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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1697件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.28 5点 虚空の逆マトリクス- 森博嗣 2016/10/18 09:04
 「ゲームの国」のリリおばさんの作品“白雪の屋根やお屋根や軒揺らし”は、“屋根や”という短い回文が重複していわば水増ししているわけで、五七五に整っていることを考慮してもあまりいただけない。例えば“白雪の山に谷間や軒揺らし”等とするほうが美しいと思う。
 越路刑事は“吹雪さん?”なんて既に百万回言われている筈で、“意味が通じません”みたいな反応は不自然。本書の中で一番不自然に感じた。
 「話好きのタクシードライバ」。自動運転車が視野に入ってきた昨今。'02年初出のこの話は真っ先に風化するかも。

No.27 7点 赤緑黒白- 森博嗣 2016/10/07 10:35
 森博嗣作品に顕著な“良く判らない動機”の中では、本作のそれは比較的説得力を感じる判らなさだと思った。4件目の遠隔殺人などは本来ミステリで使ったら興醒めだが、現在のテクノロジー的には可能だと言う割り切りでアリに出来るのはこの作者ならでは。
 しかし、黒白は名前だけで適当に被害者を選定し人違いもやむなしとする一方、赤は犯人と関係のある人物でそのせいで犯人は最初から警察に注目されている。極論、その段階で尾行が付けば2件目で現行犯逮捕だったわけで、なんだか一貫性に欠ける計画は犯人像と矛盾する。その他諸々、ストーリー展開上の都合で場当たり的に広げた風呂敷をきちんと畳んでいない印象である。

No.26 5点 朽ちる散る落ちる- 森博嗣 2016/09/16 16:59
 宇宙密室という非常に魅力的な謎と、そのあまりにも残念な真相。こんなオチでシチュエーションの無駄遣いをするな。
 一方で地下密室の方はなかなか奇抜なアイデアで思わず膝を打った。

No.25 6点 捩れ屋敷の利鈍- 森博嗣 2016/09/14 10:09
 再読したら全編に亘って叙述トリックが施されていることに気付いて仰天した(刊行順に読んで行くと初読時には判りようがない)。こっちのトリックが本命だったのでは。“密室本”という押し付けられたコンセプトを利用して、捨てても良いストーリーをシリーズ間の隙間を埋めるのに使った、という感じ。その発想は面白い。

 本書だけ読むと、西之園萌絵と国枝桃子がガールズラブみたい。

No.24 5点 六人の超音波科学者- 森博嗣 2016/09/09 10:04
 犯人は土井博士が今日死亡したことにするのが目的だった→ならば、死体を消しちゃ駄目じゃん。博士の死の証拠がなくなっちゃう。
 通常は7年間の所在不明で失踪宣告が出るが、“特別の危難にあったときは1年間”とのことで、作中のような“死体消失”のケースはこれに該当するのだろうか。しかしどうせ失踪宣告待ちなら自殺に見せる(橋のたもとに車椅子と遺書を置いとくとか)ほうが簡単そうだ。これには大きなメリットがあって、それは警察の介入度が低くなるということ。他殺設定で行くなら二人目の死者を犯人役にしなくちゃ。
 つまり、一編のミステリ小説に仕立てるにはどうも底の浅い計画であるように思う。

No.23 4点 恋恋蓮歩の演習- 森博嗣 2016/08/29 11:09
 最後の手紙が凄く引っ掛かった。
 “もしかしたら、/自分の子供を愛することだって、/できるかもしれない。”
 この程度の気持で養育権を勝ち取っちゃって大丈夫? この気持自体が各務に誘導された結果、ということだろうか?
 “水平の柱”はわざとらしい。梁くらい私だって判る。ミステリに於いて、犯人(というか何らかの悪意を持ったひと)のミスは相応の原因に基づくべきであって、単に手掛かりを提供する為のようなそれは好ましくない。
 また、各務がそれぞれ別のルートで接触した大笛と保呂草が既に知り合いだった、という偶然はかなり苦しい。

 他にもあちこち不自然な気がするし、そこに目を瞑れるほど面白いというわけではない。

No.22 5点 今夜はパラシュート博物館へ- 森博嗣 2016/08/18 11:09
 うーむ、アナグラムか。続きを考えてみた。

 巨匠、窓見ろ(まどろみ消去)
 殿、死し、公家、問わん(幻惑の死と使途)
 名乗れ、プツリ、か(夏のレプリカ)
 芋は美味いな(今はもうない)
 相撲に来て死刑(数奇にして模型)
 優美、ショパンの桃源(有限と微小のパン)

 ……てな感じでどうかな。ところで『封印再度』には

 産医、不同意
 いい不動産
 インド風犀
 催淫豆腐

 ……といった手もある。あそこで苦しい作例を挙げたのはオチとしての演出?

