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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.40 5点 本郷菊坂狙撃殺人- 梶龍雄 2016/06/16 18:20
本郷の菊坂通りにあるホテル4階の一室で自殺をしようとしていた登志子は、窓から狙撃事件を目撃する。ライフルの本来の標的は現場近くにいた少年だったのではと推測した彼女は、その少年が暮らす名倉邸にメイドとして潜り込むが、少年の飼い犬が轢殺される事件につづき、邸の主人がライフルで射殺される---------。

お屋敷ものの本格ミステリという定型の枠組みのなかで、本作はちょっと思い切った試みがなされていて、そのアイデア自体は面白いと思います。エラリー・クイーンの某作を連想する読者がいるかもしれません。ただ、肝となる隠されたモチーフが、たいていの日本の読者は知識として持っていないと思われるので、こんなに多くの伏線がありましたよと解決編で説明されても、素直に感心できないのが残念なところです。また、”それ”を利用して密室からのライフル銃を取り出すトリックは、さすがに無理があり、万事都合よすぎるように感じてしまいます。
探偵役が自殺志願の若い女性という設定が変わっていますが、単に奇をてらっただけではなく、ラストでちゃんと意味を持たせているのはさすがと思わせます。ヒロインと刑事との関係がもう少し書き込まれていれば、ラストシーンがより映えたのではとも思いましたが。

No.39 5点 女たちの復讐- 梶龍雄 2016/05/06 21:11
目覚めると全裸で椅子に縛り付けられ、目の前には拳銃を構えた女が立っていた。探偵事務所の所長ながら、殺し屋という裏の顔を持つ真藤は、殺っていない殺人の犯人として、被害者の娘姉妹によって廃ビルの一室に監禁されたのだ。真藤は、冤罪を雪ぐべく必死に”安楽椅子探偵”を試みるが-------。

発端とラストは、ミッキー・スピレインを思わせる通俗ハードボイルドのような展開ですが、そのあいだの本筋の部分は、2年半前の熱海の別荘で発生した殺人を巡る意外と真っ当なフーダニット本格になっています。
また、探偵役が身動きが取れないため、やむなく安楽椅子探偵をやらざるをえないという第1部の設定もユニークで(第2部で探偵は現場に赴いていますが)、梶作品のなかではちょっとした異色作といえるでしょう。
作風は全体的にB級感は拭えない(表紙の煽情的なイラストが一層B級ミステリらしさに拍車をかけている)ものの、謎解き面では死体消失の”ホワイ”からの、アリバイ・トリックを暴く推理プロセスは盲点を突く形で光るものがありますし、終盤に突如出てくる暗号には、なんというか、作者のサービス精神を感じますw

No.38 4点 殺しのメッセージ- 梶龍雄 2016/04/20 18:58
推理力に秀でた和服美人の長女・静江、スポーツ万能で行動派の次女・輝美、お色気と観察眼がウリの三女・艶美の、狭山家三姉妹が4つの事件に挑む「探偵姉妹トリオ」シリーズの第2短編集。

シリーズ前作「女名刺殺人事件」でも似たようなことを書きましたが、三姉妹をわかりやすく類型的にキャラクター分けをしてるにも拘らず、あまりキャラクター小説的な面白さが感じられません。同じ様な設定の赤川次郎「三姉妹探偵団」と比べると、そのリーダビリティの差は歴然としています。裏表紙の著者プロフィール欄には「女性像の描き方には特筆すべきものを持つ実力派作家」とありますが、少なくとも本書を始めとした後期作品に関しては、ちょっと異論がありますw
各編ともノベルズ版で60ページ前後の長めの短編といった分量ですが、本格ミステリとしても、その分量に見合った謎解きの濃さがなく、どの作品も、お約束のように濡れ場シーンが挿入されているなど、水増し感は否めません。強いてベストを選ぶとすれば、第1話「アダルトな殺人」になるのですが、仕掛けの部分の基本的アイデアが、海外有名古典作品からのイタダキという不満があります(作中でその作品名を挙げ、ネタバラシをしています)。最後の「おちた女」は、伏線や”気付き”の部分が面白いが、アンフェアと思える部分が気になった。

No.37 5点 奥秩父狐火殺人事件- 梶龍雄 2014/11/26 21:04
次作映画の取材のため奥秩父の小村を訪れた五城は、山間で何者かに狙撃された江森道代を助ける。狐憑きの家系といわれる江森家と関わるうちに、26年前に道代の母親に起きた悪魔的事件を知り、やがて江森家の人々を標的とする連続殺人事件に対峙することに-------。

