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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1490件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.16 6点 転倒- ディック・フランシス 2018/05/18 23:13
ディック・フランシスの邦題には疑問を感じることがかなりありますが、本作でも "Knock Down"(普通に訳せば「打倒」でしょうか)を「転倒」ねえ。しかし原題の意味もよくわかりません。まあそれでもストーリー上必要なことではありませんし、レース中でもありませんが、一応馬が転倒するシーンはあります。
最後の犯人の意外性はさほどではありませんし、伏線も今一つですが、フランシスがこのような意外性を狙い、さらにクライマックスでしばらくは「彼」という代名詞しか使わずその正体を隠す手法を使ったことに驚かされました。意外と言えば、そのシーンである重要登場人物(犯人ではない方)がどうなるかという点も、フランシスには珍しいでしょう。その後の最後の1ページがまた、こんな不安定な終わり方にするのかと面喰いました。
途中はむしろ地味な展開ながら、さすがにフランシスらしいおもしろさでしたが。

No.15 6点 暴走- ディック・フランシス 2015/05/19 23:45
競馬スリラーの中でも、本作は舞台がイギリス国内ではなくノルウェーである点が珍しいと言えるでしょうか。開幕早々、その10月の冷たい海中に、主人公は投げ出されてしまいます。まだどんな事件かほとんど説明されないうちからの危機一髪シーンという構成は、期待を抱かせます。
主人公は英国ジョッキイ・クラブ調査部主任で、冒頭のつかみの後は競馬の売上金盗難事件に関する聞き込み調査になります。で、80ページぐらいで早くも、調査結果から事件のからくりを説明してしまいます。この推理が非常に論理的ですし、以後についても本作はかなり謎解き的要素を重視した作りになっています。一方でさらに主人公が殺し屋に狙われたり、自動車爆発シーンがあったりと、派手な見せ場もあります。
ただ、フランシスとしては緊迫感は並み程度かなというところでした。締めくくり方も悪くはないのですが、鮮やかさには欠けるかなと思いました。

No.14 6点 侵入- ディック・フランシス 2014/09/22 23:02
2冊ある騎手キット・フィールディング登場第1作とまずは言っておきますが、フランシスは同一主人公を通常使わない作家ですから、『大穴』だってそうですが、本作もシリーズ化を最初から考えていたわけではないでしょう。
読後に振り返ってみると、ミステリとしては実に地味な事件です。大筋は、主人公の妹夫婦の経営している厩舎が、悪意の中傷記事によって窮地に追い込まれたのを、何とかして救い出すというだけで、殺人は1件も起こりません。中傷記事が書かれた背景には、義弟の父親(何とも嫌な奴です)に対する陰謀があるのですが、そのからくりも大したことはありません。しかしそれでも、ストーリー展開の仕方はうまく、それをフランシスの文章で書かれるとおもしろいのです。
また、レース・シーンの描写が特に多く、競馬小説として充分楽しめるのも本作の特徴となっています。馬主のカシリア王女がいいキャラクタですね。

No.13 7点 混戦- ディック・フランシス 2013/12/15 18:31
今回の主人公はフランシスには珍しく、競馬にはほとんど興味がないと明言する男です。彼-作中の「私」の職業はエア・タクシーのパイロットということで、専ら航空アクションを引き受け、競馬関係は常連客である他の登場人物たちに任せています。
3つのヤマ場が非常にはっきりした作品です。1つめは多少不安感を与えておいた後で突然意表をつく派手な事件。その事件の犯人を主人公が推測するに至る穏やかな部分の後、2つ目が緊迫した飛行機サスペンス。そして3つ目が最終対決部分、ということになります。
事件と恋愛との絡め方もなかなかいいですし、動機を中心とした謎解き興味もあります。フランシスの中でベストの1つと推す人もいるようですが、ヤマ場と平坦な部分とが明確に分かれすぎているのが、多少リズム感を崩しているようにも思えました。

