海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

SUさん
平均点: 5.87点 書評数: 55件

プロフィール高評価と近い人 | 書評 | おすすめ

No.55 6点 悲鳴だけ聞こえない- 織守きょうや 2024/04/22 21:41
表題作は、顧問先の会社でのパワハラの告発を二人が調査するが、目撃者はいても被害者が名乗り出ない状況が謎となる。以降、弁護士までが絡んだパチンコの打ち子詐欺の全容を暴く「河部秀幸は存在しない」、破産手続きを前にどうしても手放したくない財産を隠したい依頼人に懇願される「依頼人の利益」、偏った財産分与を記した遺言状の作成に苦慮する「無意味な遺言状」、子供たち三人による遺産分割協議が始まった矢先にもう一人の相続権を持つ人間の存在が発覚する「上代礼司は鈴の音を胸に抱く」の5編を収録。
極めて今日的な話題から普遍的な揉め事までを幅広く取り入れて、そこにトリッキーな解決を見せる。弁護士コンビの目を通して描かれる生々しくほのかな闇を垣間見せる人間模様が解明とともに浄化される気持ちになる。

No.54 5点 彼女は二度、殺される- 秋尾秋 2024/04/03 21:49
死者を一時的に蘇らせる能力者・傀々裡師が秘密裏に活動する現代日本。主人公の九十九黒緒と一白夜は、それを管理する福音協会に所属する傀々裡師とその護衛役である武鬼のコンビ。二月の頭、二人は何者かに絞殺された周防家の娘・真珠を蘇らせるべく周防家に向かう。だが、いざ傀々裡を始めようとした時、真珠の遺体からは目と舌、両手の指が失われていた。
ミステリとしては特殊設定ものだが、謎解きの手法は至ってオーソドックで、アリバイ崩しや密室からの消失仕掛けなどがロジカルに解き明かされていく。
ただ、伏線が素直過ぎて真相が分かりやすいのは難点。また、死体を物扱いする独特なディストピア作りやグロテスクな犯罪趣向は好き嫌いが分かれるだろう。

No.53 6点 君待秋ラは透きとおる- 詠坂雄二 2024/03/11 21:44
君待秋ラは、任意の対象を透明化する能力を持っていた。そんな彼女に接触を図るのは、国家の特別組織「日本特別技能振興会」。彼らの目的は何か。
手から鉄筋を生み出す匿技師と秋ラのバトルから始まり、幾度も異能バトルが繰り広げられる。だが本書の特色は、超現実的な匿技にも何らかの科学的説明が試みられているところにある。特に秋ラの透明化に関するロジックは秀逸。
そして後半に入ると、一人の謎めいた老女をめぐって、戦後日本史の裏面を絡めた伝奇色とともに本格ミステリ色を濃くしてゆく。作者らしいユニークで彩られた作品。

No.52 6点 虜囚の犬- 櫛木理宇 2024/02/16 22:54
とある男が死体となって発見されるところから始まる。その男の住居を訪ねた刑事は、その屋敷の離れで監禁されている女性を発見する。犬の首輪で鎖につながれている女性には、繰り返し性的暴行を受けた痕跡があった。犬用と思しきエサ皿で彼女に与えていたのは、先に亡くなった他の女性をミンチ状にしたものだと後に発覚する。
グロテスクなヴェールが覆い隠す複雑に入り組んだ人間ドラマ。なぜ女性を犬のように監禁していたのか、監禁していたのは誰なのか。一つ明らかになれば、また一つの謎が浮かび上がり、明らかになったはずの真実さえ闇に沈む。丁寧に緻密に作り上げられ、ページをめくる手が止まらない。

No.51 6点 ブックキーパー脳男- 首藤瓜於 2024/01/28 21:11
警視庁が異常犯罪データベースを整備する過程で、三件の殺人事件の共通事項が発見された。それが示すところは愛宕市。中部地方では名古屋に次ぐ大都市だ。そしてこの愛宕でも新たな殺人事件が発生。他の三件同様、拷問の痕がある。現地に赴いた警視庁の警視・鵜飼縣は、県警の茶屋警部とともに捜査を進める。
いくつもの悪意や欲望が絡み合う複雑な事件であり、登場人物も多い。しかしながら、それは作者にとって適切に整理されており、しかも物語の推進役である鵜飼も茶屋も突進力のあるキャラクターである。新鮮な着眼点による調査で意外な事実に着地する妙味もあれば、アクションの冴えもある一気に読ませてくれる痛快作だ。

