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∠渉さん
平均点: 6.03点 書評数: 120件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.21 8点 地球儀のスライス- 森博嗣 2015/01/31 23:54
森博嗣の短編集の中では一番人気というか、好評を得ている印象。試行錯誤と荒削りさで実験的風味の強い『まどろみ消去』を経て、作家としての武器を増やして挑んだ第二短編集、面白くないわけがない。個人的な好みはどこか脆さのある『まどろみ消去』だけど完成度的には圧倒的にこちらだとは思う。単純に面白い作品がたくさんあるし。
『小鳥の恩返し』『片方のピアス』『素敵な日記』はミステリィの中にしっかり著者の個性がベースになっていて、キレ味もあるおいしい作品。『僕に似た人』『石塔の屋根飾り』『マン島の蒸気鉄道』はファンにとってはなかなか嬉しい作品だし単発としても楽しめるクイズ要素の強いミステリィ。
『有限要素魔法』『河童』は森博嗣らしい「ゆがみ」のある、かつ美しい作品になっている。「有限要素法」と芥川の「河童」というモチーフも興味深い。
『気さくなお人形、19歳』はけっこう記憶に残る短編だったけど、まぁシリーズひととおり読んでから戻ってくるとこれがまた心地良い。ほろっとくるし。既に小鳥遊くんと紫子さんキャラが出来上がっているのにビックリ。
そしてなんといってもトリの『僕は秋子に借りがある』。個人的には『キシマ先生の静かな生活』と双璧をなす森短編の大傑作と認識している笑。少女マンガチックなんだけどオシャレで洗練されててダラダラしてなくて。そして何より仄かにあったかく、仄かに冷たい。この形容しづらい感性が森作品であり自分と森博嗣の果てしない距離である笑。あぁ果てしない。

あ、あと冨樫が油売ってます。笑。

No.20 5点 どきどきフェノメノン- 森博嗣 2015/01/18 21:20
これも森博嗣が書かなかったらおそらく読まなかったであろう類の作品。なんてったってラブコメである。殺人事件も起きなければ万引きさえない、ミステリィらしいミステリィも無い、ただひたすらドキドキあるのみのあのラブコメである。はじめてのラブコメ体験におじさんもうタジタジである。まぁでもそんなに悪くはなかった(笑)。気持ち悪いおじさんでごめんなさい。

ストーリィはといえば、S&MとVシリーズからミステリィを引いた感じのものになっている。こんな説明でこのサイトの人の興味をそそるとは思えないが・・・!!

No.19 9点 有限と微小のパン- 森博嗣 2015/01/12 23:18
10点でもいいんだけど、単体の評価にしました。それでも10点でいいんだけど(笑)。
人それぞれ評価が割れに割れる森作品らしく、とくに本作は顕著にかんじますが今回も割れてますねぇ。それぞれがそれぞれに評価の傾向に驚いてるのが面白い(笑)。
ちなみに自分がサイトみて驚いたのはストーリィの評価の高さとトリックの評価の低さ(笑)。まぁ低いというかミステリィとしての手ごたえが無かったという評価なのかな。その分ストーリィがキレキレな印象が強かったようで。
個人的に、森博嗣さんのミステリィ系の作品は、トリックをかなり高く評価しているし、本作も素晴らしかった。このトリックとストーリィが密接な関係をしっかりと持っているところが森作品の魅力かなぁと自分は思う。
もちろんトリック単体をとっても素晴らしい。S&Mシリーズ内でも常に新しい試みがされていて、完結編でも新しいネタで勝負しているのはプロの意気を感じるし、意図も明確。また、塙理生哉らのパーソナリティも深く掘り下げられいるのでその点でもかなりフェアな作品に仕上がっていると思う。
まぁそれにしてもこのトリックは少し邪道かなと思うし、つまんない、合わない、アンフェア、肩透かし、がっかりという意見も、まぁまぁわかる。でもそう思わせた時点で著者の意図は確実にハマったんだとも思う。このサイトの評価を見たとき、自分の意見も含めて、ある意味で小説以上の予定調和を感じた。良い悪いの評価をしたところで、作品の存在価値を高めるだけ、そんな作品を作ったんだと思う。幻想か。

