皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1785件 |
No.26 | 5点 | 列車の死- F・W・クロフツ | 2023/10/09 12:40 |
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フレンチ警部登場作として26番目。つまりはかなり後期の作品ということ。
今回は作者の十八番(おはこ)とも言うべき「列車」「線路」が舞台となる。真骨頂発揮!なのかどうか・・・ 1946年の発表。 ~第二次世界大戦。ドイツ軍の猛攻撃により英国軍は後退を余儀なくされていた。英国政府は緊急会議を開き、急遽極秘の物資輸送を決定した。ところが、その輸送列車のわずかな故障によって先行した旅客列車が豪音とともに転覆したのだ。破壊工作の跡から輸送計画の漏洩に気付いた政府は、ロンドン警視庁に捜査を命じた。フレンチ警部はスパイ組織壊滅の密命を受けたが、巧妙を極めた犯罪の隠蔽工作の前に捜査は一進一退。突破口を開くべくフレンチは一計を案じたが・・・~ 他の方も書かれてますが、いつものクロフツ、いつものフレンチ警部ものとはかなり毛色の異なる作品。 確かに途中はいつものとおり、お得意の「靴底をすり減らす」「丹念な」捜査行が描かれていますが、なにぶん今回は相手がデカイ。そして手強い。なかなか思う通りの成果が上がらず、いつも以上に苦悩することとなる。 しかしまぁ、宮仕えとはいえ酷使されるねぇ・・・フレンチ警部は 今回はドイツ軍スパイが相手ですよ! 普通は公安的な専門家が対処するだろうに・・・ ただ、ドイツ軍スパイに対する「目くらまし」「ダミー」としての役割も担っているから仕方ないのか・・・上司であるエリソン卿も罪な人である。 で、本筋なのだが、今回はフーダニット的な興趣は殆どなく、メインの謎は「どのように列車が転覆させられたのか?」と「なぜ機密情報が敵に漏れたのか?」の2つ。 ただし、前者は列車運行の専門家がほぼ真相を見抜いておりフレンチはそれをなぞるだけ。後者もその中途の仕掛けや罠は面白いけど、かなりあっけなく謎が氷解してしまう。 なので、やはり本作はサスペンス的な側面が大きいという結論かな。(なんとラストはフレンチがひとりで犯罪グループと対峙して、もしや銃弾に倒れた?という場面まで用意されている) やっぱりシリーズものの宿命で、長く続けるとどうしても変化球的作品を入れないと、ストレートばかりでは読者も三振してくれない・・・ということなんでしょう。ねぇクロフツさん・・・などと想像してみた。 ただ、それがうまくいっているかというと、非常にビミョー。 (フレンチ警部ものも残り僅かになってしまった。寂しい) |
No.25 | 5点 | 二重の悲劇- F・W・クロフツ | 2022/10/02 13:43 |
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フレンチ警部シリーズ二十四作目となる本作(だいぶ後半になってきた)。
今回は倒叙形式ということで、「クロイドン発12時30分」という倒叙の名作を持つ作者だからこその作品なのか? 原題は“The Affair at Little Wokeham”。1943年の発表。 ~リトル・ウオーカムの小村に引退した富裕な老人を殺害し、その遺産を手に入れるために綿密周到な計画を立てて、ついに成功した犯人を追及するフレンチ警部の卓抜な推理力に脱帽! あらゆる仮説を克明に実験し、追及の輪を次第に狭めていくフレンチの努力が実り、まさに逮捕寸前犯人は国外に逃亡してフレンチは地団駄を踏む。それは果たして失敗だっただろうか?~ 倒叙形式であることを除けば、いつものフレンチ警部ものである。 いや、倒叙形式だからこそ、いつもよりも更に丁寧になっているともとれる。だからこそ、「いつもよりも冗長で退屈」という評価も出てくるのだろうと推察する。 殺人事件そのものは実に単純で、それほど工夫のあるプロットとは言い難い。他の方が書かれているとおり、こんな古臭いアリバイトリック!って感じだし、それにまずまず翻弄されるフレンチ警部もどうかとは思う。 でも、クロフツ好きの身としては、「そこそこの満足感」を感じられた作品ではあった。 当然倒叙なんだから、フレンチというよりは真犯人の心の動きや猜疑心、バレるかもという強烈な不安心、徐々に追い込まれていく恐怖etcが十分に堪能できた。 本作は「真犯人」視点だけでなく、事件関係者や「やむなく真犯人に協力せざるを得なくなった人物」視点なども織り交ぜることで、単純でない物語に膨らみを与える工夫もなされている。 特に、事件に巻き込まれることとなる村の医師などの小市民的感情や”恋する中年独身男性の悲哀”などは、なかなか身につまされる(ように思えた)。 今回、割と目についたのは、フレンチ警部のユーモア感覚(死語?) 部下の警官たちのやり取りのなかで、まるで「ノリツッコミ」のような会話を披露している。ここら辺も、長くシリーズを続けてきた作者の余裕というか、変化・工夫の跡かもしれない。 まぁ、でも「アイデアの枯渇」というのは確かにその通りだとは感じる。長く続けすぎることのデメリットも当然あるわけで、晩年の作品はどうしても苦しくなってくるね。 決して高い評価はできないんだけど、安定した面白さはあるという評価にしておきたい。 |
No.24 | 7点 | シグニット号の死- F・W・クロフツ | 2022/04/15 22:38 |
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「フレンチ警部と漂う死体」に続くフレンチ警部シリーズで17作目の長編。