No.21 5点 魔剣天翔- 森博嗣 2016/08/05 18:52
 西崎勇輝を後ろから撃ったら、死体を引き出したって座席の入れ替わりはどうせばれるでしょう。寧ろ適切な位置に移して飛行機ごと燃やしちゃうべき。もしくは2番機に拳銃発射装置のダミーを設置しておくとか。そもそも飛行機の中で殺す必然性があるのか。なんか犯人の考えに筋が通っていないような。
 “パイロットの間では隠せなかったはず”のことをなぜ倉田は黙っていたのか。
 父殺しに協力した弟は許すのか。
 斯様に、森博嗣はミステリのこと良く判っていないんじゃないの、と思わされるポカは多いが、“ダイイング・メッセージは下らない駄洒落である”という伝統は正しく注いで、じゃなくて継いでいるようだ。

No.20 5点 夢・出逢い・魔性- 森博嗣 2016/06/27 10:32
 幾つかの面白くなりそうな要素を、上手く生かせない形でまとめて組み立ててしまった、という感じで惜しい。
 紅子の推理には瑕がある。“練無が実は男子だと、説明無しでは判らない”ということを前提にしている点。立花亜裕美が“そうじゃないかなって、思ってた”というのはいわば作者自身によるツッコミであって、そこは周到だと思う。
 タイトルは単なる駄洒落としか思えず、感心出来ない。

No.19 7点 χの悲劇- 森博嗣 2016/06/21 09:56
 これはここ10年くらいの森博嗣のミステリの中ではかなり良い方だ。但しそれはミステリ要素が優れているからではなく、真賀田四季を遠景に据えて人間の行く末を描く一連の世界観が大きく絡んで来たから、である。Gシリーズが新たなフェーズに突入したという実感が確かにある。
 殺人事件に関してはなんじゃそらという真相だが、しかしミステリの不文律に対するアンチテーゼと言えなくもなく、私は割と好意的に捉えている。さっさとこれを書いて欲しかった。 

No.18 6点 月は幽咽のデバイス- 森博嗣 2016/01/06 08:15
 登場する諸々のガジェットは面白い。但し水槽は存在自体が不自然だなぁ。うっかりすると床が水浸しになる設備を、敢てオーディオ・ルームに置くか。部屋の仕組みと連動して水路を遮断するような細工も可能でしょう?
 ところで、再読して記憶違いに気付いた。パラボラ・アンテナについて犀川先生が解説するシーンがあると思っていたけど、そもそもシリーズが違うわ。記憶なんてあてにならないものだ。

No.17 5点 人形式モナリザ- 森博嗣 2015/12/10 12:24
 “犯人は誰を騙そうとしたのか”という問いは魅力的だが、あのトリックでどうしてソレを騙したことになるのか判らない。あと、探偵役は提示されている手掛かりでどのようにその解答(犯人の内面)に辿り着けたのか。探偵役が直感で作者の言いたいことを代弁してしまうのはズルだと思う。

No.16 5点 黒猫の三角- 森博嗣 2015/08/03 09:30
 読者から犯人を隠す叙述トリックは上手いが、犯人の行動そのものには説得力が感じられず評価半減。特に7月7日を6月6日に変えた件。

No.15 6点 暗闇・キッス・それだけで- 森博嗣 2015/06/16 14:38
またぞろ近年の森博嗣作品によくある、面白いフレーズが散見されるものの、ミステリとしての責任を途中で放棄したような、尻切れ蜻蛉の物語、かな? と途中までは思ったのだが、あにはからんや結末ではそれなりに納得出来るところに着地し、所謂パズラー的な良さではないにしても、微妙な切なさを後味で残す佳作であった。森博嗣はこのあたりを最低ラインに設定して欲しい。

No.14 6点 地球儀のスライス- 森博嗣 2015/04/13 07:34
 ミステリ度の高いものは面白かったが、そうでないものはそうでもなかった。「僕に似た人」はなんだかさっぱり判らん。何か裏の意味があるの……?

No.13 6点 有限と微小のパン- 森博嗣 2015/03/10 18:23
 一連の“事件”に、“犯人役”は設定されていない(よね?)。ただ単に不可解な出来事が続くだけ。それって、萌絵を観客に想定したアトラクションとしては戦略ミスではないのか。全てフェイクだと見抜かないと勝てない知恵比べ、というのは企画としてアンフェアでは。きちんとしたトリックと犯人が存在して手掛かりを辿ればその謎を解ける、というほうが絶対に萌絵は喜ぶと思う。犀川先生が気付かなかったらどうやって幕を下ろすシナリオだったのか?

