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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1681件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.21 6点 怪盗グリフィン、絶体絶命- 法月綸太郎 2023/09/07 13:09
 作品の基本設定として、国際的謀略がゲームのように冗談交じりで進行する、言ってみれば “楽しい騙し合い” の世界観が成立している。ナイス。
 それだけに渦中で人死にが発生したのは痛恨事である。バタバタ死ねばそういう作品なんだなと切り替えられるが、一人だけと言うのがまた辛い。あれさえなければなぁ(ジュヴナイルだからってわけではなく)。

No.20 8点 雪密室- 法月綸太郎 2023/05/02 13:17
 カーター・ディクスン『白い僧院の殺人』と並べると、被害者(上昇志向の高慢な女性)のみならず何人かは役柄と属性が大胆に重なっている。これはまぁ本気のオマージュと言うよりは、“雪の密室” をやればどうせアレが引き合いに出されるんだから、とのジョークじゃないかな。

 離れの灯りを消した為、現場に不自然さが残った。しかし点けっぱなしだと計画より早く第三者に見付かるリスクがある(と言うか実際に見られていた)わけで、“足を引っぱっただけ” ではないと思う。
 良かったポイントはソクラテスのエピソード、ジェスチャーの手掛かり、ぐりもお。殺人者を消去法で特定するあたり、原典の不備を意識的に補っているのかも(“靴のサイズ” はちょいと御都合主義的だけど)。作者の長編の中では最もバランスが取れていて、なかなか上手く “改築” 出来ているのではないか。

 “真棹” と言う女性名は泡坂妻夫『乱れからくり』からの借用? でも意図が良く判らない。

No.19 5点 誰彼- 法月綸太郎 2021/03/09 12:10
 初読時は“長過ぎ!”と思ったが、読み返してみると諸々の無駄があってこそ成立している作品かな~と意見が変わった。作者の持つ批評性が無遠慮に発揮されたせいで、しばしば“スタイルとしての本格ミステリ”に対するパロディに見える。
 首無し死体=『エジプト十字架の謎』、双子=『最後の一撃』、二重生活=『中途の家』、自給自足の村=『第八の日』、医師と患者=特に名を秘す某作? EQで作ったフランケンシュタインの怪物だ。
 作者が最もこだわったのは“結局、彼は誰?”だろうか。私は“身柄拘束したんだから、もう誰でもいいじゃん”と思わなくもなかったり。
 でもまぁ一番目立つのはやはり“新興宗教団体”。綾辻行人『殺人方程式』も同年。有栖川有栖はその回答として「崖の教祖」更に『女王国の城』を書いた(?)。

No.18 7点 しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 2020/07/31 12:19
 十年ぶりに再読。「猫の巡礼」が素晴らしい――けど、ずっとこれ有栖川有栖作品だと思っていた。何処で記憶が混乱したのやら。
 「使用中」他者の作品をあんな風に引用しなくても、法月本人のアイデアは単独でちゃんと伝わるのに。
 
 以下、ネタバレになっちゃうかな?
 「ダブル・プレイ」ラスト前の“この見ず知らずの男こそ、本物の○○にちがいない”は余計な一文ではないだろうか?
 どういう思考回路でそこに到達したのか。
 ①自分と●●の殺意のタイミングが偶然かち合ったわけではなく、全体が一つにつながった事件である。
 ②未知の共犯者が存在するわけではなく、既に出て来た名前だけで事件は完結している。
 以上二点を前提にしないとその結論には至らない。主人公の持つ情報だけではそれはクリア出来ないと思う。

No.17 6点 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題- 法月綸太郎 2020/07/26 14:49
 決定的な傑作は無いが、どれもまぁそれなりに良く出来ている。“交換殺人のカラクリ”や“背理法推理”がマーヴェラス。
 元ネタのあるネーミングを犯人役に割り振るのは如何なものか。芸能人なら喜ぶかな?