若手の映画監督・五城賀津雄を探偵役とするシリーズの一冊。
狐憑き信仰が蔓延る閉鎖的な寒村、過去の残虐な狐落し儀式の因縁、隠された血縁関係などなど、伝奇的舞台設定は(登場人物も言うとおり)横溝正史の作品世界を髣髴とさせるところがありますが、ピチピチの女子大生7人が江森家の離れに夏合宿で住み込んでいるという設定が、ああ、やっぱりカジタツ作品だったなと思い出させますw
冒頭のシーンを始めとして、あんなことが伏線だったのか!というぐらい多く張られた伏線の巧妙さはいつもどおりで、「反転図」と題された最終章での五城の謎解きはなかなかのものです。横溝的世界観そのものがミスディレクションになっているというか.....。
ただ、途中の展開がやや通俗的で、全体的にごちゃごちゃしている感は否めず、評価としてはこれぐらいになってしまう。

No.36 6点 殺人回廊- 梶龍雄 2014/08/14 22:26
太平洋戦争末期の昭和20年2月、東京目白の新田公爵邸の周辺に不審な男たちが出没するという通報を受けた警視庁の堀川刑事は、邸内で張込みを始める。やがて男たちの正体がスパイ容疑の次男を内偵中の”特高”と判明するが、雪中の離れの別館で三男が変死体で発見される-------。

作者が亡くなる直前に書下ろしで出版された遺作長編。
時代設定は初期作品を思わせる戦争を背景にしたものですが、学生を主人公とした青春ミステリではなく、名家の秘密が絡む殺人事件の真相に平凡な刑事が迫るといった本格ミステリになっている。
特高刑事たちの監視の目と、雪に囲まれた別館という二重の密室の謎解きはそう大したものではないものの、時局を反映した異様な殺人動機に見るべきものがあります。
ただ、名家女主人の刀自と令嬢・智加子の、ふたりの女性の存在感が突出しているため、途中で真相はぼんやりと見えてしまいましたが。

No.35 4点 女はベッドで推理する- 梶龍雄 2014/05/19 00:00
浮気妻探偵エリ子と独身警部補・黒沢の不倫コンビによる連作ミステリ第1弾。安楽椅子探偵とは別の意味合いのベッド・ディテクティブ・ミステリですw

ノベルズ版200ページ余りに9編も収録されており、各話が短くあっという間に読み終わってしまう。謎解きの伏線ともなっていないお色気・濡れ場シーンも漏れなく入れてきているので、ミステリの解決部分が非常にあっけなく感じる。
使われているトリックも初期作品の使い回しのようなものが散見されるし、2作目の「浮気妻は名探偵」のほうが、もう少しミステリ部分に歯ごたえがあったような気がする。
そういったなかでは、裸の女性が走っていたという児童の目撃証言から真相を導き出す「女とパンティ」がまずまずの出来かな。

No.34 6点 殺人リハーサル- 梶龍雄 2014/02/22 18:28
雑誌記者で人気芸能レポーターの栗田は、演歌歌手の川村鳥江から、過去に捏造記事でネタにした因縁のある前科者の男から脅迫されていると相談を受ける。そして、鳥江は自宅とナイトクラブの楽屋で二度にわたって不可解な状況で襲撃され、三度目はついに死体で発見される-------。

最初期の青春ミステリとはガラリと趣を変えた、芸能界を背景とした本格ミステリで、やや通俗的な雰囲気はあるものの、そこは梶龍雄のこと、細かに張られた伏線と二段構えの解決で、最後には見事に構図の逆転を見せてくれる。
確かに、いくつかのトリックは実行可能性という点で疑問符がつくものの、それを逆手にとって、想定外の偶発的事由が事件をより複雑化・混迷させているところが巧妙で、皮肉な真相につながっています。
傑作とはいえないですが、作者の現代もののなかでは佳作と言えるのではと思います。

No.33 5点 連続殺人枯木灘- 梶龍雄 2013/11/10 18:39
和歌山県に新種の虫を採取に来た昆虫マニアが何者かに狙撃され死亡する。友人の宇月は犯行に使用された特殊な銃弾に不審を抱き、事件の背後関係を捜査するが、事態は思わぬ方向に発展していく-------。

序盤は連続殺人を主題とした本格ミステリの様相で物語が進みますが、終戦直前の憲兵将校による新型銃器強奪計画という陰謀話が出てきたり、多数の少年たちを人質に謎の武装グループが南紀・枯木灘に浮かぶ島を乗っ取る事件が発生するなど、かなり大風呂敷を広げた展開で、まるで伴野朗の冒険小説を読むような謀略モノに変調する異色作です。その割にサスペンス性はそれほどありませんがw
そんな動機で?と思わなくはないものの、本格ミステリ作家らしく、最後は意外な犯人の正体で締めています。