ある大富豪を巡る失踪事件、その後に続く密室殺人事件がテーマとなる。 原題“The End of Andrew Harrison”。1936年の発表。 ~船室は密室状態だった。ベッド脇のテーブルには塩酸入りのデカンタと大理石が入ったボウルが載っていた。そしてベッドには船の持ち主で証券業界の大立者が死んで横たわっていた。死因は大理石の酸化で発生した炭酸ガスによる中毒。自殺だろうか? いやとフレンチはかぶりをふった。二週間前に起こったこの富豪の失踪騒ぎも株価を操作して大儲けするために打った芝居とまで言われている。そんな欲の塊のような男が自殺するだろうか?だが他殺を疑うフレンチの前に容疑者のアリバイは次々と立証されていった~ 多くの方は「いつものクロフツでちょっと退屈・・・」と思うのかもしれないけど、私個人としては「いつものクロフツでなかなか面白かった」という感想である。 今回のフレンチもかなり苦労する。終章近くになりようやく真犯人の姿が見えてきたと思いきや、次々とアリバイが成立してしまうという窮地に陥る。このページ数で解決するのか?と読者ながら心配したことろへ、突然(唐突?)に訪れる光明!これが契機になり、スルスルと真犯人が判明してしまう。 じゃぁ、これまで散々読まされてきたフレンチの捜査行は一体何だったの?っていう感想も分かることは分かる。 でも、それこそが「リアリズムの良さ」なんだと思う。 とにかくフレンチは一生懸命である。無駄の可能性が高い脇筋にも丁寧に当たる。これこそが名探偵ものミステリーとは一線を画すクロフツの醍醐味に違いないし、これがなければクロフツではない。 ただ、既視感があるプロットなのは確か。 今回は富豪の家族内のいざこざというのが株価をめぐる真の動機を隠すうまい煙幕となっているのか・・・と思いきや、そこはさすがに作者も工夫してきてる。ただ、テイストとしては「マギル卿」や「英仏海峡」に近いし、そこら辺りはまぁ・・・いいっていうとこで。 でも、読了後は十分な満足感を得た。 あと、他の方も書かれているとおり、巻末の紀田順一郎氏の解説はなかなか読み応えがあり、的確なクロフツ評になっていると思われる。 |
No.23 | 5点 | フレンチ警部と漂う死体- F・W・クロフツ | 2021/10/02 09:13 |
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フレンチ警部シリーズとしては16作目、全長編作品としては記念すべき20作目となる本作。
今回もヨーロッパ大陸を股にかけてフレンチ警部が大活躍する(?) 1937年の発表。 ~イギリスの大富豪一族を襲った謎の殺人事件。フレンチ警部は、緻密かつ地道な捜査で証拠を集め、数々の仮説を立て、検証の果てについに真相に辿り着く。リアリズムミステリーの巨匠クロフツ、30作以上に及ぶフレンチ警部シリーズの未訳作品がついにヴェールを脱ぐ!~ (なんだ、この紹介文は!) 後期に入ったフレンチ警部シリーズ。今回も前半は登場人物が殺人事件に巻き込まれる顛末が描かれ、後半になってからフレンチ警部が登場、難航する捜査の果てに、ついに真相に辿り着く。 この展開は不変。もはや定番のプロット。 ただ、事件の様相がややこれまでとは異なる。特に第一の事件。 一族が集まるパーティーの席上で起こる毒殺事件。六人全員が砒素で毒殺未遂されるという派手な展開。 こんなのクロフツというよりは、新本格当りの作家がケレン味たっぷりに書きそうな展開だろう。 そして、事件が解決しないまま、地中海クルーズに旅たつ一族を襲う第二の事件。 これがタイトルの「漂う死体」につながっていく。 本作の評価をするなら、個人的には決して高い評価にはならない。 今まで半数以上のシリーズ作品を読み継いできた者としては、後期に入った本作は、正直なところ、劣化が目立つ作品に思えた。 2つの事件がバラバラで、ただボリュームを増すだけになっているし、動機についてはこれはもう後出しもいいところだろう。(個人的には、殺害される○○が、ああいう事件背景があるにもかかわらず、やすやすと真犯人の誘いにのって旅立つというのが、どうにも解せないのだが・・・) まあよい。今回は地中海を舞台にしたトラベルミステリーなのだ。ジブラルタル、マラガ、マルセイユ、そしてギリシア・・・フレンチ警部も捜査そっちのけでクルーズを楽しんでるし、読者もついでに地中海の風景に思いを馳せればいいのだ!(多分) |
No.22 | 6点 | 船から消えた男- F・W・クロフツ | 2020/11/02 21:48 |
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フレンチ警部登場作としては、数えて十五作目に当たる本作。
舞台はこれまでも度々登場した北アイルランド(大英帝国の一部だね)。今回もフレンチの地道な捜査行は実を結ぶのか? 1936年の発表。原題は”Man overboard!”(飛び降りた男?) ~北アイルランドの小さな町で平穏な毎日を送っていたパミラと婚約者ジャックが、ある化学上の発見の実用化計画に参加することとなった。発見とはガソリンの引火性をなくし、危険性のない燃料にできるというものだった。実用化されれば巨万の富を得るのは間違いない。計画は進み、ロンドンのある化学会社と契約成立も間近というとき、その化学会社の社員が失踪した。ロンドンへ向かう船から姿を消したのだ。数日後彼は死体となって発見された・・・~ 紹介文を見る限りは、いつものクロフツ、いつものフレンチ警部だろうと思ってた。 確かにいつものクロフツ、いつものフレンチ警部と言っても過言ではない(クドい!)部分が殆ど。