もう充分語りましたが、シリーズとしての評価もしたい。インサイダーで始まりアウトサイダーで終わる10の物語。シリーズ10作品からの引用になっている章ごとのエピグラフ。明かされる真賀田四季の所在、残念ながら出てこない喜多先生(涙)、真賀田四季、真賀田四季・・・。
とにかく形式美、様式美。均整をとって纏まっていると思う。ひとつの流れとしてこんなに綺麗に始まって美しく終わったシリーズは、自分はあんまり知らない。なのでこのシリーズが完結してしまうのは寂しいけど、この小さくて大きなシリーズを一片のパンで締めくくる森博嗣の「強さ」は、自分も見習いたいものである。
そんな有限のもとに終わったシリーズから、無限の可能性を持って巣立っていった真賀田四季。彼女は魅力的な女性だと思う反面、宇宙の謎のような未知に包まれているその存在は恐怖にも思える(こんなこと言っちゃう位入れ込んじゃってます笑)。むしろ恐怖の方が強い。恥ずかしながら、真賀田四季のことを考えて怖くて寝れなくなったことが何回かある(笑)。自分にとって真賀田四季はそんな存在である。
でもって、これで犀川・萌絵の物語としては実質的に終わりである。Gシリーズ、Xシリーズ等での再登場はあるが、犀川、萌絵の物語ではない。とくに萌絵は、本作『有限と~』の第9章で早くもその役目を終えている。犀川は、犀川らしくファジィな感じで、ほんの少し役目が残っているのかなぁという感じだが、西之園萌絵という物語は、ここでひとまず終わりなんだなぁと、改めて読んで感じた。まぁまだどうなるかはわからないけれど、少なくとも自分がV、G、X等のシリーズを読んだ中では、もうこの2人の役目は終わっているんだという印象を受けた。だからこそ新たなシリーズを次々と始められているんだとは思いますが。まぁそれだけに今後の展開も楽しみである。そんな中で、真賀田四季は神の見えざる手のように、すべての物語を司る役目として常に存在している。世界観が連動しているシリーズに限らず、『スカイ・クロラ』や『ヴォイド・シェイパ』などの単独シリーズや単発作品にもその兆候を見出している自分はもうそうとうにイカれていると思う。

「貴女は、貴方から生まれ、貴女は、貴女です。そして、どこへも行かない」
これが、真賀田四季がこの世界で課せられた使命であり、幻想。たまには、どっかに行って欲しいものです。

兎にも角にも、このシリーズの存在は、自分にとっては絶対的なもので、たぶんこれからもさらにその評価は大きくなるんだろうな。

でもって、本作の世界で提示されたVRのテクノロジィが現実になったら、日常になったら、現実が森博嗣の世界に追いついた証拠として、この作品を10点満点の評価にしたい。

長い書評なんで読まないでください。作品は長いけど読んでください笑。

No.18 9点 数奇にして模型- 森博嗣 2015/01/06 22:59
プロローグで提示された主題は、突然降りかかった最大級の危機から孤独な模型マニアの寺林高司がどう逃れたか、である。

ところがどっこい、登場人物が多い割にすべての事件を結び付ける人間は寺林以外出てこないし、結局、寺林は逃げられていないのである。

でもって密室も首切りも謎の手紙も、すべてが曖昧で、ぼやけたまま事件は終わってしまうのである。どうしたものか。

たくさんの登場人物がどっかこっかで事件の関係者のひとりになって、探偵小説ではおなじみの、第三者に向けての説明みたいな口調がほとんど排されてしまっているのも、読者の混迷をさそっているのか。