No.32 5点 赤い靴少女殺人事件- 梶龍雄 2013/09/06 21:45
元警視庁公安課所属の探偵・速水は、知り合いの富豪・貫端家の長男敏一から身辺警護を依頼され軽井沢に向かうが、直前に敏一は刺殺死体で発見される-------。

軽井沢にある資産家の別荘を舞台に遺産相続絡みの殺人事件を主題にしたフーダニット・ミステリ。
メインの人物トリックは途中で薄々察することができ、ストーリーも面白味を感じないが、関係者を一堂に集めた最終章の謎解きシーンは読み応えが有り、探偵が開陳する手掛かりの多彩さには驚かされた。このあたりは伏線を重視するカジタツらしさが出てると思います。ただ、犯人による偽の手掛かりも乱発されており、読者が推理しようがない側面がある。

No.31 6点 若きウェルテルの怪死- 梶龍雄 2013/06/13 12:43
昭和9年の仙台、考古学者邸の離れに下宿する学生の毒死事件に端を発する怪事件を描いた”旧制高校シリーズ”の2作目。

特高刑事や非合法の反戦組織の存在が時代の雰囲気を感じさせると共に、巧妙なミスディレクションになっています。
化石骨の身代金奪取のトリックはちょっとアレですけど、毒殺事件時のアリバイ工作に絡んで、図らずも二人の人物が両方とも〇〇だったというアイデアがユニークです。効果のほどは疑問ですが、本書で作者が一番やりたかった仕掛けではと思います。
友人の怪死事件の捜査に関わりを持つことになる旧制二高生の主人公の日記形式という全体構成があまり意味がないように思えましたが、ラストで意外な方向に効いてくるのが流石です。

No.30 5点 女名刺殺人事件- 梶龍雄 2013/01/19 11:46
優雅で推理力に秀でた長女、スポーツ万能で行動力がある次女、お色気と観察力がウリの三女の、狭山家三姉妹が4つの事件に挑む「三姉妹探偵団」シリーズ-------じゃなくて、「探偵姉妹トリオ」シリーズの第1弾。

軽快なユーモアとサスペンスの取り合わせで抜群のリーダビリティだった赤川次郎のあのシリーズより、数年後に出た当シリーズの方がなぜか古臭く感じるのはご愛嬌。
たしかに、本書はB級感のある本格ミステリではあるものの、第3話の「母なる殺人」など、伏線や意外な構図の使い方にカジタツらしい技巧が見れました。

No.29 4点 殺人者にダイアルを- 梶龍雄 2013/01/03 15:34
「天才は善人を殺す」の芝端敬一ら大学生探偵団の4人が活躍するシリーズの第2弾。
メンバーの紅一点”お京”の知人らの連続自殺事件を調べていくうちに、思いがけない大きなスケールの構図が浮かび上がってきて・・・といった話ですが、残念ながら前作より青春ミステリの味わいが希薄になっていて、伏線の張り具合もイマイチな気がします。時代設定が戦前や終戦直後のものより、本書のような”現代ミステリ”のほうが題材が古びてしまうのは皮肉な感覚ですが、ダイヤル式電話はやはり時代を感じますねえ。
ただ、アリバイ崩しのヒントが”フィボナッチ数列”(=「ダ・ヴィンチ・コード」でもお馴染み)というのは面白かった。

No.28 5点 天才は善人を殺す- 梶龍雄 2012/10/02 17:23
キャッシュカード紛失で大金を詐取され自殺したと思われる父親の事件を究明するため、主人公・芝端敬一ら大学生4人組は探偵活動に乗り出すが、といったストーリー。
事件の性質がはっきりしないまま物語が進行する中盤まではモヤモヤ感があって面白味に欠ける。カード犯罪と銀行のコンピュータ(天才)というテーマも扱いが中途半端です。ただ、密室殺人、電話トリック、操りの構図など、後半以降に次々と繰り出されるトリックはなかなか面白いと思います。
チェスタトンの逆説にたとえて、女子銀行員のなにげない行為と大金を引きだした意外な犯人を結びつけるくだりも秀逸です。

No.27 5点 殺人魔術- 梶龍雄 2012/04/26 22:44
昭和53年から58年にかけて雑誌掲載されたミステリ8編収録の短編集。
偽アリバイトリック、毒殺トリック、ダイイング・メッセージ、人物の入れ替り、可能性の殺人など、あまり新味はないものの、各作品とも何らかの本格ミステリらしい仕掛けを入れている。また、作品の語り手に工夫があり、それがトリックに寄与しているのはさすがと思わせます。