前半は主人公役の素人が犯罪に巻き込まれるまでの顛末が語られ、中盤になってフレンチ警部が登場。靴底をすり減らしながら捜査を進めるものの、なかなか光明が見いだせない。「まだかよー」って思ってるさなか、終盤になって唐突に「光明が!」。そして解決。めでたしめでたし・・・というのがお決まりのパターン。 ただし、本作は若干異なる。 フレンチも捜査は行うものの、フレンチよりはベルファスト署のマクラング部長刑事の捜査の方が主。(マクラングは初期の名作「マギル卿最後の旅」でもフレンチに協力してくれた盟友) そして、終盤は不幸なことに逮捕されてしまった婚約者ジャックをめぐる法廷シーンが延々と描かれることとなる。 この法廷シーンがかなり念入り。検察側と弁護側のやり取り、応酬がかなり頁を割いて続くことになる。 読者としては、「フレンチはどうした?!」と言いたくなるなか、ラスト近くになってやっと再登場ということになるのだが、これが問題。 中盤最後のフレンチの独白シーンで、この時点でフレンチは凡その真相に気付いたと書かれているのだ。それなのに・・・そこから延々捜査が行われるのを見て見ぬふりをしたというのか! いくら北アイルランドの管轄外の事件とは言え、それはないだろうという気にさせられた。結局、最後はフレンチの見込みどおり、真犯人は逮捕され事件は終結ということになる。 私がマクラングなら、「もっと早く言ってよ!」って思わずにはいられないだろうな。スコットランドヤードも日本の警察と同様、縄張り意識が強いということなのかな。 ただし、作品の出来そのものはまずまず。シリーズらしい安定感のある作品ではある。 |
No.21 | 8点 | ホッグズ・バックの怪事件- F・W・クロフツ | 2020/04/19 18:23 |
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フレンチ警部登場作としては第十作目に当たる長編。
本作の前後には「クロイドン発十二時三十分」や「マギル卿最後の旅」が発表されるなど、クロフツ黄金期(!)とも言える時期の作品。 1933年の発表。 ~イングランド南東部の町で引退した医師J.アールが失踪した。最後に彼を見たのは妻で、自宅の居間で新聞を読んでいたという。その三分ほど後にはもう彼は消えていた。数日前、彼はロンドンでひとりの婦人と一緒にいるところを目撃されていた。調査に乗り出したフレンチ警部は、その婦人は看護婦で彼女もまた姿を消していることを探り当てた。フレンチ警部が64の手掛かりを挙げて事件の真相を解明する!~ これは力作だ。クロフツ好きの私としては、これまで「マギル卿」や「最大の事件」など佳作を読んできたけど、もしかしたら作品の「熱量」としてはこれがNO.1かもしれない。 最初は単なる情事の末の蒸発事件に思えた事件。片手間で取り組み始めた事件のはずが、徐々に広がりを見せ、フレンチ警部は連続殺人事件の許されざる真犯人を追うことになる・・・ これまでの事件だって、靴底すり減らして丹念な捜査を行ってきたけど、今回のフレンチはとにかく執拗でタフ。何度も壁に当たりながらも、決して諦めることなく、ついには真相にたどり着く。 うん。実に好ましい。 本作は、今までにないほど、フェアプレイに徹しようという作者の姿が垣間見えている。 それが紹介文にある「64の手掛かり」。フレンチの真相解明の場面で、それが書かれているページについて言及されるなど、ミステリーとしての新趣向にも取り組んでいる。 アリバイ崩しもかなり“凝っている”。「マギル卿」では鉄道や船までを使った大掛かりでワイドなアリバイトリックだったが、本作では逆に「ごく限られた区域」の「限られた時間帯」のアリバイが焦点。 正直、こんな危なっかしいトリック考えるかなぁ?というものではあるんだけど、作者の苦心の跡が窺えてなかなか面白い。 ということで、世評としてはそれほど…という本作だけど、クロフツ&フレンチ警部好きの私としては高く評価したい。 とにかく自身の職務を全うしようとするフレンチの姿に今回は痛く感激させられた。 (「…アールという男(医師)は培養菌-致命的な病気を起こす細菌の培養菌、を簡単につくる方法を発見しました。頭のいい者なら素人でもつくれる方法です。」・・・いやいや、こういうご時世にこういう文字を読むとゾクッとするね) |
No.20 | 7点 | ギルフォードの犯罪- F・W・クロフツ | 2019/11/19 21:28 |
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フレンチ警部登場作品としては十三作目に当たる本作。
因みにギルフォードとはロンドンの約43km南西、サリー州にある都市のこと。 1935年の発表。 ~ロンドン有数の宝石商ノーンズ商会の役員たちは、会議のためギルフォードに参集した。ところが前夜のうちに経理部長が殺され、さらに続けて会社の金庫から五十万ポンド相当の宝石が紛失していることが発見された。出馬したフレンチ主席警部にも金庫の鍵がなぜ犯人の手に渡ったのか説明のつかない状況であった。経理部長の死と紛失した宝石・・・このふたつの謎の関連はどこに潜んでいるのか? フレンチの執拗な捜査が始まる~ いつものクロフツ、いつものフレンチ警部。まさにその言葉がぴったりの作品だった。 特に今回はいつにもまして、フレンチの捜査は丁寧かつ執拗。靴底の2つや3つが磨り減ったに違いない(?)ような熱の入れよう。 「主席警部」に昇進して手がける始めての大事件ということが、フレンチの心理に大きな影響を与えているようだった。 まぁ、何十年前だろうが、警察だろうが、イギリスだろうが、組織の中で働く男なら相応の出世欲はあるし、一旦得た地位を失いたくないという心情が働くということだろう。