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殺意の海辺
ジョン・ディクスン・カー他
リレー長編 出版月: 1986年02月 平均: 4.00点 書評数: 1件

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早川書房
1986年02月

No.1 4点 2019/09/14 15:11
 「お願いよ! これ、わたしの、生きるか死ぬかの問題なの!」
 イギリス南海岸の保養地プレストン。周囲の喧騒にうんざりしながら行楽客で賑わう遊歩道路を歩いていた推理作家フィル・コートニーは、突然駆け寄ってきた若い女にこうささやかれた。金髪にグレーのひとみ。すばらしい美人だが、まるで見ず知らずの女。彼はわけがわからぬまま、彼女と共に見世物小屋のひとつ〈なつかしの幽霊水車場〉行きのボートに乗り込むが――
 ジョン・ディクスン・カーのラジオドラマ「死を賭けるか?(一九四二年CBS放送)」と同シチュエーションで始まる表題作と、ドロシー・セイヤーズが音頭を取り、英国女流作家陣で固めた「弔花はご辞退」。以上二本を収録したリレー中篇集。前者は「News Chronicle」誌に、後者は「Daily Sketch」誌に、それぞれ一九五四年、一九五三年の掲載。著名メンバー頻出の後者はともかく、カー以外ほぼマイナー作家陣で書き継いだ表題作は少々アレな出来。リレーの問題点が全部出たような仕上がりです。
 タイトルとオープニングからカー本人はもっと無難な着地を期待していたと思われますが、立て続けのムチャクチャな展開の中で、バトン走者の一人がペンを滑らせた事からさあ大変。トリを受け持つエリザベス・フェラーズ(「私が見たと蠅は云う」の作者)は、なんとスパイ小説として強引に纏めてしまいます。いきなり核物理学者とか出されても、正直困るよなあ。
 破綻しまくりの前者に比べると後者は遥かにマトモ。周辺から孤立した田舎屋敷に、住み込みコック兼家政婦として雇われたおばはんのサスペンス系推理物です。トップバッターを務めるセイヤーズの筆力はさすがで、ここでしっかり登場人物が描かれるため、後半に至ってもブレが殆どありません。クリスティーと並び称される実力の程を再認識した次第です。
 E・C・R・ロラック、グラディス・ミッチェルと引き継いで、こちらのトリはクリスチアナ・ブランド。サスペンスにどんでん返しも加え、味のある田園ミステリとして手堅く纏めています。願わくばもう少し紙幅があると良かったなあ。
 採点は3点+5点÷2=4点。「弔花はご辞退」の方は、アレな相棒に足引っ張られた感じでやや気の毒。解説の加瀬義雄氏によれば、書き出し部分はセイヤーズ晩年の作品で、欧米のどの専門研究書にも載ってなかったそうです。書誌的にはかなり意味のある発掘みたいですね。