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文生さん
平均点: 5.89点 書評数: 420件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.360 6点 ナイフをひねれば- アンソニー・ホロヴィッツ 2023/09/15 00:17
謎に魅力がなくて冗長だった前作に比べると、今作はかなり楽しく読めました。ホロヴィッツ自身が逮捕される展開はスリリングですし、仕掛けも小技が効いていて悪くありません。ただ、後半の展開によってメインのミスディレクションがバレバレになってしまう点は少々物足りなく感じました。

No.359 7点 ちぎれた鎖と光の切れ端- 荒木あかね 2023/09/02 08:03
孤島で起きた連続殺人の物語を描いたあとでさらに第2部が始まるという凝ったプロットを採用し、本格ミステリとしての充実度ではデビュー作の『此の世の果ての殺人』を遥かに凌駕しています。
特に、死体発見者が必ず次の犠牲者になるという殺人連鎖の謎を第一部及び第二部に提示し、それぞれ別の解答を用意しているのが素晴らしい(加えて第一部におけるダミー推理もなかなかユニーク)。
一方、不満点としては安易な伏線のせいでかなり初期の段階で犯人の予想がついてしまった点が挙げられます。いくらフーダニットが主眼の作品ではないとはいえ、最初から犯人がバレバレでは興が削がれてしまいます。それがなければ8点を付けたかったところなのですが。
とはいえ、小説として読ませる力もあり、全体的には非常によくできた作品であることは確かです。1998年生まれの24歳でこれだけの作品をものにした作者の技量に唸らされます。今後が楽しみな作家です。

No.358 6点 処刑台広場の女- マーティン・エドワーズ 2023/08/22 05:30
1930年のロンドンを舞台にした波乱万丈の物語はなかなかの面白さです。特に、名探偵レイチェル・サヴァナクの謎めいたキャラクターが素晴らしい。
ただ、出版社がさかんに喧伝しているような謎解きミステリとはどうしても思えない。確かに、冒頭から名探偵が登場し、密室での奇妙な自殺があり、ショー上演中の奇怪な焼死事件ありと古典的な探偵小説のガジェットはふんだんに盛り込まれています。しかし、それらを起点とした推理が始まることはありませんし、あっと驚くようなどんでん返しやトリックも皆無です。そもそも、犯人は最初から明らかで、その犯罪の全貌が次第に明らかになっていくプロセスに本作の面白さがあります。そのプロセスも謎解きとは明らかに異なるもので、どちらかといえば、アルセーヌ・ルパンシリーズのようなスリラーもしくはクライムノベルといった方が近いかもしれません。一応、レイチェルの過去のエピソードにどんでん返しが用意されていますが、ミステリーを読みなれていれば簡単に真相を見破ることができるでしょう。そういうわけで、十分に面白い作品ではあるのだけど、無駄に本格を期待させた点がマイナスでトータル6点といった感じです。

No.357 3点 紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と- 歌田年 2023/08/15 12:17
3つの不可能犯罪謎を解いていく連作ミステリですが、トリックがありきたりというかヒネリがないというかとにかく全く魅力を感じられず。最後に明らかになる推理クイズ企画の仕掛けもちょっと無理があるように思います。

No.356 4点 よろずのことに気をつけよ- 川瀬七緒 2023/08/15 12:01
主人公の祖父が殺され、長年にわたって呪術をかけられていたことが判明する展開に引き込まれました。現代の世にあって本気で人を呪い殺そうとする行為に狂気じみたものを感じ、読んでいてぞくぞくしました。探偵役の民俗学者が登場し、呪術について語るくだりもなかなかに興味深いものがあります。
しかし、これらの道具立ての秀逸さに対して真相があまりにも凡庸。やがて明らかになる事件の全容は意外性の欠片もありませんし、呪術という狂気じみた方法に反して動機があまりにもまっとうすぎます。つかみは素晴らしかったのに、後半部はミステリーとしてまったく面白さが感じられなかったのが残念です。

No.355 7点 十戒- 夕木春央 2023/08/10 12:20
クローズドサークルと化した孤島を舞台にし、従わざるを得ない犯人の要求を十戒に見立てた発想は非常に面白い。十戒に縛られているなかで起きる連続殺人のサスペンスもなかなかですし、犯人が仕掛けた二重三重の罠も悪くありません。しかし、シンプルかつサスペンスフルな驚愕ミステリー『方舟』と比べるとどうしても物足りなさを感じてしまいます。犯人の正体は最初からなんとなく見当がついていましたし、仕掛けも凝ってはいますが、やはり『方舟』のシンプルさと比べると回りくどさは否めません。トータル的に十分面白い作品ではあるのですが、『方舟』の影響下から逃れられないことが惜しまれます。