(よく分かる話だ・・・) さて、今回の謎は紹介文のとおり、①経理部長の殺人事件と②大量の宝石の紛失事件、の2つ。 もちろんこの2つは有機的に関連していて、フレンチは双方の事件に苦しむことになる。 ②については、途中である装置(!)に気付くことで、謎の解明が一気に進むことに。この装置については、21世紀の現在からすると、ちょっとピンとこないのはやむを得ないところ。実現性には正直疑問符は付くけど、まずは作者らしい常識的な解法とも言える。 ①については終盤までフレンチも手こずるのだが、最終的にはアリバイ崩しの定番とも言えるトリックで解決に導かれる。 これも作者らしく現実的なトリックなのだが、いくら病人とはいえ、至近距離であの人物に近づかれてる訳だからなぁー、相当リスキーだよなぁーというのが弱いところ。 でも総合的に評価すれば“よくできてる”作品だと思う。何より、クロフツそしてフレンチ警部らしい捜査行を読むのが楽しい。 最後はイギリス~フランス~ベルギー、そしてオランダまでも真犯人を追っての追走劇。 ある意味、満喫させていただきました。クロフツ好きにとっての満足度は高いと思う。 |
No.19 | 5点 | チョールフォント荘の恐怖- F・W・クロフツ | 2019/08/08 21:42 |
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フレンチ警部登場作としては二十三作目に当たる長編。
フレンチが警視に昇進する直前、つまり作者後期の作品。 1942年の発表。 ~法律事務所を経営しているR.エルトンは郊外の見晴らしのよい高台に堂々たる邸宅を構えていた。ある晩、そのチョールフォント荘でのダンスパーティーの直前、彼が後頭部を割られて死んでいるのが庭園で発見される。犯人は誰か? 動機は遺産相続か、怨恨か、三角関係のもつれか? それぞれの動機に当てはまる容疑者はフレンチ警部の捜査の結果、次々にシロと判明するのだが・・・~ タイトルだけ見ると、「もしかして館もの?」って思いそうだけど、ご安心ください。いつものクロフツ、いつものフレンチ警部です。 他の方もご指摘のとおり、今回は若手刑事ロロの指導役を務めるというのが変わっているところ。 (いわゆるOJTですね・・・) ただ、さすがは作品を発表するごと、まるで年輪を重ねるが如く、年季の入ったシリーズになったのが分かる前半から中盤。 「まだるっこしい!」って思う方もいるかもしれませんが、そこはもう、このシリーズの醍醐味なわけです。 関係者ひとりひとりを丹念に事情聴衆。今回はほぼ全員が怪しいという事態に陥ります。 捜査の結果、怪しいと睨んだ容疑者はひとり、またひとりと容疑の外に消えていくという展開・・・ その間、ページ数はどんどん少なくなっていき、本当に解決するの?と読者を不安にさせます。 そして、本シリーズのお決まり。 最終章の2つか3つ前の章で、「ようやく曙光が!」というところに至るわけです。 こうやって書いてると、マンネリかよ!って思われそうですが、そうなんです。マンネリなんです。 でも、今回はロロに指導するためなのか、中盤の捜査行はいつにも増して緻密かつ丁寧。アリバイに至っては10分単位の細かさ! 結構期待が膨らんでました。 ただ、最後がいただけないなぁー こういうのを竜頭蛇尾っていうのかな。動機も拘ってたわりには、見え見えだったし、こんなタイミングで殺人をやらなければいけない理由が分からなかったな(この真犯人なら、もっといいタイミングがあったろうに、という感想) というわけで、そんなにいい評点はつけられない。まっ、よく言えば「重厚」という感じではある。 |
No.18 | 5点 | クロフツ短編集1- F・W・クロフツ | 2017/04/15 09:51 |
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~狡猾な完全犯罪を企む犯罪者や殺人鬼は、手口を偽装して現代警察の目を欺こうとする。一見、平凡な日常茶飯事や単純な事故の背後に、こうした恐るべき犯罪が秘められている場合が少なくない。本書はクロフツの数々の長編で活躍するフレンジ警部の目覚しい業績を収録した本格短篇集である・・・~
ということなのだが、全二十一編で構成される本作。ひとつひとつの作品は短編というよりショートショート+α程度の分量でしかない。 しかも、殆どが倒叙形式で、『犯人が止むにやまれぬ事情で殺人を犯す』⇒『アリバイを中心としたトリックを企図し弄する』⇒『ちょっとした穴をフレンチ警部(或いは警視)に発見される』⇒『逮捕』という構成になっている。 要は、限りなくワンパターンの作品が並んでいる、というわけだ。 これは・・・退屈だな。 クロフツもフレンチ警部の好きだけど、さすがに後半からはげんなりしてきた。Ⅱは読まないな。 一応、以下かいつまんで短評。 ①「床板上の殺人」=作者得意の列車を舞台とした殺人事件。ちょっとした物証が命取りとなる。 ④「シャンピニオン・ハイ」=これくらい気付けよ!っていうミスを犯す真犯人・・・ ⑨「ウオータールー、八時十二分発」=これも列車もの。結構多い。このミスも酷い。 ⑩「冷たい急流」=最後にガツン・・・っていうインパクト。死者の意地ってやつだな。 ⑫「新式セメント」=倒叙形式でない作品。かといって特別面白いわけではないのだが・・・ ⑮「山上の岩棚」=法定でフレンチが突如告発! 真犯人「ゾォー!」っていうラスト。 ⑰「ブーメラン」=犯人もまさに「アッ!」って思った見落としだろうな。 ⑳「かもめ岩」=犯人もまさに「アッ!」って思った見落としだろうな×2 全21編。 もう・・・お腹いっぱい(!) (ベストは・・・考えつかない。) |