No.16 6点 犯罪ホロスコープⅠ 六人の女王の問題- 法月綸太郎 2020/07/17 15:14
 作者がわざわざ“プロフェッショナルな仕事”“娯楽奉仕に徹したミステリー集”と謳っているのは、“議論を巻き起こす問題作”ではないことに対する引け目のようで痛々しい。それなりに出来の良い作品集だし堂々としていいのに。
 “双子ネタ”や“コラムで暗号を用いた理由付け”がナイス。
 揚げ足取りをすると、「ゼウスの息子たち」の犯人は、余計な偽装工作をしたせいで捕まってしまうけれど、警察ではなく綸太郎に対してその証言をしたのは何故? 恰も“探偵役はこの人”と言うメタ的な御約束に合わせたかのように。

No.15 7点 キングを探せ- 法月綸太郎 2020/06/11 12:20
 トランプのランク(番号)と被害者の名前の共通性に、犯人も捜査陣もこだわっているのが可笑しかった。しかもそのおかげで被害者の絞り込みに成功しちゃうし。そもそも件のトランプを後生大事に保存していたことと言い、犯人が捜査陣に対してフェア・プレイを心掛けています、みたいな感じで妙。

No.14 3点 生首に聞いてみろ- 法月綸太郎 2020/03/27 14:07
 何か変だ。
 上手に要約出来ないので色々ネタバレします。
 過去の事件について。
 計画には、“Rを妊娠させた相手は誰か、I が誤解すること” が不可欠。“YがI にそう思い込むよう仕向けた” と説明しているが、そんなに上手く他者をコントロール出来るだろうか、また、出来る前提で殺人計画など立てていいのだろうか。だってひとこと実名を告げれば解消される誤解である。
 誤解が解ければI とJは協力どころか敵対関係だから計画は御釈迦だが、だったら中止すればいいと言うわけには行かない。その時点で妊娠させてしまっているのだから。
 産科医がRを初産だと誤認することも必須だが、プロにそれを期待していいのか。

 Jは計画立案に際して物事が期待通りに動くと楽観的に前提にし過ぎているし、事態もその通りに不自然なまでに都合良く動き過ぎだ。

 特に、“RがAとの不義密通の末妊娠した” とI が誤解すれば、I はRを殺す計画に協力する筈、と言う前提だが、“妻への怒り” と “殺す” はまた別だろう。

 後戻り出来ない行動(=Rへの暴行)をしたあとで、不可欠な協力者を説得する、と言う泥縄式でとてもリスキーな計画だ。

 そしてその協力関係だが。I は “不貞な妻を罰する” と言う、正義は我に在りと言うか、或る意味 “純粋な怒り” を抱かされたわけで、それが思い切り私利私欲な保険金詐取目的のJに唆されて手を組むものだろうか?

No.13 7点 赤い部屋異聞- 法月綸太郎 2020/01/20 10:56
 オマージュ作品を集めた短編集。とりあえず、オマージュ云々とは無関係に概ね楽しめた。ベストは「まよい猫」。
 私が知っていた元ネタは一つだけ。元ネタ既読ならもっと違う景色が見えたかもしれないが、それは判断出来ない。オマージュを先に読んでしまうことで、いざ元ネタを読む時に興が殺がれている可能性はある。
 元ネタがどの作品か事前に判れば読者が主体的に読む読まないを選べるが、タイトルから元ネタを予想出来るのは2編だけ? 元ネタの一覧表は無く、各短編のあとに解説が付されているので、途中のページをパラパラめくって確かめることになるが、それだと余計なネタバレが目に入りかねないのが問題。
 事前に判ればいいとも限らず、読みながら嗚呼この話はアレかぁと気付くのが楽しいかもしれない。しかし(多分)なかなか幅広いセレクションで、元ネタを全部知っている読者は限られるのではないか。