No.354 7点 可燃物- 米澤穂信 2023/07/27 20:18
著者初の警察小説といいながら中身はしっかり本格。この2つの要素の絶妙な組み合わせがミステリとしての面白さを押し上げています。仕掛け自体はそれほど派手なものではありませんが、それが逆に渋い警察小説の雰囲気とマッチしているのです。警察小説と本格の融合という意味では横山秀夫の『第三の時効』あたりを彷彿とさせます。とはいえ、あちらは刑事同士の権力争いを横軸に据えた群像劇だったのに対し、本作は探偵役を葛警部が一人で担っており、他の刑事の出番はあまりありません。しかし、そうしたなかでも短い枚数でそれぞれのキャラの関係性を的確に描き、重厚さを加味していく手管が見事です。5つつの短編はどれも読み応えありですが、特に、死体をバラバラに切断した動機に迫っていく「命の恩」と、ファミレス立て篭もり事件の構図が反転する「本物か」が個人的にお気に入り。

No.353 4点 名探偵のままでいて- 小西マサテル 2023/07/25 17:12
探偵役がレビー小体型認知症を患っているという設定はユニークですし、その設定自体がミステリーの仕掛けとして機能している点もよくできています。
ただ、一連の推理が可能性のひとつとしか思えず、あまり説得力を感じられなかったのは残念。
私自身はミステリーのロジックにそれほど厳密性を求める方ではないのですが、すぐに他の可能性が頭に浮かんでしまうような緩い推理にはさすがに物足りなさを覚えてしまいます。実際、孫娘が推理の根拠を尋ねたときに「その方が面白いから」などといったりしていますし。あれには唖然としました。

No.352 7点 乱れからくり- 泡坂妻夫 2023/07/25 17:00
結構偶然の要素が多く、本来なら高い点は付けがたいところです。しかし、冒頭の隕石落下に始まり、絡繰り屋敷の趣向に意表を突いた真相と全体を貫く奇想は非常に魅力的で、リアリティのなさを差し引いても十分に面白い作品でした。

No.351 8点 卒業生には向かない真実- ホリー・ジャクソン 2023/07/24 12:08
ピップシリーズ三部作の完結編です。700ページ近い大作ですが、一切だれることなく最後まで一気読みでした。前半は過去の事件を捜査して真相を探っていくいつもの展開が繰り広げられるものの、これに関してはおそらく多くの人が比較的早い段階で犯人の正体に気がつくのではないのでしょうか。しかし、本作の主眼はそこではありません。中盤に事件の様相が一変し、思いもしない展開になだれ込んでいくのです。前作でなんとなく予感はあったものの、ここまでやってくれるとは思いませんでした。それに加え、1作目&2作目のエピソードが思わぬところで繋がってき、一気に伏線回収されていくさまも圧巻です。
ただ、唯一の不満は前作で登場したあの男の扱い。新旧スターウォーズ三部作におけるダース・ベイダーあるいはパルパティーン最高議長のような立ち位置のキャラで、果たしてどっちの方にいくのかと期待していたら3作目のボバ・フェットの如くあっさり処理されたのにはがっかりでした(それとも今回不自然までに描写が少なかったので外伝の構想でもあるのでしょうか?)。
あと、1作目、2作目のネタばれは当たり前のようにしてくるし、そもそも1~3作目は物語的にも密接につながっているので、事前に過去作を読んでおくことをおすすめします。

No.350 7点 不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理- 井上悠宇 2023/07/17 10:34
ミステリーマニアの女性刑事と強面の先輩刑事がコンビを組む割とありがちなタイプの連作短編で、独創的なトリックや驚愕のどんでん返しがあるわけではありません。しかし、そこに不実在探偵というわけの分からない存在を放り込むことでミステリーとして面白さが格段にアップしています。アリスと名付けられた探偵は喋ることも筆談をすることもできず、唯一可能なのが質問に対してダイスの目を変えて「はい」「いいえ」などの簡単な回答することだけです。そのため、本来なら探偵の推理に耳を傾けるだけの存在であるワトソン役や刑事たちが真相にたどり着くために推理合戦を始めるのが楽しい。

No.349 6点 盲目の鴉- 土屋隆夫 2023/07/17 10:01
過去作と比べるとミステリーとしては小粒な点は否めないところ。アリバイトリックはちょっとユニークですが、どちらかというと短編向きで、それだけではもの足りなさを覚えてしまいます。その代わり、田中光二を始めとした純文学作家の蘊蓄を交え、抒情性豊かに描かれた物語には引き込まれました。

No.348 5点 妻に捧げる犯罪- 土屋隆夫 2023/07/14 08:06
いつもの本格長編とは趣向を変えたサスペンスよりの作品です。悪戯電話が趣味の主人公が些細な手掛かりから電話先の相手を推理していくくだりはさすがの面白さ。しかし、全体的にはミステリー色が薄味で読み終わったあとはもの足りなさを覚えました。