No.12 5点 配当- ディック・フランシス 2013/06/30 18:49
フランシスの異色作で、前半と後半の2部に分かれ、兄と弟それぞれの一人称形式で書かれています。その2部の間に14年の歳月が流れているのですが、現在から見るとそのような間をあけるのが不向きなアイディアでした。的中確率1/3という競馬予想システムのプログラムを記録したカセット・テープを巡る話で、1981年作というと、確かにその頃はコンピュータ・ソフトをテープに記録していましたねえ、と懐かしく思い出すのですが、その後すぐに今でもまれに使われるフロッピー・ディスクに取って代わられますから。
まあコンピュータに関する知識と将来予測についてはさておき、他の面でも2部構成にしたことに不満はあります。本作の悪役はこの作者の中でも特に知性に欠けるのですが、14年後にも何の進歩も見られず、後半の話が単純すぎるのです。ラストは意外性があるとは言えるかもしれませんが。

No.11 9点 利腕- ディック・フランシス 2013/02/28 21:03
フランシス中期の代表作との前評判に違わぬ傑作でした。フランシスが一人称で男の生きざまを描く作家であることは先刻承知なのですが、いやあ、ここまでやられるとまいったと言わざるを得ません。最初のうちはまだ、普通同一主人公を使わない作家のくせになんで『大穴』のシッド・ハレー再登場なんだ、とケチもつけていたのですが、これは納得。
開幕早々、シッドは次から次へと3つの事件を引き受けてしまい、それぞれが裏でつながっているわけでもなさそうなのに、どうするつもりなのかと、心配していたのですが、それも杞憂に過ぎませんでした。こんなふうに全体としてまとめることもできるんですね。
また、フランシスの作品では悪役は不愉快な、残忍なというだけの人物が多いようですが、本作のラスト・シーンで示される悪役の思考、行動には驚かされました。この息詰まる対決シーン、まさに名場面です。

No.10 6点 大穴- ディック・フランシス 2013/01/04 13:20
今まで読んだディック・フランシスの中で、原題の意味が最もとりにくいのがこの作品です。against all odds だったら大きな困難にもかかわらずという意味になりますし、odds にはハンディキャップの意味もあるので、シッドの片手が使えないのを表しているようにも思えます。大穴(一般的にはもちろんdark horse)的な意味も含めて、様々なニュアンスを込めているのでしょうか。
フーダニット的な要素というと、クライマックスでちょっと意外な共犯者が現れるぐらいのことですが、トラック事故の起こし方や最後に悪役たちがどんな「事故」を画策しているのかといったあたり、ミステリ的な要素も冒険スリラー系としてはかなりあると思います。ただ、シッドを過少評価させる策略が活かされていないという点はminiさんに全く同感です。正体がばれそうになるはらはら感をもっと味わせてくれるのかと期待していたのですが。

No.9 7点 直線- ディック・フランシス 2012/10/22 20:52
直線ねえ、というのが読み終わって感じたことでした。と言っても原題”Straight”を内容に則した「実直」と訳したのでは、確かに冴えませんが。作中の言葉を使えば、主人公や冒頭で事故死する主人公の兄の「まとも」さということです。競馬の直線コースとは何の関係ありません。
騎手であるその主人公は最初から落馬で左足を骨折していて、動くのにも不自由ですから、彼自身はハードなアクションはほとんどできません。宝石商だった兄が死の直前に取り扱っていたダイヤの行方、強盗事件、さらに書き出し1段落で予告してある主人公が殺されそうになる事件、それらの謎の真相はどれもたいしたことはないのですが、うまく絡めてサスペンスもあり、最後までおもしろく読ませてくれます。
兄が様々なハイテク機器に興味を持って集めていたので、後になってそれらが活用されるのではと思っていたのですが、当然の一つだけだったのが、少々残念。