だから自分なりに考える。寺林の「最大級の危機」とは、物語の「主題」とは何だったのか。いつかこの命題から結論を導くことができるだろうか。

アンフェアだと言ってしまえば簡単だけれど、こなれてくるとすぐ思い上がる読者(僕のことです)への戒めをさせてくれた、大切な作品である。気持ちの悪い作品だけれども、この評価は揺るがない。

そして、つくづく感じたこと、それは
基本的に、作家は読者の何枚も上手であるということ。
自分にはこの作品のもつ感性がただただ衝撃的だった。

まぁGシリーズ、Xシリーズが出ている今となっては本作はかなり森作品らしいテイストのような気がする。それに加えて当時にしてはかなり深めのオタク文化の考察。これは後の趣味本や新書など、森作品の機軸のひとつになっている。この点からみてもファンとしては興味深い記述が多かった。まぁそんなこんなで、今はあのエピローグに思いを馳せてます。

なんだか抽象的な書評である。以上。

No.17 8点 今はもうない- 森博嗣 2014/12/28 00:36
もしかしたら、僕のコメントを見てくれている人がいるのかなぁという体で、コメントさせていただきやす。
個人的な意見として言いたいんですが、別に、シリーズを知らないと面白くないってことは無いです。この作品に限らずそうなんですが、とくにこの作品はシリーズ知ってることが条件みたいなコメントがこのサイトに限らず多いので、さすがに気になってしまいました。もちろん、シリーズ読まないとわからないと言ってる人は基本的にもうシリーズを順番に読んじゃってる人なわけで、いきなり『今はもうない』から読んじゃう人は客観的に読める確率は高いし、無垢な感覚で読めると思うし、これはこれで電撃的な出会いになるかもわかりません。別に、どっちが良いか悪いかの話ではないです。なんというか、シリーズちゃんと読まなくてもそれは読者の感性しだいなので、もしかしたら一瞬で叙述トリック見破っちゃうかもしれないし、密室の新しい仮説を見つけちゃうかもしれないし、読者の発想の幅の広さで言えばおそらく圧倒的にシリーズ未読の方が強い。もちろんだからといって、そのなかで合う・合わない、面白い・面白くないはありますが。まぁ、せっかく読むなら自由に読んで欲しいってことです。作品の順番が読者の感性に影響を及ぼすことは多分ないですから。かくいう自分は、順番がよくわかってなくて、森作品1周目の序盤はかなりバラバラに読んでました。さすがに怖くなって途中から軌道修正しましたが、おかげでほんの少し面白い感じにはなりました。まぁ僕は感性もへったくれも無いような、脳味噌の田楽みたいな頭の悪い本読みなんですが。
でもって密室ですが、個人的にはS&Mシリーズの中では『詩的私的ジャック』に次いで気に入ってるネタです。そもそも密室なんて存在が納得できない。それに応えるような『詩的私的~』のロジックがあって、『今はもうない』でもひたすら密室や殺人現場の構造への疑問がさまざまな仮説で展開されて、出てきた結論は「説明はできるけどホントのことはわからない」ということ。もちろんミステリィなんでできればスッキリとした答えが欲しいけど、思考のプロセスの中にこういう考えを持つことも大事だなぁと感じた。
いかにも天邪鬼な森博嗣信者のコメントになりましたが、ホントにその通りです。客観的に見て全く参考にならないことこの上ないです。

No.16 7点 ブラッド・スクーパ- 森博嗣 2014/12/25 00:27
シリーズ2作目。森博嗣の剣豪小説。
前作の『ヴォイド・シェイパ』は社会を知らないゼンのロールプレイング小説。んでもって本作はチャンバラもより激しさを増して、ちょっぴり(森)ミステリィっぽい要素がある。前作よりは、このサイト向きの作品になっていると思う。まぁだからどうしたの3乗根ですが、ちょっと遠回しにおススメと言いたいんだと思います。
作品に戻りますが、クズハラ、ハヤ、コバ、クローチ、ナナシなどなど、前作以上に魅力的なキャラクタが出ている中、前作にも登場しているノギがいいね。ノギのツンデレぶりといい、ゼンのモテっぷりといい、ラノベ的なところも相変わらずの森作品ぷりである。