No.17 | 5点 | フレンチ警部と毒蛇の謎- F・W・クロフツ | 2016/04/19 21:27 |
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クロフツ最後の未訳作品として話題となった本作。
1938年発表で作者として二十二番目の長編となる作品。 原題は“Antidote to Venom”ということで日本語訳すれば『解毒剤』ということかな? ~サリッジは英国第二の動物園で園長を務めている。申し分ない地位に就いてはいるが、博打で首は回らず、夫婦仲は崩壊寸前、ふと愛人に走る始末で老い先短い叔母の財産に起死回生の望みを託す。その叔母がいよいよ他界し、遺言状の検認がすめば晴れて遺産が手に入ると思いきや・・・。目算の狂ったサリッジは、悪事に加担する道を選ぶ。良心の呵責を別にすれば事はうまく運んでいた。フレンチという主席警部が横槍を入れるまでは・・・~ 作品中の殆どが動物園長を務めるサリッジの視点で書かれており、フレンチ視点の章は数えるほど。 要は倒叙形式のミステリーということなのだが・・・ 中盤までは彼が犯罪に手を染めるまでの過程が順に語られるとともに、伏線めいた材料がいろいろと撒かれていく。 彼と彼を犯罪に巻き込んだ共犯者の目論見が見事にはまり、検死審問で事故死という結論が出るが、フレンチ警部が登場するや否や、あっという間に形勢逆転。ふたりの夢は泡のように消えてしまう・・・ 粗筋を短くまとめるとこんな感じ。 計画がうまくいき、まとまった金が手に入ったことで、幸せをつかむはずだったはずのサリッジが、被害者となった老学者の影と罪の意識に悩まされ、徐々に追い込まれていくさま。 この辺りが本作の読みどころとなるのだろうが、印象的なラストと相俟って、作者の宗教観みたいなものが表れている。 倒叙形式というと、犯罪者たる主人公の心といかにシンクロできるかが面白さの鍵となるのだろうけど、作者はさすがにその辺りのツボは心得ている。 ただ「クロイドン」と比べると、やっぱり弱いかな。 他の方も書かれているとおり、本作の場合、主人公=実行犯ではないため、探偵役(=フレンチ)に自らが考え抜いたトリックを崩されるというカタルシスを味わえないことで、そこがどうしても弱くなっているのだと思う。 毒蛇をトリックと絡めてうまい具合に使っているのは感心したんだけど、犯罪計画を崩していく過程もちょっと安直かなと思うし、その辺のプロットがもう少し練られていたら、もう一段面白い作品になったのだろうと感じる。 評価としては可もなく不可もなくというところ。 (こういう男の心情ってイギリス人も日本人も一緒なんだなぁ・・・憐れ!) |
No.16 | 6点 | 二つの密室- F・W・クロフツ | 2015/11/08 19:21 |
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「英仏海峡の謎」に続くフレンチ警部ものの長編作品。
1932年発表。 原題は“sudden death” ~平和な家庭には影があった。病弱な妻、愛人がいる夫、典型的な三角関係から醸し出される不気味な雰囲気。悲劇の進行は、若き家政婦アンの目を通して語られる・・・。アリバイトリックの巨匠・クロフツが趣向を変えて密室トリックを考案した。ひとつは心理的、もうひとつは物理的ともいえるトリックで、このふたつが有機的に関連する殺人事件の謎にフレンチ警部が挑戦する!~ 確かにクロフツらしくないと言えばそう頷かざるを得ない。 何しろ「密室トリック」テーマなのだから・・・ 他の方も書かれていますが、クロフツといえばイギリスはおろか、フランス・オランダなど広域にまたがるアリバイトリックとそれを丹念に捜査するフレンチ警部(初期は違いますが)・・・というのが定番。 ファンにとってはその捜査行こそが一番の楽しみ=読み所なわけです。 (それを退屈と捉える方もいるでしょうが・・・) ということで問題の密室トリックなのですが・・・ まず「物理的」と紹介された最初の密室は図解も挿入され親切なのだけど、今ひとつピンとこなかった。 昔の設備に関するトリックだからという面もあるのだけど、それ以前にそこまでして・・・というWhyの方に無理を感じた次第。 (もちろん自殺に見せかけるという理由はあるにせよ) 次の密室は「心理的」と紹介されているが、これは拍子抜けと思われても仕方ないかな。 それほど堅牢な密室だし、これはトリックそのものに拘ったというよりは、二つの密室という舞台設定に拘ったと解釈すべきだろう。 密室ものになっても、やはりフレンチはフレンチで、トリック解明のために靴底すり減らすという捜査方法は不変。その辺りのダイナミズムは本作でも十分に味わえる。 「視点」の問題は当初あまり気にならなかった(途中から視点がフレンチ警部ら捜査方に変わるというのは他作品でもよくお目にかかるので・・・)のだが、本作では結構頻繁に視点が変わっている点が斬新といえば斬新。 フーダニットについてはちょっと唐突感があったかなぁー。(動機については果たして伏線があったのだろうか?) いずれにしてもシリーズ作品としてはやや毛色の違う作品ではある。 評価はそうだなぁ・・・やや微妙。 |
No.15 | 7点 | フローテ公園の殺人- F・W・クロフツ | 2015/01/11 21:08 |
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1923年発表。