No.8 7点 煙幕- ディック・フランシス 2012/08/11 08:50
これは一流と言われるプロフェッショナルに対する讃歌だ、と断言してしまいたい作品です。そのことを端的に示しているのがラスト数行で、最後の決め台詞も、いかにもではありますが、いいなあと思わせられます。そして、フランシス自身一流の作家であるのも間違いのないこと。
プロット自体はいたってシンプルで、えっ、もうクライマックスに突入しちゃったの、と驚かされたほどです。このじわじわとしんどさが増してくるクライマックス部分の描き方はさすがです。しかし一方ミステリ的な点では、馬を不調にする動機がおもしろい程度で、それも考えてみれば少々不自然です。
乗馬スタントマンから出発したスター俳優が主役という点は、ちょっと意外性があります。冒頭シーンは当然のように撮影現場で、競馬とは何の関係もないのですが、映画ファンでもある自分としてはこれだけでもなかなか楽しめました。

No.7 7点 本命- ディック・フランシス 2012/06/26 23:13
いかにもディック・フランシスらしい作品を求めるのであれば、確かに本作はふさわしくないでしょう。まず主人公が最初から警察と連絡を取りながら事件の裏を追っていくという点が、後続作品と違います。また現在までに読んだ7冊の中では、ホームズとかチェスタトンといった過去の探偵・作家名を引き合いに出しているのも本作だけです。それだけに、主人公の推理は時にクイーンをも思わせるほど論理的なところがあります。そう言えば、綴りはわかりませんし姓ですが、エラリイという名前の人物も登場します。語り口にもユーモアがあったりして、爽やかな雰囲気が感じられます。
しかし、フランシスの出発点はここだという意味では、本作をまず手に取るのもいいのではないでしょうか。最後まで謎解き的な興味も、サスペンスやアクションも続く秀作です。犯人側の人物の行動で1ヶ所、これはさすがにあり得ないというところはありますが。

No.6 7点 反射- ディック・フランシス 2012/05/26 20:08
フランシスはもちろん競馬の専門家で、本作の主人公は騎手ですが、一方アマチュア写真家でもあるという設定で、写真現像等についての専門知識もたっぷり披露してくれます。謎解き要素は、事故死(?)した辛辣な写真家が残した特殊加工フィルムに何が写されているのかの解明に集中しているのです。
派手なアクションやスリルはほとんどありません。最後の方で、主人公が二人のごろつきに痛めつけられる程度。むしろモジュラー型に近い、様々な事件のそれぞれに解決をつけていく構成がおもしろい作品です。ただし複数の事件が、写真家のフィルム等の要素でつながっているところがうまくできています。
邦題「反射」に相当する単語はReflectionですが、原題は “Reflex”。内容に即せばもちろん写真用語で、一眼レフの「レフ」です。「写像」というタイトルはどうでしょうか。

No.5 7点 査問- ディック・フランシス 2012/02/13 21:10
最後の執拗なまでのアクションが印象に残った前作『罰金』の後、今回は意外にアクション度の低い作品です。おなじみ主人公の不屈の精神というのもそれほど感じません。もちろん、粗筋などからも明らかなとおり、八百長疑惑を受け、査問で騎手資格を剥奪された男が、自分を罠にかけた犯人を見つけ出すというストーリーですから、フランシスらしさはあります。しかし全体的にはむしろかなり普通のミステリに近いタイプで、フーダニット的興味が最後まで続きます。
誰が殺されるかわからないような状況のクライマックス(実はその後にもう一ひねりあります)にしても、スリルよりもむしろサスペンス重視ですし、前作のような圧倒的な印象を残すというのではないのですが、事件解決後のエピローグのさわやかさを含め、全体的に見てやはりよくできていると思います。