No.15 9点 夏のレプリカ- 森博嗣 2014/12/24 23:47
『幻惑の~』と甲乙つけ難い出来だと思います。このシリーズの中では"泣き"の一作かな。少なくとも僕はそんな感じでした。ラストのチェスのシーンはなかなかの名シーンで好きな人も多いと思いますが、ホントに良いシーンが多い本作。最初読んだときは暗い印象しかなかったけど、改めて読むとすごい爽やかな読後だっなぁ。不思議な感覚だった。個人的に好きなのは、世津子の家を犀川先生が訪ねるシーン。この二人の家族構成を知ってから読むと、この何気なさがあざといくらい良い。ホントによくできたシリーズ構成だなとひとりで感心。別に普通の仲のいい兄姉の会話なんだけど、それを犀川先生がやっちゃうとね。なんか無性にホッとする。
あとは、駅で奇跡的な出会いを果たす萌絵と失踪したモトキ君のシーンでしょうか。賛否両論な感じですが、そもそもモトキ君の失踪って何だったのみたいな声も聞こえてきますが、僕はこの蛇足、嫌いじゃない。むしろこの無駄な意味深さにひとりで喜んでいたクチでした。こちらは偶数章の作品だから、「偶然」が入り込んだのかなぁ。なんて。
ハイライト多し。ミステリィ良し。視界は良好です。

No.14 9点 幻惑の死と使途- 森博嗣 2014/12/20 23:21
あの動く紙人形を1000円で買った少年時代を思い出したなぁ。ハイテクロボットだと思って1000円安いなぁなんて思ってた馬鹿な子供だったな笑。でもって袋明けて紙人形を出したらただの紙人形で、種はさすがにわかったけど、全然うまくできなくてそっこーゴミ箱行き笑(妹も買ってたから2000円分!)。マジックに幻想を抱いていたアホ助だった。なんて過去形で言ってるけど、有里匠幻のミラクル・エスケープにまんまと騙される馬鹿な大人なのである。
有里匠幻殺害から有里ミカル殺害までミラクル・エスケープ怒涛の3連発というシリーズ中もっとも派手なミステリィショーが展開される本作。でもやっぱフィナーレの4つ目のエスケープは質感のある描写だったなぁ。素晴らしかった。あと、引田天功の解説がとってもいいのよ。ものにはすべて名前がある、ってサイカーさんもいってたけど、「引田天功」もまた然りなわけだ。うんうん。

整合性もかなりしっかりしてると思ったけど気になることを一つ。
金魚すくいを知らない萌絵ちゃんの440ページ。
「ラムネを飲むのにビー玉が邪魔になるように、最初のキーは、いつも関係がない。」
ビー玉ラムネは知ってんだ・・・お嬢様はわからん。まぁ、見事にどうでもいいんですが。

No.13 9点 まどろみ消去- 森博嗣 2014/12/18 22:03
個人的にはマストアイテムな短編集。読むたびに雰囲気が変わるというか、自分も少し洗練された気分になっちゃうというか、まぁ気のせいなんですけどね。

