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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1701件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1581 7点 あの魔女を殺せ- 市川哲也 2023/11/10 15:57
 特殊設定の本格かと思いきや、そこからも逸脱した怪作。その要素を前提にしても、真相がフェアプレイだとは認めがたい。実行犯が伏線無しで想定外過ぎ。
 でも好き。ラストで結ばれるこの二人、肉体的にはアレだね。ひぇ~。

No.1580 7点 十戒- 夕木春央 2023/11/10 15:56
 キャラクターが一人一人きちんと別の人になっていて、この立場でこれを知っている人ならそういう風に動くよな~、と言った部分がしっかり押さえてある。読み返すとまた面白かった。
 『方舟』と似てるな~と、つい余計なことを考えてしまう。しかも、タイトルに共通性を持たせたせいで、実際以上に類似性が強調されてない?
 最後の最後に出て来るサプライズ、実は他の方の書評を読むまで全然気付かなかった。でも “あー成程ね~” と言った、オマケ程度の印象しかない。
 現時点では、せっかくの良作につまらない悪戯を加えている、と言う気もする。いずれ壮大なサーガになるんだろうか?

 あと細かいことだが、“犯人が、足跡から特定されるのを防ぐ為に、大股で歩く”。
 厳密に言えば、小股なら誰でも出来るが大股は人によって限界が異なる。“自分はこんなに大股では歩けない” と言う者がいたら(言っちゃまずいけど)容疑者から除外されてしまう。

No.1579 7点 茶色の服の男- アガサ・クリスティー 2023/11/10 15:55
 作者がノって書いている雰囲気に好感が持てる。でも気分のままに引き伸ばし過ぎ。気が付いたら一ヶ月経過していた、とは随分長い。何かのトリックかと思った。

No.1578 6点 ヴァンプドッグは叫ばない- 市川憂人 2023/11/10 15:54
 最初からパラレル・ワールド設定とはいえ、大胆な世界改変だ。
 面白いんだけど楽しみ切れなかった。ウイルスの謎云々は、題材について考え抜いた作者には下地があったのだろう。が、殺人事件を追ってきた私にしてみれば、ベクトルが明後日の方へ振られたようで頭が切り換わらないよ。“アウトサイド” の連続殺人は動機が弱いし、“本格” の看板を掲げるよりもノン・シリーズの医療系SFスリラーとして書いた方が良かったのでは。
 シリーズの世界が今後どのように変貌するか、期待が半分、整合性を失くしてグダグダになってしまわないか心配が半分。

 初版にミスあり(知らない筈の名前を呼んでいる)。版元に報告したが、首尾良く修正されるかな?

No.1577 5点 諏訪龍神伝説- 紀和鏡 2023/11/10 15:54
 宇宙線と隕石、古代国家から連なる系譜、と言った月刊ムー的素材にロマンスをトッピング。きちんと混ざり合わずに凸凹が残る不恰好なプロットで、そっちに気を取られたせいで殺人事件のことをすっかり忘れていて意外な犯人は意外だった。
 但し一番問題なのは、この話を自然に読ませるには文章力が足りないことではないか。胡散臭さがメタ的ギャグになっちゃうのは本意ではないよね。

No.1576 7点 幸せの国殺人事件- 矢樹純 2023/11/04 13:55
 手堅くピースを積み上げて、軋轢や暴走や和解を描いていると思う。登場人物がみんなコミュニケーション不足で自分勝手だな~。
 青臭い純粋さと欲が交錯する真相、遠い所へ行ったあの人の気持は、ちょっと回りくどい気がして充分納得出来たとは言えない。謎解きの勢いに押されて、詳細の説明が曖昧な部分もある気がする。
 太市の “じゃね?” は鼻に付く。そういえば無断拝借したゲームソフトは返したのか?

No.1575 5点 知床岬殺人事件- 皆川博子 2023/11/04 13:53
 前半と後半が別のプロットみたい。二重人格と事件の絡みが希薄。当人が何も言わないのに、人格の状態や程度を他者が推察出来ると言うのは納得しづらい。
 とは言え、筆力があるので読まされてしまう。犯人のキャラクターをもっと深く掘り下げると魅力的だったのではないか。
 映画監督の鬱屈する様は、作者も “書きたいものと売れるものとの乖離” で苦闘したようだから、それが反映された憂さ晴らしなのだろうか。

No.1574 5点 弓弦城殺人事件- カーター・ディクスン 2023/11/04 13:52
 心理戦は面白かった。ピストルを外套のポケットに隠すくだりなど、“偽の手掛かり” だと考えれば後期クイーン問題みたいである。1933年と言えばEQは国名シリーズの頃。
 “どうせ使えない無記名式債券” についても、単純ながら盲点を突かれた思い。ところがこっちは、使えるのは一人だけ → その人に疑いをかける為に、使えない債権をわざと盗んだ = 偽の手掛かり、かと思いきや本物だ。二重基準(笑)?