No.50 6点 京都辻占探偵六角 431秒後の殺人- 床品美帆 2024/01/07 21:15
表題作は、不貞を犯した妻を離婚協議中の写真館主・松原京介が妻との会見後、烏丸六角交差点の路上でビルからの落下物により亡くなる。警察は事故死と断定したが、松原を恩人と慕う駆け出しのカメラマンの安見直行は、妻と不倫相手の謀殺と確信、祖母のすすめる失せ物捜しの達人、六角法衣店を訪ねる。だが店にいた主人らしき青年、六角聡明は追い返されてしまう。
その後、六角はひょんなことから安見の捜査に協力することになるが、松原の死亡時、妻はタクシーに乗っており、犯行は不可能と思われた。松原の死は本当に殺しだったのかというわけで、ハウダニットの謎解き劇が繰り広げられる。
ミステリとしては一貫してハウダニットもので、第二話ではお洒落なカプセルホテルで、第三話ではミニシアターとシネコンの中間に位置するような劇場の寄席で、第四話では繁華街の準中箱規模のクラブで事件発生。舞台的にも道具立てという点でも、京都の現代都市としての側面を浮き彫りにしているところがミソ。また安見と六角が仲直りするきっかけになる出来事をはじめ、随所に怪奇趣向がまぶされている点も見逃せない。

No.49 7点 わが名はレッド- シェイマス・スミス 2023/12/12 21:18
過去に起きた赤子誘拐事件と現在をつなぐ謎めいた構成やお得意の人を食った語りの妙もさることながら、視点を変え先の見えない展開で、話の着地点がどこに行くのかという興味で読み手を振り回しつつ、最後に残酷な真実を見せつける。エキセントリックなサイコ・キラーが絡み、予断を許さない作品。

No.48 7点 てのひらの闇- 藤原伊織 2023/12/12 21:10
なかなか覗こうとしなかった過去が、鮮烈な形で浮かび上がり、男の生き方が問われることになる。破滅することも厭わない苛烈な精神性が緊迫感みなぎる闘いの中で屹立する。
暴力と陰謀に巻き込まれながら、高潔な姿勢を崩さない男の姿が力強く、作者らしい抒情性の中で捉えられている。

No.47 6点 妖怪の理 妖怪の檻- 京極夏彦 2023/11/23 21:45
前半は、民俗学者の柳田国男が「妖怪」という言葉を用語に選び定義をなすまでを、井上円了の「妖怪学」や江馬務、藤沢衛彦ら風俗史研究者の妖怪研究などとの関連から考察している。なぜ柳田は妖怪と幽霊とを分けるという無理な定義をしたのか。説得力ある論考に唸らさあれる。
後半では、サブカルチャー資料が駆使され漫画家の水木しげるとその共犯者たちによって「通俗的妖怪」が生成、流布された過程が解きほぐされる。柳田国男の蒐集した民族語彙も江戸時代に描かれた狂歌仕立ての風刺画も「キャラ化」すること全て同列化され、世間に需要されうるものになるという、水木しげるの発明した「通俗的妖怪生成のシステム」が解明される。

No.46 7点 ミステリと東京- 評論・エッセイ 2023/11/23 21:32
もともとミステリは、主として殺人事件などを扱う特質から多くの場合、警察や私立探偵の存在と犯罪が発生しやすい地域が前提となる。フランシス・ラカッサンが「探偵小説の神話学」で述べているように、その発展が強く都市と結びついているのである。この「ミステリと東京」は、こういう点を踏まえながら、推理小説の中に描き出された東京の今昔を具体的な作品ごとに丹念に拾い上げ、解説したものである。
一般の読者を対象としているため、作品のあらすじの紹介がかなりの比重を占めていて、評論というよりは読みもの風の印象が強いが、取り上げている作品はいずれも秀作なので、東京を舞台にしたミステリ名作ガイドとしても楽しめるだろう。