なかでは、ある人物のアリバイの誤誘導によって犯行方法に迷彩を施した「色慾の迷彩」、強盗殺人事件に巻き込まれたタクシー運転手の話がラストで反転する「好色の背景」などが面白かった。
トリックとしては大したことがないが、「ピンクが好きな女」の哀切なテイストが初期の青春ミステリを思い起こさせる。

No.26 5点 殺人者は道化師- 梶龍雄 2012/03/21 22:04
軽井沢の別荘に住む謎の女性・リラ夫人の探偵譚7編収録。
読者サービス的な官能シーンが適度に挿入されていますが、どの作品も骨格はきっちり本格ミステリしてます。探偵助手で奔走するボーイッシュな少女の言動がいかにもカジタツ風で、その点は馴れが必要です。
このような”裏の顔”をもった探偵役というのは当時の国内ミステリでは珍しいと思うのですが、枚数の関係もあって設定があまり活かされていないのはもったいない感じがします。
個々に見てみると、とくに飛び抜けた傑作と言うのはないが、アリバイ奪取トリックの「女優エリカの悪夢」がベストかな。密室状況からの宝石消失トリック「消失の闇」もまずまず。どちらもさりげない伏線が効果的に使われています。

No.25 5点 浮気妻は名探偵- 梶龍雄 2011/10/19 18:58
ミステリー好きの人妻エリ子と愛人の警部補が謎解きをしていく連作短編集。「女はベットで推理する」につづくシリーズの第2弾です。
この設定どこかで読んだようなと考えていたら、嵯峨島昭(宇能鴻一郎)の美食探偵コンビにそっくりだと気がついた。
当時の出版社の意向でしょうが、各編ともお色気満点の描写が挿入され、通俗ぶりと女性の変な言い回しのセリフに腰が引けるのですが、その分ちょっとしたトリックがあると妙に嬉しくなりました(笑)。第1話の「多すぎる凶器」など”読者への挑戦”付きの消去法推理で、作者はやはり本格推理にこだわっています。

No.24 6点 ぼくの好色天使たち- 梶龍雄 2011/04/13 20:16
戦争前後の学生を主人公にした初期青春ミステリ、「透明な季節」「海を見ないで陸を見よう」につづく三部作の3作目です。
娼婦連続殺人事件がメイン・プロットではあるものの、池袋の闇市など戦後間もない当時の風俗を描くことに力点が置かれ、ほろ苦い青春もので文芸色が強いのは前2作同様です。
ミステリ的には、動機やトリックにちょっと無理がある様に思いますが、適度にまかれた伏線の回収は相変わらず巧いと思います。

No.23 7点 リア王密室に死す- 梶龍雄 2011/02/11 18:25
戦後まもない京都を舞台に、最後の旧制三高生たちが巻き込まれる密室殺人事件を扱った青春ミステリ。旧制高校シリーズの1作目です。
作者の青春ものは、本格ミステリの趣向が弱いと言われますが、本書は両方の要素のバランスがよくとれている佳作だと思います。密室トリックの真相を示唆する伏線が絶妙で、もうひとつの隠されたトリックもこの時代ならではのものという点を評価したい。
第二部で、主人公・武志が三十数年後に知ることになる、奈智子(またもや思慕の対象が年上の女性ですが)の運命と彼女が残したものはなかなか感動的でした。

No.22 6点 透明な季節- 梶龍雄 2011/01/30 13:48
後期の通俗的でB級感あふれる本格ミステリからは想像できない、文芸寄りで私小説風の青春ミステリでした。
戦時下の旧制中学の生徒・高志を主人公に、”ポケゴリ”こと配属将校の殺害事件が描かれていますが、主人公が推理するのではなく、真相も唐突に明らかになるので、ミステリの趣向は弱いと言わざるを得ません。
むしろ、作者の力点は、戦時下という世相ゆえの犯人の動機であったり、主人公・高志の将校の妻・薫に対する心情の変遷にあるのでしょう。

No.21 5点 幻の蝶殺人事件- 梶龍雄 2011/01/23 13:40
”シラケ姫”こと女子大生・奈都子シリーズの第1作。
ある大学の学園祭のさなか、昆虫同好会部室での密室殺人を発端にした連続殺人を扱った本格編。
同じ学園ミステリでも、初期に書かれた旧制高校シリーズとは大いにテイストが異なる通俗風味の作品で、女子大生の会話口調が例によって酷いですが、その辺に目をつぶれば、連続殺人のホワイダニットに工夫があり、ミステリの仕掛けはそう悪いとは思わなかった。

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