 もしやこの作者については “不可能犯罪の巨匠” 的なイメージを捨てた方が楽しめるのだろうか。

No.1573 7点 陰陽師- 夢枕獏 2023/11/04 13:51
 これやこの名にし負う夢枕、寝屋処まで文を繰る手止むに能はず、ぬばたまの小夜更けにけり。殊に、主の命かしこみ身を鬼に啖わせる女、女陰より出でる蛇鬼など、いと怪し。我、あなやとぞ言いけるも、寝てか醒めてか思ほえず。

No.1572 7点 血と夜の饗宴- 山田正紀 2023/11/04 13:50
 “電脳ゴシックホラー” だそうです。
 主人公ポジションの人がバタバタ逝く流れは “犠牲の上に成り立つ戦争” っぽくて、妙に強い一般人が登場するより説得力がある。個々のエピソード(と言うか “死に方”)は短くも鋭くまとまっていて飽きさせない。パターンの繰り返しがジワジワ来る。でも前哨戦で終わっちゃうのね。此処からが本当の戦いだ……!

No.1571 7点 トッカン the 3rd おばけなんてないさ- 高殿円 2023/10/28 13:55
 巻を追うごとに事例がグレードアップして、それこそ徴税イメージアップキャンペーン教則本みたいになっていて可笑しい。守秘義務おそるべし。
 グルメ小説じゃないけど読後三日連続餃子を食べてしまった。栃木の人って、××食べるんですか……。

No.1570 7点 超新星紀元- 劉慈欣 2023/10/28 13:54
 序盤は、こういうテーマを中国の作家が自国の上層部を舞台に描く、と言うのはなかなか興味深いな~、と余裕があったのだが、途中からどんどん悪夢のような方向へ傾き、その容赦の無さについて行くだけで精一杯に。『バトル・ロワイヤル』か『蠅の王』か?
 そしてミステリ的と言えなくもない着地。え~、たった30年で? あれがもっと気の利いたオチであれば。いや、そもそもエンディングに捻りが求められるタイプの話じゃないのだから、蛇足に思える。
 厳井くんが一貫して “メガネ” 呼ばわりされるのには苦笑。眼鏡男子のイメージって万国共通なんだろうか?

No.1569 7点 七人の証人- 西村京太郎 2023/10/28 13:54
 証言が崩れて行く様がなかなか面白い。テーマがこれでも、重厚な社会派作品にならないところも良い。直線的な文章なのに(典型的な人物設定とはいえ)各キャラクターが上手く表現されていると思う。

 ところで、立場的に最も怪しまれず動き回れるのは十津川ではないか。冤罪つまり警察の不祥事を隠蔽する為に、彼が証言を翻した者を消した可能性は? 最後の場面の後で残りも全員始末されたかも(だからあんなぶった切ったようなラストなのかも)。

No.1568 5点 ジュークボックス- 山田正紀 2023/10/28 13:52
 ランガーそして意味不明な戦争。基本のアイデアは魅力的なのだが、五人の死について順番に描く構成がやや単調。ジャンクな雰囲気は当然意図的なものだろうが、エピソード自体に全力で楽しむのを引き戻すような変な抗力があって乗り切れず。生成AIを先取りしたような最終章の種明かしの先に、もう一波乱欲しかった。

No.1567 3点 複数の時計- アガサ・クリスティー 2023/10/28 13:52
 これはバーナビー・ロスのパロディ(盲人も登場するし)?
 わざわざ死体を運び指定の時間に発見させるメリットが判らないが、それも原本に書かれていたのだろうか。主犯は “発見者の知人” と言う立場なのだから、そんなことしなければそもそも捜査陣の視界に入らなかったのに。
 犯人と被害者をつなぐ糸はごく細い。自動車を使えるなら、遠くに捨てて来れば “余所の事件” として無関係でいられたのではないか。
 身許を偽装しても、そのごく細い糸を辿られる僅かなリスクは変わらない。偽装で共犯者を増やすデメリットの方が大きそう。