No.45 5点 カメレオンの影- ミネット・ウォルターズ 2023/10/31 22:45
チャールズ・アクランド中尉は派遣先のイラクで、偵察任務の最中に爆弾で頭部と顔面に重傷を負った。ロンドンの病院が昏睡から目覚めた彼は極端な女性嫌悪を示し、母親や元婚約者への粗暴な振る舞いで周囲を惑わせるようになった。どうやら、アクランドの記憶には欠落した部分があるようだ。除隊した彼は、トラブルを起こして警察に拘束されてしまう。近隣では一人暮らしの男性が殴り殺される事件が続発しており、アクランドはその嫌疑をかけられる。
本書でメインとなるのは、アクランドがどういう人物かという謎である。負傷して以降、性格が変わったとしか思えない彼は読者に不安と不快感を与える存在であり、警察ならずとも彼を容疑者と考えるだろう。しかし、ミステリとしては当たり前すぎるのも事実。そう考えると、事件県警者の誰もが多面性を持つ存在に見えてくる。このあたりの重層的な人間描写はまさに作者の本領発揮である。
そんな中、特に異彩を放つ人物が女医ジャクソンだ。彼女が、女性を敵視するアクランドの奇妙な共闘に至る展開が面白い。真相は作者自身のそれまでの作風をミスリードに利用したようなふしもあり、作者の円熟した境地を堪能できる。

No.44 5点 暗黒残酷監獄- 城戸喜由 2023/10/31 22:35
暗黒、残酷、監獄。韻を踏んだタイトルからも伝わってくるが、この作品は言葉遊びの楽しさをふんだんに作中に盛り込んでいる。
言葉遊びが面白く、かつ恐ろしいのは言葉の意味や文脈を無邪気に転倒させていくうちに、それまで意識していなかった類の真実を探り当ててしまうところにある。本当に不思議なほど満ちている哲学の気配は、それが理由だ。「真の真相」が明かされる前段階の「偽の真相」の作りがやや甘いように感じられたものの、純然たる本格ミステリたらんとする作者の意識は高い。
一人称のぶっ壊れた語り手による、言葉遊びによって物語が駆動し、「生き死に」にまつわる哲学の気配が濃厚に作中に満ちる。

No.43 5点 夢の器- 原民喜 2023/10/08 23:04
表題作はどこかの病院に入院しているらしい露子の見ている夢の光景が映されていく。紙人形になっている先生、オットセイの恰好で蹲ったかつての優等生、額縁から出てきた小さな魔法使い。連なっていくイメージはいずれも蛍のごとく小さいけれど強い光を放っていて心奪われる。
少年が友達に宇宙の裏側の話をする「比喩」、夜の街を死者がそぞろ歩きする「玻璃」、もさもさという足音を立てる狐が出てくる「暗室」、故郷の風景を活写した「不思議」、物忘れのひどい語り手が電車の中でとりとめもなく過去の記憶をよみがえらせる「手紙」など、他の収録作も時代を越えて新鮮に感じるものばかり。混沌としていながら清潔で、物寂しく美しい。

No.42 6点 粘膜探偵- 飴村行 2023/10/08 22:55
十四歳の鉄児が憧れの少年警邏隊(通称トッケー隊)に入ってから五日間の出来事を描いている。
トッケー隊の任務は、不良分子を摘発すること。初めて警邏に出た日、鉄児の班は、燃やさなければならない忌悪書を持っていた大学生を捕まえる。しかし、班長の行動が原因で謹慎処分になる。このままでは医学者である父と一緒に南方のナムール国へ行かなければならない。鉄児はトッケー隊員として手柄をあげて日本に留まる大義名分を得るため、ある少女が保険金目当てに殺されたという噂の真相を探る。
なんといっても鉄児の家に女中として雇われている爬虫類人・影子が魅力的。殴られて帰ってきた鉄児を心配して声をかけるも彼の黒歴史を暴いてしまうくだりには思わずふきだした。昭和の怪奇幻想小説のいかがわしさと平成のキャラクター小説軽やかさを同時に楽しめる粘膜ワールド。

No.41 5点 編集長の条件 醍醐真司の博覧推理ファイル- 長崎尚志 2023/09/16 18:54
南部という伝説的な漫画編集者が、じり貧の漫画雑誌を復活させる画期的な案を得たといいつつ、その詳細を語らぬまま変死した事件を扱っている。
南部のアイデアをめぐる推理も刺激的だし、変死に関する推理も、人の心を奥底まで掘り下げていて胸に響く。作者の解釈が古い漫画に重ねられて語る場面は、語り口が異様な熱気を帯びており忘れ難い。

No.40 5点 カーテンコール- 加納朋子 2023/09/16 18:42
経営難で大学が閉校になるため、学校側は卒業へのハードルを極限まで下げたのだが、それでも卒業できない者たちがいた。そんな連中の卒業への救済措置として、半年間の補修が行われることとなった。その補修は、外界から遮断された環境において、共同生活を営みながら進められる。そんな生活の中で、それぞれの学生の事情が見えてくる。
洗練にして熟練。技巧を駆使して読み手の目を開かせ、心を刺激することで、登場人物たちの悩みが伝わってくる。学び舎の青春小説であり、そして明確にミステリでもある。

