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[ 本格/新本格 ]
アルカトラズ幻想
島田荘司 出版月: 2012年09月 平均: 6.00点 書評数: 5件

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文藝春秋
2012年09月

No.5 7点 Tetchy 2015/04/11 23:54
島田荘司のノンシリーズである本書は読者の予断を常に超え、全く想像のつかない展開で物語が進んでいく。それはあらゆる学問や知識が動員された奇妙な、しかしそれでいて実に説得力のある話が展開したかと思えば、奇想に満ちた世界が連続する。

これはまさに島田しか書けない物語だ。題名が示すようにこれはまさに幻想物語だ。第2次大戦下のアメリカを舞台に古代生物学、物理学に構造力学、天文学といった知識がふんだんに盛り込まれ、空想の世界を補強し、このとんでもない空想物語がさも実存するかのように島田は語る。
5つに分かれるこの壮大な幻想譚は1章では行間から血の臭いまでもが匂い立つほどの迫真性に満ちた人智を超えた猟奇的事件を語り、2章では重力論文なる、現代科学において規格外とされる巨大な生物、恐竜の存在とその絶滅の謎に対する学術的な話が展開し、3章ではアルカトラズ刑務所を舞台にした刑務所生活と手に汗握る脱獄劇が、そして4章では一転して島田ワールドとも云える空想世界の物語だ。それは『ネジ式ザゼツキー』で語られた「タンジール蜜柑共和国」を髣髴とさせる「パンプキン王国」なる不思議の国の話。そしてそんなメルヘンとしか思えない世界が最後のエピローグで意外な真相と共に明かされる。
まさにこれはそれまでの島田作品のエッセンスを惜しみもなくふんだんに盛り込んだ集大成的作品と云えるだろう。

世のミステリ作家の想像の遥か彼方の地平を進む本格ミステリの巨匠の飽くなき探求心とその豪腕ぶりに今回もひれ伏せてしまった。島田はまたしても我々が読んだことのないミステリを提供してくれた。ミステリの地平と明日はまだまだ限りなく広く、そして遠いことをこの巨匠は見せてくれたのだ。まさに孤高という名に相応しい作家である。

No.4 7点 レイ・ブラッドベリへ 2015/02/22 18:28
作者の島田荘司さんはビートルズがお好きだと、あるエッセイで読んだことがある。
井上夢人さんと一緒に、ビートルズのナンバーを何曲も歌い続けたことがあるそうだ。
(「ホントか? なら、その出典をだせよ!」とのツッコみはご勘弁ください。
  昔の事なので、何で読んだかは、もうスッカリ忘れてしまいました。汗)

島田さんの作品「ネジ式ザゼツキー」には、ビートルズのアルバム「アビーロード」に入っている曲名と
同じ名前の「サン・キング」なる人物が登場する。
また、「ネジ式―」の冒頭には、「ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ」の歌詞を連想させる
幻想的なシーンが描かれている。
(この本―自分は講談社ノベルス版を持っているのだが―の奥付の前のページに
 作者は日本音楽著作権協会の許諾を受けて ”LUCY IN THE SKY WITH DIAMONDS” の歌詞を
 使用したことが明記されている)

それからビートルズには「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」という名曲がある。
彼らはこの曲を、アレンジやテンポを変えて何回かレコーディングした。
最終的には「テイク7」を採用と決定したが、その数日後、作曲したジョン・レノンが
「前半はテイク7のままとし、後半部をヘビーな音の『最終テイク』にしたい」と要求したそうだ。
ところが、最終テイクのものはスピード感を出すために、キーを半音上げて演奏している。
また、チェロやトランペットも使ってサウンドに厚みを加えている。
――キーもテンポも違う二つのテイクをどのようにして一つの曲とするのか?

この難題をプロデューサーのジョージ・マーチンは見事に解決した。
後半部のテープスピードを徐々に下げていき、キーが合ったところで二つのテイクを繋いだのだ。

この曲をよく聞いてみると、開始から一分後にベースギターがなくなり、チェロのフレーズに変わっている。
またギターのアルペジオもなくなっている。

しかし、それらが何の違和感も感じさせず、最初から計算したアレンジであるかのように自然な曲に
仕上がっている。


さて、以上で「長い長い前ふり」は終わりです(笑)

ここから、ようやくこの作品の感想となります。

実はこの物語も、作者はある個所で、二つのものを「繋いで」います。
それが何とも巧妙に、また、ひっそりとなされているので、読者はすっかり「パンプキン王国」の存在を
信じる(?)ことになります。

では、その「繋いだ」箇所とは一体どこなのか?
なくなった「ベースギター」に相当するのはどれで、現われた「チェロ」はどの部分なのか?
――そのようなことを探してみるのも、また一興だと思います。

それから自分の読後の感想は、まさにkanamoriさんの書かれたものと同様です。
(手を抜いたわけではありません。全く「そのとおり」だと同感致します)

最後にひとつ……

島田荘司さんといえば「剛腕」とか「驚愕の物理トリック」などの褒め言葉が浮かびますが……
……自分はそれに加えて、「とても文章が上手な」「叙述トリックの名手」という一面もあると思っています。

No.3 6点 虫暮部 2013/01/02 17:56
 第三章までは良かったが、その後はいただけない。
 ネタバレ承知で書くが、誰かを騙すために周りの皆が共謀して大芝居を打つ、というなら割と何でもありになっちゃうわけで、それは夢オチのようなものだと思うのだ。しかも島田荘司はそういう作品を既に幾つか書いているじゃないか。

No.2 4点 HORNET 2012/12/23 19:14
 猟奇的な事件から始まり、冒頭の章はかなり引き込まれたが、それは裏を返せばこの事件に関しての真相解明を期待してのこと。2章、3章と物語がまったく別の方向に行くことに、不安とわずかな期待をこめて読み進めたが・・・という感じ。
 確かに、本編とは直接関係がないけれども第2章の論文は普通に面白かった。しかし、「写楽」ではそれが謎解きの核心にかかわるものであったのに対し、本作品ではそれはただの薀蓄だった。もっといえば、題名から見ても3章、4章&エピローグだけで十分一物語として成立する。逆に言えば、1・2章は不要。というより、1章を読んで読み進める以上、まるで関係ない方向に話が展開している3章・4章も、最後はそこ(1章)に立ち戻るという期待を込めて読んでしまう。それが見事に裏切られた。3・4章だけであったらそれなりに満足ができたかもしれないが、1章から読んでいると非常に消化不良な読後感であった。

No.1 6点 kanamori 2012/10/18 22:34
奇想の騙り部・島田荘司の本領が発揮された傑作だと思いますが、御手洗シリーズ路線を期待する人には好みに合わないかもしれません。
米国を舞台にした猟奇殺人を追う捜査小説から、恐竜絶滅に関する新説論文、地球空洞説、監獄島アルカトラズからの脱獄計画、異世界を舞台にした幻想風の物語と、各章で小説のテイストが変転しネタが次々と繰り出され、作者のストーリーテリングの上手さに翻弄されます。全体の構成から前段の部分が書き込み過多でバランスが悪いのですが、その無駄と思えるパートも面白いです。
ミステリ的な仕掛けは「眩暈」のソレを思わせますが、読後感は「追憶のカシュガル」収録のある短編に通じるものがありました。


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