 つまり、作品集の体裁に、読者の“何をどういう状態で読みたいか”と言う選択肢を奪ってしまう側面があるようだ。好きな作家なので読んだが、こういうのはこれきりにして欲しい。好き度のもっと低い作家だったら“オマージュ短編集”と言う時点で敬遠したと思う。

No.12 9点 法月綸太郎の新冒険- 法月綸太郎 2020/01/05 12:35
 法月綸太郎の小説作品は概ね読んでいると思う。最も印象深かったのが本書に収録の「身投げ女のブルース」である。起点に偶然を含む点はちょっと引っ掛かるが、真相として提示される鮮やかな反転がそれを補って余りある。
 他の収録作も作者のポテンシャルを遺憾なく発揮した(もしくは、余計な寄り道で浪費することを上手く回避出来た)名品が揃っていると思う。

 ただ、以下ネタバレするけれども、「リターン・ザ・ギフト」の最終章を読んでいる途中で、穂波が“腑に落ちない”と言ったことと同じ疑問を私も抱き、それに対する回答には得心が行かない。ところが考えてみれば、偽装交換殺人(未遂)によって、弟を妻殺し犯に見せかけているわけで、理由としてはそれで充分な気もする

No.11 7点 法月綸太郎の冒険- 法月綸太郎 2019/12/05 12:39
 悩みながらも一つ一つ的を定め、的中に至らずとも丁寧に矢を放つような、パズラーに対する誠意が、長編よりも判り易く感じられて好感が持てる。但し悪ふざけめいた「土曜日の本」は余計だな~。ああいうのはエッセイ集とかのオマケにそっと忍ばせるものでしょう。

No.10 5点 法月綸太郎の消息- 法月綸太郎 2019/10/04 11:03
 「白面のたてがみ」「カーテンコール」――北村薫の『六の宮の姫君』他の“小説の体裁をとった文学談義”に対する返答じゃないかと思う。“北村先生、ミステリ・ファンに芥川だ太宰だと言っても馴染みが薄い、コレをやるなら題材はこうでしょう!”。問題は、論議の過程で不可避なネタバレが、純文学ならさほど問題にならないけれどミステリでは致命的だと言うこと。名前等もっとぼかしても内容は通じるだろうに。
 「あべこべの遺書」――関係者が、知らない筈の事情を知っているように行動している。色々不自然な失敗作、修正し切れてないよ。
 「殺さぬ先の自首」――旧作「ABCD包囲網」の雪辱戦? “「わざわざ警察に目をつけられるようなことをして、その先どうするつもりだったんだろうか」”に関する心理的な裏打ちを設定していて、これならまぁ許容出来るかな。

No.9 6点 二の悲劇- 法月綸太郎 2019/09/10 16:09
 竜胆直巳の作品タイトル『グレーの雨傘』は高橋由佳利の漫画『プラスティック・ドール』(『ふたたび赤い悪夢』の参考文献に挙げられている)に出て来る曲名からの借用。
 ならばこっちも偶然ではないだろう→“清原奈津美”なる、少女漫画家の名前をもじったようなネーミング。しかしこんな役回りの登場人物にそういう由来の命名をするか? 物語とは無関係にずっと気になった。と言うことはこの名付けは失敗なのである。

No.8 6点 ふたたび赤い悪夢- 法月綸太郎 2019/09/10 16:08
 作者は、森山塔(=山本直樹)のエロ漫画を愛読していますがそれが何か? と主張したいのだろう。気持は判る。森博嗣も作中で支持表明していたなぁ。
 綸太郎が有里奈襲撃事件のトリックに気付くのは遅過ぎない? これは木偶の坊と呼ばれてもしょうがない。

 文庫版解説はエラリー・クイーン作品『十日間の不思議』『九尾の猫』の犯人名をサラッと明かしていて非道。そういう名前やキーワードが意味を持つのは既読の人相手であって、しかし既読だからこそ適当に伏字にしても言いたいことは通じるわけで、結局そのうち読もうと思っている人(私)をがっかりさせるだけなのである。忘れ方を教えて。

