォーチュンの「恐怖の掟」なら、ハメット的なリアリズムで「今」なストリート感覚を出そうとしたという狙いがわかるんだが、ポール・ショウは狙いが判りにくいよ。風俗的背景に左派のヒッピーコミューンがあるから、フォーチュンよりもハイソな話。
三人でやっている探偵社の2番手、元俳優で成功した女優の妻あり。そりゃ「いそう」という面でリアルなんだけども、「その後のハードボイルド・ディック」という風なことを考えた時に、たとえば「影なき男」のチャールズ夫妻、あるいはリンダと結婚後のマーロウ、というあたりを、オマージュ的にならずに響かせているとみるのがいいのかなあ。一見ハードボイルドな探偵なんだけど、自らの夢と成功した妻との関係など、ちょっとした「危機」にある男の話だと評者は読んだんだ。

まあ舞台設定からしてひねってある。自分の事務所に空き巣していた男を突き飛ばしたら、窓から落ちて死んでしまう...でも、なぜそんな侵入事件を起こしたのだこの男!
これがとっかかりの謎であり、自ら「殺してしまった」男の死の真相を明らかにしなければ、どうしても寝覚めの悪い話である。でテーマはやはりショウ自身が抱える「男の夢」といったものが、被害者にも、犯人にも、通底するといった話になってくる。
いやだからこそ、ショウ自身も自身が抱える果たせない夢が、妻との関係とのキーにもなっていて、そういう屈折をまあ、ハードボイルドなので声高に語らない矜持で描いているあたりがポイントなのかな。
けど地味な事件だし、あまり翻訳が読みやすくない。あれ?となるところが何箇所かあった。
まあでも、フォーチュン(マイクル・コリンズ)、ブエナビスタ(ジョン・クロウ)と並んで同一作者別主人公読み比べとかしてもいいのかもね。

No.1160 6点 ローズマリーの赤ちゃん- アイラ・レヴィン 2023/08/13 16:56
「モダンホラー」って何?って正面切って問われると困っちゃうのだが、お約束要素の解体と再構成、といったあたりで捉えるしかないのか、とか思う。
本作、ニューヨークのそこそこ売れている俳優夫妻による、演劇界を中心としたスノッブ日常話に、するりと悪魔崇拝が紛れこんでくる話、と見るのはどうなんだろうか。だから、ホラーかというと、ホラー部分は縦横に張り巡らされた伏線みたいなもの。最後にそれらが繋がって...なんだが、主人公ローズマリーが真相を知って「恐怖のどん底に落とされる」かというと、そうでもないアイロニカルな結末になる。
以前「死の接吻」を「編集感覚」って評者は評したけど、この「怖い」のか「怖くない」のか微妙な匙加減に、作者のクレバーな「抜き差し」の感覚を味わうべきなんだろう。

いやさ、すべてが周産期のローズマリーの妄想だってよかったんだよ。そう思わせるあたりが実は「モダン」な持ち味で、かつ、ある種「奇妙な味」に近い味わいなんだろう。

(余談だが、ローズマリーの夫ガイが、結婚前にパイパー・ローリーと付き合っていた、というのが面白い。キング原作の「キャリー」のお母さんで、「ツインピークス」でゴールデングローブ賞もらっている、「ホラーな女優」さん。キングの「シャイニング」も映画はホラーというより、病んだニコルソンの自滅話とも読める...そのキューブリックも本作名前だけ出る。そんな「ホラー」のネットワークの話なら、また別な面白みもあるのかも)

No.1159 6点 鬼警部アイアンサイド 交錯の銃弾- I・G・ネイマン/W・ミラー 2023/08/01 10:05
パトカーのサイレンを模したクインシー・ジョーンズのテーマ曲も有名だけど、何か気分転換に読みたくなった。そういえば「刑事コロンボ」とほぼ同時期なんだよね。だからTV放送当時にはコロンボ同様にノベライゼーションが出版されていたのが懐かしい。これがノベライゼーションの1作目。
(Amazonにないみたいなので書誌補足。グロービジョン出版の新書本・昭和50年1月29日初版・訳者は梶龍雄で見返しに氷川瓏の推薦文)

今時は一応設定の説明が必要かな。ペリー・メイスンを演じて人気絶頂だったレイモンド・バーのもう一つの当り役で、サンフランシスコ市警の敏腕刑事部長だったアイアンサイドは、卑劣な犯罪者に撃たれて半身不随の身になった。不屈のアイアンサイドは車椅子を駆って「嘱託警部」の立場で3人の部下を与えられて、再び犯罪に戦いを挑んだ!