『虚空の黙禱者』/さんざん「理系ミステリ」って言われてきたのでいきなりのこれは痛快だなぁ。
『純白の女』/詩から話をふくらませたのか、プロットに詩を織り交ぜたのか、実験的だけど、面白く纏まっています。
『彼女の迷宮』/面白いんだけど作中のミステリィ小説が迷宮入りしてしまう心残り感。
『真夜中の悲鳴』/4つ目でやっと理系っぽいミステリィ。ヒロインのスピカちゃんが萌えです。リケジョ、リケジョ。
『やさしい恋人へ僕から』/ストーリィにニヤニヤしてしまう森ファンは最後のオチでアリャリャってなってしまう作品。大好き。
『ミステリィ対戦の前夜』/ファンサービス①
『誰もいなくなった』/ファンサービス②
『何をするためにきたのか』/大学生向けの青春小説。アリだな。
『悩める刑事』/後に長編で使われるアイデアが見え隠れ。
『心の法則』/意味不明すぎて何回も読み返すんだけどやっぱ意味不明なんだよなぁ。もっとこういう短編があってもいいと思う。
『キシマ先生の静かな生活』/やっぱこれが1番かなぁ。何回読んでもグッとくる、キシマせんせの生き方。僕は良い生き方だと思う、というか願望というか・・・。

シリーズ物から入った人は、短編も、ぜひ。

No.12 8点 封印再度- 森博嗣 2014/12/14 17:29
この作品を読んだときに、この人は本気で「キャラ萌え小説」を書いているんだなと感じた。「萌絵ムカツク~」な人もそれはそれで感情移入ってことですよね。読者に甘えた表現だけが「キャラ萌え」じゃないことをまざまざと見せつけられたし、僕は充分萌えた。
あと、文句をいうわけでもないし、否定するわけでもないけれど、萌絵の嘘について命を軽視しているという批判をしている批評をちらほらとサイト内外で見受けたけど、ミステリィを楽しんでる僕らとそこはどっこいどっこいでいいのでは?と。それをミステリィ好きが言っちゃうのはちょっとアンフェアなような・・・と感じてしまったもので。まぁ個人的な意見なのでどうでもいいんですが。
あとパズル小説としては、もちろんのこと楽しめた。
なんか、野暮な書評になっちゃったなぁ。なんとかならんもんか。せっかく好きな作家さんなのに。反省。

No.11 10点 詩的私的ジャック- 森博嗣 2014/12/14 17:16
S&Mシリーズからひとつえらぶとしたら、自分はこれかな。森博嗣が何をしたいのかがようやく少しわかったような気がした。論理性を突き詰めるとミステリィが消滅してしまうという驚きのカタルシス。まぁ論理性なんて幻想なんでしょうが。もちろん、密室のトリックには脱帽したし、総合的にみれば、最も納得のいく手段だと思った。そこにはもはや動機が入り込む余地はないのかとさえ思える。まぁそれっぽいモノはありましたが。切なく、ポエティで、多分ミステリィだった。そしてすべて幻想。

No.10 10点 笑わない数学者- 森博嗣 2014/12/04 22:07
「いやぁ、個人的には超傑作なんだけど、みんなの評価みたらけっこう賛否あるんだなぁ。こういう時思い切った点数をつけるのははばかれるというかなんというか・・・。なんか逆トリックとかいうのもちょっと恥ずかしいなぁ・・・。ここはちょっと批評家ぶってこんな作品ズルいよなぁ的な方向でいこうかなぁ・・・。どうしよう。。。」




「君が決めるんだ。」





「10点で!!!!逆トリック万歳っ!!!!!」


・・とまぁこんな経緯で無事10点をつけることができましたが、やはり賛否があってとても興味深かったです。でも「不定」なわけだから、1点の解釈も10点の解釈もたぶん間違いではないんでしょう(必死の自己肯定)。トリックがなんであれ、犯人がだれであれ、作品がどうであれ、評価がどうであれ、決めるのは僕。それでよし。


No.9 8点 ヴォイド・シェイパ- 森博嗣 2014/12/04 21:35
捕物帳/歴史ミステリにしたはいいけど、たぶん違う笑。まぁS&Mもミステリかって言われたらグレーゾーンだし、森作品は全体的にノンジャンル感があるので笑って許して欲しい剣豪小説シリーズなのである。