No.4 6点 血統- ディック・フランシス 2011/10/16 08:06
本作の主人公は英国諜報部員ということで、フランシスには珍しく、捜査の専門家です。休暇中に上司の友人から依頼された事件とはいえ、巻き込まれ型ではありません。アメリカを舞台に、盗聴器などを駆使して、敵に迫っていきます。
有名な種馬の失踪事件ですが、犯人としては自分の持っているのがその名馬であることが人に知られては困るわけですから、金に換えることができない。となると、動機は何か、というのが第1の謎です。もうひとつの謎は、馬を盗まれた依頼人を殺そうとまでした理由は何か、とういうこと。どちらもきれいに解決はしているのですが、まあたいしたことはありません。
ではアクションの方はというと、偶然を利用してラストで盛り上げてくれてはいますが、今までに読んだフランシスの他の作品と比べると、さらにもう一山あってよさそうなところです。
主人公のキャラクターを始めとした登場人物の描き方はさすがですが、点数は少し低めで。

No.3 7点 飛越- ディック・フランシス 2011/05/20 22:28
ディック・フランシスの中でも、騎手としてよりむしろ第二次大戦中の空軍パイロットとしての経歴を生かして書かれたという意味では異色作と言えるでしょう。もちろん馬も出てくるんですけれど。
本作では、はっきり事件が起こるのは全体の4割を超えてから。それまでにも本筋とは関係のない謎解きが一つあるとは言え、ほとんどミステリとは思えない馬と飛行機の話が続きます。まあその中にもいろいろと伏線は書き込まれているのですがね。しかしそれでもこの前半、やはりこの作家らしい力強い文章で読ませてくれ、個人的には退屈しませんでした。
で、友人の失踪という事件が起こってからは、ちょっと競馬の寄り道はあるものの、後はストレートにクライマックスまで一本道です。調査も多少は行うのですが、あっという間に主人公は敵の手中に落ちて、後はスリルとアクションの脱出劇。非常に単純な話ですが、最後まで息をつかせません。しかし、あの再生はちょっと安易だな、とか結局あの人は助かるのか、とか、気になる点はあります。

No.2 8点 罰金- ディック・フランシス 2011/01/29 09:27
アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。今回の語り手=主役は新聞の競馬担当記者です。弱音を吐きながらも、人気馬の出走取消にからむ不正を暴き、馬を守ろうとする彼が熱い。その主役の奥さんの設定が、本作の核になっています。この夫婦の関係、奥さんへの愛情が実にいいのです。さらにいい女、いい友人といった人物の描き方もさすがですし、終盤のサスペンス、アクションも緊迫感十分。ラスト2行だけは、なかった方がいいように思えましたが。
一方、謎解き的要素は全くないといっていいほどです。悪役については、常識の通用しないこだわりはまあいいとしても、問題は記事を書くかどうかではなく、記事が掲載されるかどうかだというあたりまえのことに気づかないらしいのでは、知的なおもしろさは最初から放棄しているということでしょう。
ところで、Forfeitという原題、確かに辞書では「罰金」の意味が最初に出てくるのですが、それでは内容に合いません。むしろ没収・剥奪の意味なのかもしれません。

No.1 8点 興奮- ディック・フランシス 2010/02/18 21:07
2月14日に死去した競馬ミステリの巨匠、実は競馬に興味がないこともあって、本作を20年以上前に読んだっきりでした。今回久々の再読です。
冒頭オーストラリアで牧場を営む主人公が、突然イギリス競馬界の潜入捜査を依頼されます。それで一晩考えた末に引き受ける決意を固めるところを、「常識が負けた。」という1文で表現するなど、上手いものだと思いました。アメリカ産ハードボイルドからの影響も感じられます。一応イギリス冒険小説の伝統につながるとされてはいるようですが。
レース途中で馬をタイトルどおり異常に「興奮」させながら、薬物使用の痕跡が全くないというのがメインの謎で、知的サスペンスもあります。終盤で主人公が危機に陥る原因も、意外なところが伏線になっていたりして、構成が本当にしっかりできている作品です。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1490件
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