ペリー・メイスンの頃からすれば随分太っていて、車椅子に乗ったアイアンサイドに映像的な説得力があるんだね。腕っぷしはそれでも鍛えて強いから、車椅子のままでもみ合いを制するとか、そんな描写もあるけども安楽椅子探偵風の「推理」も大事な作品。

でこのノベライゼーションでは、部下として可愛がっていた刑事が射殺死体で見つかった。その家には不審な札束が...暗黒街の大物を標的とした捜査に携わっていたことから、汚職容疑が死んだ刑事にかかる。それに憤ったアイアンサイドは、ハイソ雑誌出版社社長の妻が殺された事件とのつながりを探り出す。刑事はこの社長の愛人だった女性と結婚を考えていた...刑事殺しと社長夫人殺しはどうつながるか?暗黒街の大物の役割は?

というあたりの興味の作品。アリバイ工作にちょっとしたミスディレクションが仕込んであって、リアルな仕掛けだけどミステリとしてもナイスだと思うよ。そういやマクベインがシナリオに関わってた話もあるそうだ。

そのうちジム・トンプスンが書いた新作もやろうかな。

No.1158 7点 ルパン、100億フランの炎- ボアロー&ナルスジャック 2023/07/30 11:44
さてボア&ナル贋作ルパン4作目は入手困難なこの本。出版事情などは人並さんのご講評に譲ります。

シリーズでも出来のいい作品だと思う。「ウネルヴィル城館」と双璧かな。「ウネルヴィル城館」が「続々813」みたいな真面目な続編調だったのと比較すると、4作目というのもあって「ボア&ナル流のルパン」として完成している。「水晶の栓」がそうなんだけども、今回もなかなか敵が手強い。そして連続殺人自体に、ボア&ナルらしいミスディレクションが混ざっていて、さらにそれが敵との駆け引きのネタになって、ルパンが連続してしてやられたりする。スーパーヒーローとはいかないあたりがどっちか言えば評者は好き。

こんな逆転・再逆転の面白さと、ルパンも最後まで見抜くのが難しかった敵の狙いなど、上出来作なのは間違いないや。もちろんルパンだからヒロインを巡って一肌脱いだり、巨額のお宝を目にしながらそれを「盗む」のを拒んだりと、ルパンの義侠心がボア&ナルが憧れた「ルパンのヒーロー性」なんだよね、としっかりと腑に落ちる。
だから本作だと本家では避けているような、リアルな第一次大戦戦後描写などあったりして、ボア&ナルの狙いが「リアルなルパン像」といったあたりに向いているとも思うんだよ。そこらへんの面白さを評者は感じたな。

(でもシリーズ最終作の5作目は、完訳がなくてポプラ社「ルパン危機一髪」。乗りかかった船だもの...)

No.1157 7点 殺人は広告する- ドロシー・L・セイヤーズ 2023/07/29 14:47
本作嫌い、という人の声もわかるんだよ。
実際、これパズラーじゃなくて、スリラーだしね。広告業界の内幕話をふんだんにちりばめて、時代の花形で浮ついた(評者ならホイチョイとかね)ギョーカイのギョーカイ人の生態を、軽妙でブンガク的な引用過多の洒落(過ぎた)会話で綴りつつも、麻薬取引と殺人を絡めて描いた大作...
まあ今回、階段から落ちて亡くなった社員の死の真相と裏で起きている事件を探るために、「デス・ブリードン」という仮名で広告会社に潜入したピーター卿がねえ、何というかな、とってもカッコイイんだな。「働いてお金を稼ぐのが初めて」な貴族の次男でも、しっかりコピーライターとして仕事をしつつ、怪しげなパーティに出席して、謎の人物「ハーレクイン」として暗躍する、とかね。ファンタジーといえばそうなんだけども、やはり今から振り返れば、ホイチョイ全盛期のバブル期って、ファンタジーみたいなものって言えばまさにそうだった。
ファイロ・ヴァンスもそうだけど、そんなバブルな名探偵ヒーロー像というのは、やはり戦間期の経済的繁栄の産物だったようにも感じるんだよ。でもさ、ピーター卿の衒わない品の良さがイイんだな。ウォシャウスキーの「白馬の王子様」がピーター卿ってのも、素直に同意できるところもあるさ。
で、だけど、この作品のメッセージ(笑)って、「広告って麻薬みたいなもの」ってあたりにあるんだと思うんだ。そんな悪徳に手を染めながらも正義のミカタであり続けるピーター卿のヒーロー性が極めて興味深い。

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クリスティ再読さん
ひとこと
大人になってからは、母に「あんたの買ってくる本は難しくて..」となかなか一緒に楽しめる本がなかったのですが、クリスティだけは例外でした。その母も先年亡くなりました。

母の記憶のために...

...
好きな作家
クリスティ、チャンドラー、J=P.マンシェット、ライオネル・デヴィッドスン、小栗虫...
採点傾向
平均点: 6.42点   採点数: 1256件
採点の多い作家(TOP10)
アガサ・クリスティー(97)
ジョルジュ・シムノン(90)
エラリイ・クイーン(45)
ジョン・ディクスン・カー(30)
ロス・マクドナルド(26)
ボアロー&ナルスジャック(18)
エリック・アンブラー(17)
ウィリアム・P・マッギヴァーン(17)
アーサー・コナン・ドイル(16)
ダシール・ハメット(15)