フレンチ警部登場前の初期四作品のうち、「樽」「ポンスン事件」「製材所の秘密」に続く四番目に当たる。 創元文庫の復刊フェア2014の一冊。 (ここ最近復刊フェアでは必ずクロフツが入ってるよねぇ・・・) ~南アフリカ連邦の鉄道トンネル内部で発見された男の死体。それは一見何の奇もない事故死のようだった。しかし、ファンダム警部の迅速な捜査により、事件は一転して凶悪犯罪の様相を帯びてくる。しかし警部はこのとき自分がもっと悪質なトリックに富む大犯罪を手掛けているとは気付かなかった。やがて舞台は南アフリカからスコットランドへ移り、ロス警部が引き継ぎ犯人を追うことに!~ 良くも悪くもクロフツらしい作品。 初期作品に共通しているが、今回も二人の探偵役(ファンダム・ロスの両警部)が登場し、とにかく靴の底をすり減らす捜査を地道に行う。 最初に有望と思われた道はやがて行き止まりであることが判明し捜査は混迷するのだが、地道な捜査の甲斐があって、ついに真相につながる光明を発見する・・・ まさにいつもの展開だ! 当然ながら途中の捜査行が丹念に語られるわけで、その辺りを退屈と取ることはできる。 (あろうことか、訳者があとがきで「退屈」と評しているのだ!) 最終章に突入し、今回も「クロフツらしい生真面目な作品だったなぁ・・・」と思ってきた矢先に訪れた最後の一撃! これこそが本作のプロットの肝だろう。 もちろんアリバイ崩しも重要なガジェットなのだが、本作ではそんなことよりもこの僅か一行の衝撃で「読んだ甲斐があった」と思わせるに十分だろう。 まぁ、いくら○○でも、そこまで警察が見逃すのか? という当然の疑問はあるのだが、時代性もあるし、後から考えると伏線もフェアに張られていたなぁと思う。(クロフツのよくある“手”ではあるのだけど・・・) ということで、クロフツびいきの私としては高評価したい作品。 スコットランドという舞台設定も好み。 |
No.14 | 6点 | フレンチ警部の多忙な休暇- F・W・クロフツ | 2014/05/20 21:52 |
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1939年発表の長編。原題“Fatal Venture”(運命の冒険?)
アイルランドやスコットランドを含めたイギリス全土を舞台に、フレンチ警部が大活躍するクロフツ好きには堪えられない(?)一冊。 ~旅行者に勤めていたモリソンは、ふとしたことで知り合った男からイギリス列島を巡航する観光船の計画を聞かされ、その事業に協力することになった。やがて賭博室を設けた観光船エレニーク号が完成し、アイルランド沿岸の名所巡りを開始する。第一部では来るべき事件の前奏曲が、そして巧みに仕組まれた殺人が描かれ、第二部では船に乗り合わせたフレンチ警部の執拗な捜査が開始される!~ これも典型的なクロフツのフレンチ警部もの。 紹介文のとおり、本作は二部構成で、前半はモリソンの視点で殺人事件が起こり捜査が始まるまでが描かれ、後半は一転してフレンチ警部が登場し、事件を快刀乱麻のごとく解決する。 これも「フレンチ警部と・・・」というタイトル作品ではいつものパターンといえる。 前半は確かに冗長で、本筋とは結局関連してこない事業の詳細が紹介され、読者はそれにも付き合わされることになる。 「製材所の謎」などでも、前半は製材所の商売の謎が争点になり、事件発生の経緯が長々と書かれていたが、製材所の謎がメインの殺人事件と有機的に絡み合っていたのに比べ、本作では賭博船の商売そのものはあまり本筋には関係してこない。 (あまり書くとネタバレだが、「動機」には関わってくる・・・) その辺がプロットとしては不満点。 本筋の謎はアリバイトリックがメイン。 ただし、同じようにイギリス全土を舞台としていた「マギル卿最後の旅」のような大掛かりなトリックではなく、○○を使ったもの。 これ自体は国産ミステリーでも割とよく目にする手のものだし、「ふーん」程度の感想。他の佳作に比べても正直小品かなという気にさせられる。(ありていに言えば、マンネリということになる) まぁでもクロフツらしいと言えば、実にクロフツらしい作品。 登場人物のすべてが生真面目で、プロットも生真面目、トリックも生真面目・・・ クロフツ作品に親しんでいれば、結末はある程度予想できるところが玉に瑕だが、それなりに楽しめる作品には仕上がっている。 (アイルランドの観光地がいろいろと紹介されてるところもGood) |
No.13 | 7点 | スターヴェルの悲劇- F・W・クロフツ | 2013/12/29 21:48 |
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1927年発表の長編。
フレンチ警部ものとしては「フレンチ警部最大の事件」などに続く三作目に当たる作品。 ~ヨークシャーの荒野に建つ陰気なスターヴェル屋敷が一夜にして焼け落ち、当主と召使夫婦の三人が焼死した。当主の姪である若く美しい娘の旅行中の出来事で出火原因は不明。金庫の中に溜め込んだ莫大な量の紙幣も灰となった。だが、この火災に疑問を抱き、犯罪の匂いを嗅ぎとった銀行支配人の発言をきっかけに、フレンチ警部の捜査が開始される。事故だったのか、それとも殺人・放火といった忌まわしい犯罪が行われたのか。捜査が進むにつれ、残忍な犯罪者の邪な企みが浮かび上がることに!~ 実にクロフツらしい「堅実&堅確」な作品。 フレンチ警部のキャラクター同様、生真面目で着実なミステリーに仕上がっている。 作品としての骨組みは「フレンチ警部最大の事件」などとよく似ていて、フレンチの捜査が進展した中盤過ぎには、事件の概要はつかめるのだが、ラストにミステリーらしいドンデン返しが待ち受けている。 クロフツといえば「マギル卿最後の旅」に代表される「アリバイ崩し」が頭に浮かぶが、本作ではそういう要素は殆どなく、専らフーダニットに拘ったプロット。 ○れ○りを使ったミステリーは洋の東西問わず古典作品に多いので、気の利いた読者ならラストのサプライズは読みやすい手筋なのかもしれない。 もっとも、本作の場合、フレンチ自身が最後の最後まで真犯人を誤認しており、真犯人に気付いたのもちょっとした偶然からというのが珍しい。 (そういう意味では、読者が作中の探偵よりも先を越せるというレアな作品とも言えるなぁ) とにかくクロフツが好きという(私のような)読者であれば、満足できる作品だろう。 ただし、他作品より優れているかいうと、それほどでもないという感じで、作者としては「中の上」という評価。 (主席警部昇進に対するフレンチの功名心がそこかしこに書かれており、フレンチの“若さ”が感じられる) |