 というか、先生の推理は作者のズルではないかと思うのだ。フェイクだと示す積極的な手掛かりは、見当たらない(ラヴちゃんが見たドラゴン?)。“どう考えても矛盾している、だから全てフェイク”というのは、あらゆる可能性のひとつたりとも見落としていない、という絶大な自信が無ければ出て来ない発想である。一方で先生は“現象が不可解に見えるのは観察の精度が低いからだ”といったことも言っているし、賢いひとほど自分が見落としをした可能性を排除しないと思う。例えば“窓から出入り可能なサイズのロボット複数を使った犯行”なんて仮説はどうか。あの推理がアリならば、世界中のへぼ探偵が自分の推理力の無さを棚に上げて“全て絵空事なのです”と喚き始めてしまう。

 再読してみると真賀田四季の才というのはあまり納得出来る書かれ方してないなぁと思った。優秀な学者なのは判るけど、アンタ結構舌先三寸で凌いでないか? という感じだ。

 ところで、犀川先生は“瀬戸千衣”と事が始まる前に対面しているが、顔を見て判らなかったのか。 整形した?

No.12 4点 サイタ×サイタ- 森博嗣 2014/11/25 13:19
 “人間は複雑だから”ということに都合良く寄り掛かり過ぎだと思う。ミステリの看板を掲げているのだから、もう少し理詰めでスッキリさせて欲しい。もしくは、そういった曖昧な部分を多く呑み込んだ混沌としたものを意図しているなら、ストーリーがつまらなすぎる。探偵サイドがほぼ最後まで傍観者のままで、不充分なデータでアレコレ言っているだけ、という印象。
 あと、張り込み中にコーヒーとかウーロン茶とか飲んでいるけど、尿意で困らないのだろうか。探偵達の態度が妙に緩い気がする。そういう描写は別に本書に限ったことではないのに今更こう思ったのは、森博嗣の近作をつい突っ込みどころを探す目で読んでしまうせいか。

No.11 3点 数奇にして模型- 森博嗣 2014/10/14 12:21
 これは失敗作。

 上倉裕子は寺林高二を何故殴ったのか?
 殴っておきながら何故、その寺林との待ち合わせの為にM工大へ行ったのか?
 それは、寺林が待ち合わせのことを誰かに話していた場合、そこへ行かないと自分が疑われる、と考えての偽装工作かもしれないが……寺林が来ないと思っていたなら、何故フローズンヨーグルトを二つ買ったのか?
 寺林が死んでおらず、怪我を押してM工大へ来る可能性も考慮に入れていた(から、二つ買った)なら、“上倉が尋常でない驚き方をして、その様子を見て寺林は上倉が自分を殴った人物だと気が付く”という程の驚き方はしない筈。

 寺林の行動も……“筒見明日香の首無し死体と敢て同じ部屋に倒れている”のどこが巧妙な策なのか?
 首切りを公会堂の別の場所(トイレとか)で行って、胴体はそのまま放置すれば済むことではないか。それで自分は容疑者圏外、とは行かないまでもワン・オヴ・ゼム扱いに留まったのでは。まだやるべきことが残っているのだから、一時的にせよ警察や病院に拘束されるリスクの方が遥かに問題だろう。

 “異常と正常”について悩むのは、西之園萌絵のキャラクターにそぐわない気がする。首切り事件や筒見紀世都のキャラクターが、今まで萌絵の遭遇した物事に比べ飛び抜けてぶっ飛んでいるとは思えないのだ。真賀田四季と対話したひとが今更なに言ってるのという感じである。

No.10 5点 ムカシ×ムカシ- 森博嗣 2014/06/10 19:30
この作品、ホワイダニット部分を軸にして別の書き方をすればもっと面白くなったのではないかという気がする。事件に対して変なポジションから中途半端に関わっているキャラクターの様子がメインで、殺人事件のほうがサイド・ストーリーになっているのは、作者が斜に構え過ぎ。なんだか勿体無いな~。

 樋口一葉とは実質何も関係ないわけで、だったら“一葉”というネーミングを持ってくる必然は無かったのでは。何か知っている人には通じるようなネタがある?

 ところで、夫婦がほぼ同時に、しかし詳細の判らない状況で死んだ場合、相続はどうなるのか? 死んだ順番で相続の内容は変わる。そのあたりに作中で言及していないのは手落ちだと思う。(後日追記:「同時死亡の推定」適用で相続は行われない、でいいのかな?)

 あと、leaves の発音はリーブ「ズ」なので名前の暗号は成立していない。

No.9 3点 キウイγは時計仕掛け- 森博嗣 2013/12/05 10:58
えー、なにこれ。
 思わせぶりな伏線はどれもうやむや。足の指で引き金を押して他殺に偽装、といったって裸足のせいでばれてるんじゃ偽装になっていない。そもそもそれがどうして息子をかばうことになるのか。キウイ云々て結局なに。
 あと、他作品にも同様の例があるけれど、森博嗣は親から子への情を無条件に強く捉えすぎでは。
 総合的にはキャラクター同窓会というお楽しみ企画以上の何物でもない。
 作者はともかく(森博嗣はミステリの外側から来た、という感じだから)、編集者がなぜこの作品にOKを出したのか不思議だ。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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