主人公は侍で、舞台もたぶん江戸時代なので何とか時代小説としての体裁は保っているが、各章ごとに大立ち回りがあるわけでもなく、時代背景の描写もすごい薄めだし、主人公・ゼンの一人称目線で話が進むのも、これまた厄介である。人里離れた山奥で師匠・カシュウとともにすごしてきたゼンが、カシュウの死を機に山から下りて放浪するわけだが、ゼンは山生まれ山暮らしなので人間社会のことは何も知らない。そんなゼンの視点からしか情報が受け取れないので、読者にもゼンの視点が強いられる。いつもは俯瞰から見下ろしていた第三者的な視点はこの作品には通用しないのである。ただひたすらゼンの見る景色をゼンの息遣いを、ゼンの精神世界を読者は追い続けるしかない。そんなゼンの成長が、私はもう楽しみで仕方がない。なんて笑。

No.8 7点 冷たい密室と博士たち- 森博嗣 2014/09/23 19:46
シリーズ10作品のなかではある意味最も異色な作品。他の森作品でもあんまりないくらいのオーソドックスな本格であるゆえ異色に感じてしまう。前作からの寒暖差もたっぷり。『F』同様、実験(研究)用施設内での密室殺人というそそるシチュエーションながら、動機をのぞけば実に論理的で、構造的な問題がほとんどない型どおりな出来。前後の作品群と比べると温度差を感じてしまう。じゃあこの作品ってなんなんじゃろなぁって感じで再読し始めましたが、この犯人像を描くことが必要だったのかなぁと思いました。動機の不透明さはありますが、プライドや他人の干渉が研究や実験に対する純粋な気持ちを阻害してしまう人間像、そしてその不安をとりのぞくことが犯人にとっての「安定性」であり、ゆえに「不安定」になってしまうという人間像。つまりは僕らみたいなフツーな人間です。少なくとも真賀田四季はこんなことしないな、という対比が描かれているのかなぁと思いました。『F』のアンサーのひとつ、という印象です。

あと、萌絵じゃないけど喜多先生かっこいい。あ、これだけでも読む意味あるな笑。

No.7 9点 すべてがFになる- 森博嗣 2014/09/18 14:58
ドラマ化するんだなぁ。映像的なようで弊害も多そう。
とはいえ、映像化の話にワクワクというか、ソワソワしてしまう森博嗣ファン。『すべてがFになる』、非常に思い出深い作品である。レビュー載せるにあたって、本サイトの、10年以上にわたる160人の方のレビューを拝読しましたが、賛否、賛否、賛否。読書って面白い。とことん読者を選ぶところが森作品の特徴らしいということがわかった。
それにしても密室殺人、衝撃的だったなぁ。あのシチュエーションの抜群さはデビュー作のインパクトとしては申し分ない。どんなトリックで真賀田博士は抜け出したのか、どうやって殺したのか、なぜ殺したのか。犀川先生は理詰め理詰めで解いていく。萌絵は頭の回転は速いし、研究所のスタッフも頭はよさそうなんだけど真相に迫れない。客観性がないのね。こんなトリックは常識的に考えられない。バカげてる。でも理論的には適ってる。この筋道がこの作品の本道なんですね。びっくりしました。思考が育てられた感じでした。
論理的に構造をたてたときに、それを人間が行うこととして、破綻するのかしないのか。挑戦的ですね。
そう考えるとこの動機は究極的でしたねぇ。オブジェクト指向、なるほどです。
ミステリと思って読むと、フェアかアンフェア・・・グレーなところですね。でも、ミステリだと思って読まなければ瑣末なことです。それができる本のような気がしました。

あと、この作品、時代設定がすごく大事な気がしますが、、、ドラマではどうするんだろう??楽しみ??