No.12 | 6点 | 製材所の秘密- F・W・クロフツ | 2012/12/06 20:35 |
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1922年に発表された、クロフツの第三長編作品。
処女長編「樽」、第2作「ポンスン事件」に続く作品だが、探偵役は著名なフレンチ警部(警視)ではなくウイリス警部。 最近、創元文庫で復刊されたものを読了。 ~商用でフランスに出掛けた旅行中のメリマンは奇妙なトラックに出会った。はじめに道ですれ違った時と、数分後に製材所で見た時とではナンバープレートの番号が違っているのだ。そればかりか、この発見に運転手は敵意に満ちた目で彼を見つめ、製材所の主任は顔を曇らせ、主任の娘はみるまに青ざめたのだ。ここではいったい何が行われているのか?~ これもやはりクロフツらしさ満載の作品と言っていいだろう。 殺人事件こそ発生するものの、作品のメインテーマはずばり「脱税事件」。 紹介文のとおり、ある英国の若者が、旅先のフランス・ボルドーで不思議な製材所とその関係者に出くわすところが出発点。興味を抱いた若者が友人を巻き込み、捜査を進めていくが頓挫するところまでが作品の前段として描かれる。 ・・・って、この展開はクロフツの十八番ともいえるもの。 有名な「樽」もそうだし、フレンチ警部登場作品でもたびたびお目にかかる。 要は、素人探偵がある複雑な事件のからくりを解明しようとするのだが中途に終わり、真の探偵役が登場すると瞬く間に真相解明までのスピードが上がっていく・・・という奴だ。 訳者あとがきを読んでると、本作と「樽」のプロットの共通性について言及されている。イギリス・フランスの両国に跨って大きな陰謀が跋扈するという構図は確かに共通しているが、やっぱりスケールでは「樽」に軍配が上がるだろう。 本作は、「謎解き」というよりは探偵たちの冒険譚、サスペンス性が重視されているので、その辺りが好みに合うかどうかというところがあるのだ。 まぁ、でもクロフツらしく一つ一つ丁寧な捜査シーンや盛り上げ方には一定の評価を差し上げたい。 (訳がやや硬い。せっかく復刊したのだから新訳にして欲しかったなぁ・・・) |
No.11 | 5点 | サウサンプトンの殺人- F・W・クロフツ | 2012/07/08 20:46 |
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お馴染みのフレンチ警部が「主席警部」となって初めて手掛けた事件という設定。
本作の発表年である1934年は、三大倒叙として名高い「クロイドン発12時30分」も出版された作者の円熟期と言える。 ~セメント会社ジョイマウントの取締役ブランドと化学技師キングは、暗闇に横たわる死体を前に立ちすくんでいた。経営危機に陥った社を救うためにライバル会社の工場に忍び込み、セメントの新製法を盗み出そうとした2人だったが夜警に見つかってしまい、殴った拍子に死んでしまったのだ。彼らは自動車事故を装って死体の始末を図るが、フレンチ主席警部がこの事故に殺人の匂いをかぎとらないはずはなかった!~ ちょっと中途半端な「倒叙もの」という印象が残った。 「倒叙」というと、ミステリーの醍醐味である「犯人さがし」を放棄する代わりに、警察の捜査や目撃者の出現に一喜一憂したり、徐々に追い込まれる心理にシンクロしたりというのが面白さなのだと思うが・・・ 本作ではその辺りが弱いのだ。 要は犯人側の視点とフレンチを中心とした警察側の捜査が交互に描かれてるせいで、どちらも中途半端になっているというワケ。 恐らくは第二の爆破事件の方で、倒叙ではなく普通に犯人捜しの要素を取り入れたためだとは思うが、これはちょっと失敗ではないか? まぁ「クロイドン」と同じプロットではさすがにダメだということだったんだろうなぁ。 出来栄えは「クロイドン」に到底及ばない水準になってしまった。 ただ、ブランドを中心に心理描写などは実に丁寧で、この辺はクロフツらしいなぁと思える。 ラストに隠されていた構図が明らかにされるのがミステリー作家としての矜持か? (東京創元社は数ある作品の中で何でこれを復刊したんだろう?) |
No.10 | 6点 | フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ | 2011/09/11 14:59 |
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フレンチが警視に昇進(メデタイ!)して最初に手掛けた事件。
