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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.7 6点 江戸川乱歩全短篇<2>本格推理(2)- 江戸川乱歩 2009/11/30 16:16
※以前読んだ『屋根裏の散歩者』は評価対象外です。
<ちくま文庫>本格推理物に該当する短篇・中篇だけを集めた作品集です。
中篇も読める作品集ですが、中身は短篇と大差がない。正直『江戸川乱歩全短篇』の中で一番つまらなかったです。乱歩氏の作品を「本格推理」小説として読むと書評が書きにくい。正直ネガティブな印象しかありません。『陰獣』でさえも・・・
私的ベスト『何者』・・・第一の(捨て駒)真相では足跡に関する細かな気付きが、第二の真相では「一人〇役」という発想が面白い。総合して、この作品が最も「本格推理小説」らしい。ただ、その分独特の味わいが薄く、乱歩らしさがない。
次点『湖畔亭事件』・・・レンズ狂(変態趣味)と本格推理の融合を試みた作品です。真相が小粒かつ曖昧です。長いくせに締まりがない。
『鬼』『堀越捜査一課長殿』『陰獣』『月と手袋』・・・「変装」トリックが好きではない。「一人〇役」によって「架空の人間を犯人役に仕立て上げる」という発想は好きですが、変装が絡むと評価が下がる。個人に関する証明手段が発達した現代を生きる自分にとっては違和感を感じます。

No.6 6点 化人幻戯- 江戸川乱歩 2009/10/31 02:04
<江戸川乱歩全集14>明智小五郎シリーズです。
確かに「動機」は衝撃的ですね。最後の最後で江戸川乱歩氏の悪い持ち癖が露呈しちゃっています。これは考え付かないですが、妙に説得力は高めです。特に「カマキリ」を動機と結び付けるあたりが秀逸。クライマックスだけでも読む価値はありそうです。
ただ、本格推理物として評価するなら駄作です。まずフーダニットが陳腐です。明智小五郎が疑いを持ったきっかけや決定的な証拠など細かな指摘まで丁寧に描かれていましたが、納得できなかった。展開も見え透いていてミスリードされない。
ハウダニットも魅力がない。二つのアリバイトリックに関してですが、特に時間差トリックが強引過ぎます。賢いやり方とは言えず、凄さが伝わらない。実行した犯人がバカに思えます。
他にも暗号や密室トリックなど本格的な素材をふんだんに取り入れているが、巧く生かせてない。さりげなく海外古典のトリックを種明かしするのもやめてほしい。

No.5 6点 江戸川乱歩全短篇<1>本格推理(1)- 江戸川乱歩 2009/10/27 22:25
※以前読んだ『二銭銅貨』『心理試験』『D坂の殺人事件』は評価対象外です。
<ちくま文庫>本格推理物に該当する短篇だけを集めた作品集です。江戸川乱歩氏特有の「奇妙な味」が薄い。故に印象が残りにくく、読んだ傍から忘れてしまいそうな作品が多いです。特に『黒手組』『幽霊』『指環』『接吻』は駄作に近いでしょう。
私的ベスト『断崖』『疑惑』『灰神楽』・・・「プロバビリティーの犯罪」の奥深さを知ることができ、安全性が高く知的なトリックであることが分かった。ただ「正当防衛に見せ掛けた計画的犯行」は手を汚していることになる気がしますが・・・
次点は『恐ろしき錯誤』・・・復讐者が企てた計画の顛末を描いた作品です。思わぬケアレスミスによって自惚れから急転直下で発狂に陥る様が微笑ましい。「喜怒哀楽」の表現が起伏に富み、犯人の心境が際立つ倒叙型ミステリーとして高評価です。
また『日記帳』『算盤が恋を語る話』・・・横溝作品に登場する肉食系男子とは対照的の「内気な」草食系男子の恋物語を描いた作品です。恋相手に愛のメッセージとして「暗号を送る」という発想が不器用すぎる。皮肉にも数少ない「暗号」物として楽しめた。
他には『盗難』『一枚の切符』『石榴』・・・決定的な証拠が曖昧なため真相が覆りやすく締まりも悪い。それ故、ドンデン返しが繰り返されても「どうせ違うだろ?」という先入観が先走り驚きが少ない。そんなプロットはあまり好きではない。
『火縄銃』『兇器』・・・古典的なトリックを使った本格推理物で読みごたえがありましたが、トリックを海外古典から借用した点であまり高く評価したくない。