 もっと上手に書ければ “不可解な小道具が残された犯行現場” そして “余計なことをして自滅する犯人” パターンに対する批評になったかもしれないが……。

No.1566 7点 怪物の町- 倉井眉介 2023/10/20 12:49
 前作の文章がスカスカだと貶されて一念発起したのだろうか。ちゃんと小説になっているよ。ごみ袋おばさんとの対峙は怖くて笑ってしまった。主人公の一言が事件を招いてしまう因果関係の絡ませ方も、遣る瀬無くて良い。御見逸れしました。まぁ本来はここまで来てからデビューすべきなんだけどね。

No.1565 7点 ひかりごけ- 武田泰淳 2023/10/20 12:47
 新潮文庫版。「流人島にて」「異形の者」「海肌の匂い」「ひかりごけ」収録。
 目当ての表題作をまず読んでしまう。そんな軽薄な解釈をするなと怒られそうだけど、終わってみるとこれは奇妙な味の法廷劇。もっともほぼ被告人の告白のみに頼って論争している裁判は茶番っぽい。“光の輪” は見事な効果を上げており、“読む戯曲” と言う形式は必然的な選択なのだなぁ。
 ところで人肉食って何罪? それしかないなら私は人肉でも食べると思う。

 勢いが付いたので「流人島にて」を遠慮無くサスペンスとして読む。オチは弱いが、薄皮を一枚一枚剥くような語り口がスリリング。
 あとの2編はまぁ純文学、なのだろうが、水面下の波乱を必死で抑えているような緊張感はミステリ要素の無いサスペンスとでも言えそうで、どこまで書くか、どこで切るか、作者と戦っているような気分だった。

No.1564 6点 復讐の女神- アガサ・クリスティー 2023/10/20 12:45
 何が起きているのか良く判らず、水面から顔を出した岩の頭を見て岩場の全体像を想像せよ、との命題。現れた深層/真相は人の思いが絡まり合った、なかなか読み応えのあるもの。
 しかし、これは犯人サイドを掘り下げて書けば、もっと深みを出せたのではないか。例えば犯人が某に注いだ思いの深さ等が、単に言葉による説明にしかなっていない。
 と考えると、“ミス・マープルに謎のミッション” と言う間接話法みたいな設定に使うにはちょっと勿体無いかな。

 過去をほじくり返したせいで新たな死者が出たことについて、もう少し何か言及があっても良い。
 また、“丘の斜面に丸石を転落させて歩行者にぶつける”――これに関して作中では “故意にやったのでなければ成功するわけがない” とされているが、私は逆に、狙ってもそうそう命中するものではないだろうと思う。

No.1563 5点 不実在探偵(アリス・シュレディンガー)の推理- 井上悠宇 2023/10/20 12:45
 近年のミステリ界の時流に乗っかっている感じはするが、それなりに独特の世界を纏め上げていると思う。

 ただ問題は第四章だ。
 要は、罪をなすりつけ、そうと知りつつ犯行に及んだと言うこと。なすり付ける相手は、或る程度の条件を満たすなら誰でも良かったわけで、これは無差別殺人に準ずるものだと思う。犯人の心理をじっくり描くサイコ・スリラーならともかく、(変則的とは言え)本格ミステリの真相としては理不尽でがっかり。台詞でサラッと説明されちゃって実感が得られないし。
 それに、ピースを積み上げて最後に犯人の名に至る論理展開なら、“無実と知りつつ、なすりつけた” というロジックは確実性に欠ける。“無実なんだから、奴には被害者を殺す動機が無い” と判断するほうが自然。最初に犯人を確定しちゃったからこそ、辻褄合わせの為にアリになる推測だよね。しかし当然ながら、探偵法に合わせて犯行がなされるわけではない。そのへんがズルいと思う。

No.1562 4点 アガタ- 首藤瓜於 2023/10/20 12:44
 書くべきことを書いてないミステリ、それともミステリに見せかけて別の意図を持つ断片集のようなものなのか。見極めが難しい。しかしきちんと書かれたとしても、果たしてこのプロットは面白いのだろうか? 特に最後のどんでん返しは唐突過ぎて効果が無い。森博嗣の出来の悪い長編みたい。

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虫暮部さん
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好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1701件
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