No.6 6点 墜ちていく僕たち- 森博嗣 2014/05/09 22:23
なんか泣けた。なんか泣けたからこれはもういい小説です。結局何にもないのが良い。

No.5 5点 ZOKURANGER- 森博嗣 2014/04/07 21:16
ZOKUシリーズ最終章。
怒涛の展開のおてんこ盛りですが妄想が過ぎてシリーズ史上最大の混沌。いままであんま好きじゃなかったバーブ・斉藤がちょっと好きなったんで、終わりなんて言わんとまたやって欲しい。

No.4 6点 ZOKUDAM- 森博嗣 2014/03/13 20:49
悔しいくらいにロミ・品川に萌えながら読んでました。
頑張ったら疲れるし、真面目にやったって無駄は出てくるし、真面目にやんなかったらもっと無駄が出てくるし、楽しく生きたいし、好きな人もいれば嫌いな奴もいるし、男だし女だし、人生ってキリがないくらいソフト的な問題があるけれども、知らず知らず明日も明後日も生きようとすることが出来る「人間」ってのは、ハード的問題をなんだかんだ乗り越えてるんだから大したもんです。

No.3 6点 ZOKU- 森博嗣 2014/02/10 16:43
滑稽な秀作ですね。そんな作品なかなかない。けど結構鋭い視点も持ち合わせていて面白い。ZOKUという悪の悪戯組織とそれに立ち向かうTAIという組織の攻防が描かれているけれど、その関係性が面白い。敵対する組織ではあるけども利害関係が明確な両者が存在するから、わけのわかんない組織なんだけど存在価値を見出している。その関係を良く表した最後のオチは最高に滑稽で秀逸。こんな感じで人って生きられるんだよなぁと、しみじみ。佐久間真人さんの挿絵もいいですね。クールです。

No.2 10点 喜嶋先生の静かな世界- 森博嗣 2013/12/14 00:21
文句なしの10点つけさせていただきました。
第一短編集「まどろみ消去」の「キシマ先生の静かな生活」とストーリィは全く同じで、短編の方に書いてあることは全てこちらの方にも書いてあります。短編で読んだときは、自分とは相容れない世界の話で新鮮だったけど、いまいち作品に感情移入できなくて、後味も決して良いとは言えない印象だった。けれど、本作を読んで180度印象が変わりました。天才ともまた違う、まっとうな研究者。でも非常に稀有な存在で、逆説的になりますがやはり「天才」なのでしょう。喜嶋先生、すごい。凄い。研究とは、学問とはとても崇高で純粋なものなんだなと感じた。
そして、その世界を純然と生きることはとても難しい、ふと立ち止まって考えてみるともうその世界に自分はいないことに気付く、そこに戻れないことに気付く。ラストの橋場君の言葉には切なさと重さを感じた。沢村さんの自殺もそう思うと切ない。そして喜嶋先生はどこかで・・・と、想像しながら余韻を堪能してました。きっとまた、「王道」を歩いているのでしょうが。
自分も大学生となり、子供と大人の境界条件が環境や立場によって変わるような立ち位置で、これからどうやって生きていくのかを考えなきゃいけなくなって、周りに流される部分と自分が向かいたい部分とのせめぎあいのなかを過ごしているので、そういう意味でも、感情移入せずにはいられないというか、大切にしておきたいスピリットを再確認できた作品でした。心地いい反面、残酷さもあって、かなり刺さります。そして、またいつか必ず再会しなければいけない作品だと思った。僕にとっての未来への手紙のような作品です。なんて大袈裟に言ってはみましたが。

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∠渉さん
ひとこと
☆2015年版☆
昨年のS&Mシリーズのドラマ化の影響ではないのですが、森博嗣の作品を再読し始めて、どっぷりハマってしまいました。なんなら初読の時より熱くなっています。もう止まりません。なので今年は森...
好きな作家
森博嗣
採点傾向
平均点: 6.03点   採点数: 120件
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森博嗣(41)
スティーヴン・キング(23)
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