No.39 7点 時間旅行者のキャンディボックス- ケイト・マスカレナス 2023/08/22 22:46
女性が活躍するタイムパラドックスミステリで、タイムマシンが開発され、三百年先の未来まで行けるようになった世界。時間の犯罪を防ぐため、時間旅行は巨大民間組織(コンクレーヴ)のエージェントにのみ許可されていた。しかしある日、密室で老女の射殺死体が発見される。彼女は誰なのか、誰にどうやって、そしてなぜ殺されたのか。
面白いのは、タイムマシンのロジックはもはや説明されず、それよりも時間旅行を繰り返す人の心理描写に重きが置かれていること。主要人物はみんな女性。精神を病んでしまい、タイムマシン計画からはじき出されたバーバラ。バーバラの孫で、女性の恋人のいるルビー。遺体を発見したオデットは、イギリス人であるにもかかわらず、肌の色とセーシュル出身という出自から部外者として扱われ続ける。疎外感と失望の味を知った三人が、三様に物語に絡んでくる。
直接的に女性の問題を描いた物語ではないが、登場人物のひとりの愛読書がジョン・ウィンダム、オリヴィア・E・バトラー、ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアという三人なのが示唆的。

No.38 6点 アクティベイター- 冲方丁 2023/08/22 22:30
冒頭、不審な機体の飛来に自衛隊機がスクランブル発信する場面では、専門用語の連続でどうなるかと思わされたが、やがてそれが中国のステル爆撃機で羽田に強行着陸、パイロットが亡命を申請するあたりから一気に乗せられていく物語は二人の視点から描かれる。
一人はその亡命機の対処役を仰せつかった警視庁警備局の鶴来誉士郎警視正、もう一人はその義理の兄で、綜合警備会社の警備員、真丈太一。一介の警備員が亡命機事件とどう関わるのか、関わりようがあるのか。程なく彼は世田谷の中国人客から呼び出しを受け、その家に向かう。そしてそこから始まる謎の刺客たちとの死闘。そこで繰り広げられる格闘劇の描写は迫力満点。
一方の鶴来警視正も現場に次々に現れる怪しいげな官僚等を相手にいかなる謀略が進行中なのか見極めていく。もちろん中国の亡命機の飛来には様々な国際謀略が絡んていて、その情報劇も素晴らしい。

No.37 5点 天災は忘れる前にやってくる- 鳥飼否宇 2023/07/29 19:46
作中の日本は、改元の翌年に千人の死者を出した大地震が起きたのをはじめ、大規模な天災が日常茶飯レベルで発生している。
主人公は、大手マスコミが相手にしないようなネタを面白おかしく拡散する、自称ネットジャーナリスト・郷田俊男と、その下で働く三田村智己。彼らの行くところ、必ず地震・噴火・豪雪などの災害が発生し、同時に殺人事件も起きる。
各編とも解決に至る過程は急転直下の印象だが、そのぶん下司な言動の郷田が一瞬で名探偵に変貌し、整然たる推理を発揮するというギャップが楽しめる。

No.36 6点 小さな異邦人- 連城三紀彦 2023/07/29 19:31
別れた妻に似た女が、街中で指輪を捨てるのを見た男を描く「指飾り」、新潟の温泉町に現れた女が、不可解な行動をとる「無人駅」、駅員が不倫相手と旅行すると、同じ行き先の切符を買う女が現れる「さい涯てまで」は、一見するとミステリ的要素がないので、ラストに明かされる仕掛けには驚いた。
逆に交換殺人を題材にした「蘭が枯れるまで」、夢で殺人事件を見た女を主人公に、幻想と論理を鮮やかに接続した「冬薔薇」、悪い噂が多い課長に、通り魔殺人の犯人という噂が加わる「風の誤算」は、ミステリの技法を極限まで研ぎ澄ましたどんでん返しの連続が光る。
そして、娘がいじめられるのを心配する女が、母の浮気を疑った父が無理心中を図った過去を思い出す「白雨」、大家族に子供を誘拐したとの脅迫電話がかかってくるも、誰も誘拐されていない奇妙な事件を描く表題作は、完成度が高い。

キーワードから探す
SUさん
ひとこと
(未登録)
好きな作家
(未登録)
採点傾向
平均点: 5.87点   採点数: 55件
採点の多い作家(TOP10)
カーター・ディクスン(2)
櫛木理宇(2)