No.347 8点 赤の組曲- 土屋隆夫 2023/07/13 11:10
比較的地味な事件ながら、文学性の高さと次第に混迷を深めていく展開にはそこはかとない幻想味が感じられ、引き込まれました。五里霧中のなか、一つの閃きがきっかけとなって一気に謎が解けていく構成も見事です。大胆なトリックと二重三重に張り巡らされたミスディレクションの妙が堪能できる名品。

No.346 7点 天国は遠すぎる- 土屋隆夫 2023/07/10 20:22
多くの指摘があるとおり、人を自殺に誘う流行歌という魅力的なガジェットが雰囲気作り以上の役割を果たしていないのが大きな弱点。著者の代表作である次作『危険な童話』と比べると完成度という点ではどうしても見劣りがしてしまいます。それでも昭和型のアリバイ崩しものとしてはかなりの面白さです。トリックが良いですし、コンパクトにまとまっているのも好印象。

No.345 6点 ロジカ・ドラマチカ- 古野まほろ 2023/07/06 14:09
日常の何気ない一コマを文章に起こし、それをロジカルに分析することで思わぬ真実を掘り起こしていく『九マイルは遠すぎる』のオマージュ作品。
とにかく、ロジックの積み重ねが尋常ではなく、その密度は完全にオマージュ元を凌駕しています。反面、あまりにも学術然とした推論は読んでいて頭が痛くなってきます。ある意味、ロジックミステリーの極北に位置する問題作です。

No.344 8点 世界でいちばん透きとおった物語- 杉井光 2023/07/05 23:08
大きな事件は起きない日常の謎ものに近い作風ですが、人気ミステリー作家の遺作の行方を追うというプロットには大いにそそられました。そして、なんといってもあの大仕掛けです。先にレビューしたミシェル・ビュッシの『恐るべき太陽』 もそうですが、まさか続け様に泡坂妻夫マジックを彷彿とさせる作品を読めるとは思いもしませんでした。ちなみに、どちらも力作ではあるものの、個人的には冗長さが目立つ『恐るべき太陽』よりもテンポ良く読めて、謎の提示から最後のサプライズまでを寄り道なしに楽しめる本作の方が好みです。

No.343 6点 Wの悲劇- 夏樹静子 2023/07/02 14:21
殺人事件が発生してアリバイ工作が瓦解するまでの倒叙ミステリとしての前半と、真犯人の正体を暴く後半からなる2部構成の作品です。すごい仕掛けや手に汗握るサスペンスがあるわけではありませんが、前半のアリバイトリックと後半の××トリックの相乗効果で、そこそこ楽しめたといったところでしょうか。

No.342 5点 真実の10メートル手前- 米澤穂信 2023/07/02 13:51
ミステリーとしての仕掛けが小粒なのは割といつも通りなのですが、それを設定の面白さや捻りのあるプロットで盛り上げていくのが米澤ミステリーの真骨頂。しかし、本作の場合はそうした工夫に乏しく、ひたすら地味でした。ジャーナリズムのあり方といったテーマに興味が持てないというのにも同感。決して駄作ではないものの、佳作というにはもの足りなさを感じる作品です。

No.341 8点 ヨモツイクサ- 知念実希人 2023/06/27 21:25
読む前は評価高すぎだろうと思っていたのですが、これが大変面白かったです。まず前半は体重1トン近い人喰いヒグマの追跡劇をサスペンスたっぷりに描いていてこれだけでも大満足な出来映え。中盤からはにわかにバイオホラーとなり、面白いことは面白いのだけどいささかやりすぎで、これはちょっとB級かなと感じていたところ終盤のあれに驚かされ、思わずのけぞってしまいました。結局、B級ではあるのですが、最後まで読むとそれも気にならなくなります。もしかしたら2023年6月現在、今年読んだ本の中で1番面白かったかもしれません。

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文生さん
ひとこと
本格脳なので本格度が高いほど評価も高くなります。ただし、本格好きと言ってもフェアプレーなどはどうでもよい派なのでロジックだけの作品は評価が低めです。トリックやプロットを重視した採点となっています。
好きな作家
ジョン・ディクスン・カー、土屋隆夫、竹本健治、山田正紀
採点傾向
平均点: 5.89点   採点数: 420件
採点の多い作家(TOP10)
ジョン・ディクスン・カー(18)
アガサ・クリスティー(17)
横溝正史(11)
エラリイ・クイーン(11)
カーター・ディクスン(11)
西尾維新(10)
森村誠一(9)
竹本健治(9)
東野圭吾(9)
米澤穂信(9)