No.4 7点 江戸川乱歩全短篇<3>怪奇幻想- 江戸川乱歩 2009/09/29 19:51
※以前読んだことのある『人間椅子』『お勢登場』『木馬は廻る』『白昼夢』『火星の運河』『押絵と旅する男』『目羅博士』『鏡地獄』は評価対象外です。
<ちくま文庫>江戸川乱歩の「怪奇幻想」に属する作品だけを集めた短編集です。明智小五郎or少年探偵団は登場しません。
私的ベストは『赤い部屋』・・・イタズラ好きの究極系「プロバビリティーの犯罪」を描いた作品です。「生」と「死」を言葉一つで操る変態青年の行為にゾクゾク感が止まりません。しかもラスト数ページの二転三転が「神懸かり」過ぎ。これを読んで「退屈」と感じる者はいないだろう。
万人にオススメできない私的裏ベストは『芋虫』『虫(蟲)』・・・「歪んだ愛」の究極系として高く評価したい。どちらのタイトルも人間の「ある姿(状態)」を表現していたことに、まず驚く。そして「愛」=「憎悪」の意味を知り、愕然とした。
次点は『防空壕』『一人二役』・・・究極の「妄想バカ」系として高く評価したい。思考回路が可笑しすぎる。思わず「ニヤリ」としてしまった。まさに愛すべき「バカ」だ。
次次点(?)は『双生児』・・・指紋トリックの盲点に驚かされた。当事者である犯人が、誇らしげに自ら体験談を語るという設定が微笑ましい。
総合してハズレがない。ただ中盤の中だるみが懸念材料。これは「名作で始まり、名作で終わる」といった構成(たぶん)なので仕様がない。ただ、未完成作品の『悪霊』『空気男』が同時に読めるのはレアかもしれない。

No.3 6点 暗黒星- 江戸川乱歩 2009/08/31 01:44
(多少ネタばれ)
<江戸川乱歩全集13>明智小五郎シリーズ(中篇/1939)です。
「館の惨劇」系本格ミステリ。やはり犯人が分かりやすいです。終始疑惑の対象となる綾子の不審な行動はそれなりの真相を持っていますが、犯人でないことは誰が読んでも予測できるのでミスリードされることはないでしょう。確かに犯人は頭が良かったです。それ故に余裕があり、サービス精神も旺盛です。ただ、神出鬼没な過剰演出または徹底すぎる配慮が仇となり、逆に自ら犯人であることを強調してしまっている点で、犯人当ての本格推理物には成りえず「悲喜劇」レベルに留まっています。江戸川乱歩の犯人役は目立ちたがりの過剰演出家なので絶対『暗黒星』に成りきれないでしょう。だから本格推理物にするのでなく『心理試験』のように倒叙ミステリーの形で犯人の心理を前面に押し出して、より才気溢れる構成にした方が味が出る気がします。

No.2 6点 地獄の道化師- 江戸川乱歩 2009/08/28 15:16
<江戸川乱歩全集13>明智小五郎シリーズ(中篇/1939)です。
怪奇幻想趣味(変格)よりも理知的興味(本格)に重点置いた推理小説とのこと。最大の謎となる地獄の道化師の正体はなんとなく察することができました。明智が語った「逆説論」を心得ていた点が大きく、動機の観点から考えても分かりやすい犯人当てでした。でも、ある手を使ったミスディレクションが多用されてるため最後の最後まで確信が得られないプロットになっていた点でミステリの質は高めです。中編の推理小説だったことや二重三重の偶然に頼った部分で少し点数を低めにしましたが、江戸川乱歩の「本格」を味わいたい人にはオススメできる作品です。

No.1 7点 江戸川乱歩短篇集- 江戸川乱歩 2009/07/03 14:27
<岩波文庫>江戸川乱歩の傑作選です。
「奇妙な味」というジャンルがどんなものなのかを知れたことが一番の収穫でした。江戸川乱歩の作品では「変態妄想癖が激しい登場人物が繰り出す悪趣味な愚行」がそれにあたるのかな。本格推理を意識して書かれた『二銭銅貨』『D坂の殺人事件』『心理試験』は正直つまらなかったです。それらよりも「奇妙な味」に該当する『屋根裏の散歩者』『人間椅子』『鏡地獄』などの作品の方が楽しめました。以下それぞれの感想です。
『屋根裏の散歩者』・・・有栖川有栖の短編で似たのがあったのを思い出しました。本格的センスでいえば有栖川有栖の方が上ですね。でもどちらも捨てがたい。
『人間椅子』・・・タイトル通り過ぎて笑えた。ニヤニヤしながら読んでいましたが、終盤あたりで背筋から「ゾワッ」とする何かを感じずにはいられなかったです。ラスト数行のオチも利いていました。
『鏡地獄』・・・ジャニーズの嵐さんも番組で「鏡」を使った実験を幾度もやってましたね。ワクワクしながら観ていた人も多くいたでしょう。球体を使った変態プレイと似た実験もしていたけど身体への影響はないのかな?鏡の魔力は現代でも健在ということですね。
(2009/8/19追記)
新潮社『江戸川乱歩傑作選』の方が代表作だけを読む分には優れているので、この短篇集はあまりオススメできませんが、十分に楽しめることは確かです。

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