No.7 7点 頼子のために- 法月綸太郎 2018/03/22 14:13
 そういえば四半世紀前、私は本書を読んでジョイ・ディヴィジョン『クローサー』のCDを買ったのだ。ホコ天場面の“ボーイズ・ビー・シド・ヴィシャス”とは田口トモロヲがやっていた“ばちかぶり”の「未青年」のフレーズ。
 結末を朧げに覚えている状態で読み返すと、綸太郎は論理と言うよりかなり飛躍した直感で真相に辿り着いたような唐突な印象を受けた。

No.6 7点 一の悲劇- 法月綸太郎 2017/10/24 09:02
 新本格の作家が誘拐を主題にするなら、このくらい捻るのは当然だよねぇ。一人称の文章の自己批判的な部分は、意図的なものだとしても少々鼻に付いた。事件関係者が限られているので、ダミーの解決編の度に消去法で網が絞られて、真犯人に到達した時にはちっとも“意外な犯人”ではなくなってしまったのが勿体無い。

No.5 5点 挑戦者たち- 法月綸太郎 2016/10/07 10:36
 (誤字だらけ)

 続者への桃戦

 古くからの伝銃に側り、柞者は比処で宜言する。
 継の解朋に心要な毛がかりは概に金て堤示された。
 徒って、腎明なる緒君は綸理的に犯入の正休を脂摘出未るはずだ。
 しばし立ち上まり、老えをまとめてから蟹抉篇を丑解くよう強く頤うものである。
 それでは建闘を折る。

No.4 6点 法月綸太郎の功績- 法月綸太郎 2016/09/04 10:29
 「ABCD包囲網」は酷いな~! なんで犯人のほうからわざわざ警察に接触するんだ。犯人と本命の被害者との間に見かけ上の関係は無い→警察が“動機のある者”を探しても犯人には辿り着かないんだから、余計な工作せずに黙ってサッと殺しとけばいいじゃないか。短編集に再録しないで葬り去ったほうが良かったのでは。
 「イコールYの悲劇」のダイイング・メッセージだが、文字列に既に犯人のファースト・ネームがそのまま含まれているのだから、そこにマルでも付けるほうが早いだろう。ファースト・ネームに欠けている一文字を補う設定なら良かった。“本当の動機”には説得力を感じる。

No.3 5点 怪盗グリフィン対ラトヴィッジ機関- 法月綸太郎 2015/09/07 09:29
 旭ハジメのイラストがナイスな素敵な本。
 やけに伝聞の多い構成が、量子論的な世界の曖昧さの表現に一役買っている。

 trotter =早足(トロット)の調教を受けた馬。ということは、P・K・トロッターというネーミングは、ディックが馬並みという洒落か。まあ下品。

No.2 5点 パズル崩壊- 法月綸太郎 2015/07/22 14:30
 音楽関係の無粋なネタバレを幾つか。タッカー、リード、モリスン、ケイルはいずれもザ・ヴェルヴェット・アンダーグラウンド(米バンド)のメンバー名。「トランスミッション」で“僕”が思わず言う“「ルー・リード?」”も同じひと。
 ニール・ヤングの未発表曲を歌うシーンがあるが、レコード店の試聴室から漏れ聴こえる「ヘルプレス」も彼のナンバー。
 「GALLONS OF RUBBING ALCOHOL FLOW THROUGH THE STRIP」はニルヴァーナ(米バンド)のアルバム『イン・ユーテロ』の最後にボーナス・トラックとして収録されているナンバー。原典に三点リーダは付いていない。
 巻末の JASRAC 出願済み表示で、ジョイ・ディヴィジョン(英バンド)の「TWENTY FOUR HOURS」なんて作中に出て来たっけと思ったが、巻頭の4行の詩(というか歌詞)がそれである。
 「SHADOWPLAY」の表記の仕方について、“acting out your own death”でひとかたまりの意味であって、行換えの位置が適切ではないと思う。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1681件
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