最近東京創元社から出た新訳版で読了。 ~愛しいフランクの言葉に操られて詐欺に手を染めたダルシーは、張本人のフランクがある貴族の個人秘書に納まり体よくダルシーのもとを去ってからも、良心の咎める行為を止められずにいた。そんなある日、フランクの雇い主が亡くなったと報じる新聞記事にダルシーの目は釘付けになった。フランクは何て運がいいんだろう。これは偶然だろうか。一方、検死審問で自殺と評決された事件の再審査が始まり、フレンチが出馬を要請された~ クロフツ作品の1つの「典型」とも言える作品でしょう。 中盤まではフレンチが登場せず、ある事件に巻き込まれる主人公の視点で、事件の概要や展開が描写されていく。 事件がのっぴきならない段階まで進展したところで、やっとフレンチが登場。捜査を開始するやいなや、加速度的に事件のからくりが解明されていく・・・ 本作もまさにこの「流れ」そのもの。 ただ、本作はそれ以外のプロットがやや変わっていて、そこは面白かった。 普通なら、『(事件に巻き込まれた)主人公』⇒『フレンチ』という流れだが、本作はとある理由のため、『主人公』⇒『著名な法律家』⇒『私立探偵』と『フレンチ』 とかなり複雑な構成になっているのだ。 ただ、フーダニットにしろハウダニットにしろ、やや中途半端な感は拭えない。 特に、自殺に見せかけた他殺の仕組みがちょっと分かりにくいところが難点。 というわけで、初期の佳作に比べれば、1枚落ちる作品という評価にしかならない。 |
No.9 | 5点 | フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ | 2011/07/11 22:40 |
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フレンチ警部登場作品としては、「フレンチ警部最大の事件」に続く第2作目。
純粋なミステリーというよりは、冒険小説とでもいうべき作品でしょうか。 ~快活な青年チェイン氏は、ある日ホテルで初対面の男に毒を盛られ、意識を失ってしまう。翌日自宅へ帰ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す~ ちょっと微妙な感じの作品。 クロフツといえば、地道な捜査による「アリバイ崩し」がハイライトですが、本作はそれとは無関係。 第1部では、チェイン氏が何度も犯人グループに襲われ、どうやらその理由が友人から受取った手紙に関係していることが分かる。そして、仲間に加わった女性が拉致されるに及んで、フレンチ警部に救いを求めるところから第2部が始まり、主題は「暗号の解読」に・・・というのが大まかな粗筋。 あまり捻りはなく、正統派の冒険小説という感じですし、暗号も複雑に見えましたが、フレンチ警部があっさりと解明してしまいます。 唯一、犯人が手掛かりとして残した紙切れをもとに、フレンチが問題の都市とホテルを捜索する場面にクロフツらしさを感じてしまいました。 (確かに、ブルージュもアントワープもいい街です) でも、フレンチ警部にはバカ正直な捜査&アリバイ崩しが似合うなぁというのが1ファンとしての正直な感想ですね。 |
No.8 | 5点 | フレンチ警部と紫色の鎌- F・W・クロフツ | 2011/01/10 22:30 |
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フレンチ警部シリーズの第5作。
映画館の切符売りの女性だけが狙われる連続殺人事件の謎にフレンチが挑みます。 ~映画館の切符売りをしている娘がフレンチ警部の元に助けを求めてきた。ふとしたことから賭け事に深入りして大きな借りをつくり、怪しげな提案を受け入れざるを得なくなったというのだ。ところが、相手の男の手首に鎌のような紫色のあざを見たとき、変死した知り合いの娘のことが思い出されて・・・~ フレンチ警部といえば、地道かつ丹念な捜査を続けていくなかで、「ついに光明が!」という展開がいつものパターンですが・・・ 今回はいつにも増して苦労の連続。 自宅で捜査の助言を愛妻に頼るほど行き詰ることに・・・(フレンチの妻は実際、「フレンチ警部最大の事件」で事件を解く鍵をフレンチに与えた実績あり!) 殺人事件の謎よりも、切符売りの女性を利用してある大きな犯罪が行われており、本作ではこれを暴くことがメインテーマになります。 ただ、読者にとっては、事件のカラクリ自体の想像はつくものの、だからといって特にトリックやロジックがあるわけでもなく、サスペンス性もそれほどないわけで、どこを楽しんでいいのか分からない作品。ただ単に、フレンチがもがき苦しむさまを延々と読まされる感じになってしまいました。 ラストは犯人グループとの格闘シーンまであり!(ただし、ハードボイルド的な要素も特になし) |
No.7 | 5点 | 死の鉄路- F・W・クロフツ | 2010/11/12 23:54 |
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フレンチ警部物の長編。
鉄道工事現場が作品の舞台となっていますが、これは作者の前職(鉄道技師)での経験がフルに生かされており、なかなか読み応えのあるストーリーにはなっています。 クロフツ作品らしく、容疑者1人1人のアリバイ&動機を丹念に調査し、その結果有力な容疑者が犯人として逮捕されますが、これが何と「誤認逮捕!」 最後はフレンチではなく、容疑者の恋人が真犯人を特定する有力な証拠に気付き、逮捕に至るという始末! 『主力の探偵役が結局事件を解決できず、他の登場人物が真犯人を指摘する』という展開がほかの作品でも見られますが、特に今回はそれがヒドイ! この程度なら、当然フレンチ自身が捜査のうえ気付いて当然じゃないかと思わずにはいられません。読者に対してもこの事実が最後の最後にやっと提示されるので、その点でも不満が残ります。(動機も) ちょっと貶し過ぎかな? |