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[ 本格/新本格 ]
貴族探偵
貴族探偵シリーズ
麻耶雄嵩 出版月: 2010年05月 平均: 6.66点 書評数: 29件

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集英社
2010年05月

集英社
2013年10月

集英社
2017年05月

No.29 7点 虫暮部 2022/05/15 11:54
 再読だが、内容をすっかり忘れていた。おかげで(特に「こうもり」を)丸々楽しめて嬉しかった。忘れっぽいのはステキなことです、そうじゃないですか。
 「加速度円舞曲」で、或る手掛かりに関する情報が犯人の口からもたらされている。嘘を吐いてバレたらアウトだから仕方ない。真相を踏まえて読み返すと、自ら首を絞めざるを得ない皮肉さがポイントの一つなのに、作者はサラッと書いちゃってるな~。

No.28 7点 じきる 2021/03/28 02:18
全体的にパズラーとして粒揃いだと思う。
「こうもり」の捻り技も良いが、個人的には「トリッチ・トラッチ・ポルカ」のアリバイトリックがお気に入りです。

No.27 7点 斎藤警部 2020/03/12 12:25
ウィーンの森の物語   8点
■■ミスの更なる■■を暴く、素晴らしく甘美なロジックの響きを無駄なくスッキリと! ロジッカーでないわたしもこれには大萌え。 さり気ないようで重大な叙述ギミックも最高に効いている。 刑事なんとかへのオマージュみたいな決定的シーンも好きだ。

トリッチ・トラッチ・ポルカ   7点
面白く読めるが、猟奇的(!)真相も、何ソレ?的なラストシーンも、ちょっと無理があったかな。屍体切り刻みの理由にはなかなか凄いものがありました。ところでこのメイントリック、もしかして英国古典名作「なんとかのかんとか」へのオマージュか?

こうもり   8点強
これは読み返す!パンダ鍋?! 地の文、とは何か。。人は地の文●●人の主観を嗅ぎ付けてしまう、ってが。あと、中篇とは何か、的な。このナニをうまうまと成就させるには長篇でも短篇でも短パンでもまた難からずや!? アレを余裕で二度も見せ付けて、伏線というか大ヒントも何気にバッチリ。喧伝される「逆●●トリック」とは何と魅力的なワードか。。決して親切設計ではなく一発理解は難しいかも知れないが、これは許せる。更に事件真相そのものがもー~っとディープで相乗効果上げまくり上等だったら。。とも夢見てしまうが。。でもこの‘語りたくなる’吸引力はイニシエーションなんとかを彷彿とさせますね。鮎川さん存命だったら絶賛してたんじゃないかな。最後のアレは、反転てよりダメ押しの落ちか。
某サイトで「原作に忠実に映像化するとしたら?」の試案が図付きで詳述されており、なかなか興味深いです。実際のドラマではまあ色々あきらめて、その代わりなかなかの新趣向を出して来たらしいですね(私は観てません、いつか観たい)。 ま、俺なら斉藤の役をやりたいね笑
さて、これ言うと●●神経敏感な人にはネタバレっぽいですが、麻耶さんひょっとして、今はなき「笑っていいとも!」のオープニングからパーーンとインスパイアされてたりして。本作の逆●●トリック。

加速度円舞曲(ワルツ)   5点
これは、、尻すぼみでつまんなくなっちゃったな(加速てより減速)。とは言え順を追ってロジックで追い詰める所(たしかに加速してる)はなかなか良いが、、あまりに見え見えの「◯◯」がダミーだか麻耶さんらしく新趣の逆手掛かりかと思ったら、まさかのそのまんま。。。。(ですよね??) でも物語の風景は何故だか心に残る。不思議なもの。

春の声  8点強
ゲーム性、企画性過剰なようでいて、この不思議な味わい深さは、やはり”裏の裏の”主役、貴族探偵氏の造形の味わい深さに因るのだろう。あっちかこっちか、どっちか系の大技で締めるだろうが、どっちだろうかとソワソワしちゃうスリルも良し。反転趣向が二段構えで、ワンクッションと本チャン真相と両方存在するのも趣がある。しっかし、あのバカバカしいエピソードがまさかの致命的大伏線に化けるとはな。。ラストシーン、というか最後の台詞は本当に美しい。(この題名で、それまでと異なる物語舞台だし..) それってきっとそういう意味ですよね。。


各作の題名はヨハン・シュトラウス二世の代表曲から取られているようですが、捻ってサニー・ボーイ・ウィリアムスン二世の曲名通しで「乞食探偵」短篇集やってくれないかな誰か。ちょっと無理がありますか。

No.26 5点 mediocrity 2020/03/10 04:43
<ネタバレあり>


①『ウィーンの森の物語』
あれの取り換えはあまりにもベタだし、車を出す前に中身を確認しなかったのもちょっと変だと思う。普通、財布のありかくらいはきちんと確認するのでは。事後の処理の見事さで盛り返したけど4点。
②『トリッチ・トラッチ・ポルカ』
まず、前日に殺された死体の死亡推定時刻が8時間というのは異例の長さだと思った。前に西村京太郎氏の作品で一か月前の殺人事件の死亡推定時刻を1時間に限定してしまって吹き出したことがあったけども、逆パターンですね。
あと、事件の真相には直接かかわらないことだから傷というほどではないけども、推理の過程で2つ疑問点が。
1つ目、傘に関して色々と推理しているが、あんなのはあくまでそういう傾向があるという程度で、仮にあれがメインの証拠になっていたなら大減点。
2つ目、強い雨で風もあったのに窓を閉めなかった理由。作品中では「実は雨が降っていなかった」と結論付けて正解だったが、「風があれば、風向きによっては風も雨も全く入って来ない」というのは考慮に入れないのだろうかと思った。
メイントリックは危なっかしいですが面白いですね。なんだか東川さんが使いそうなトリックだ。6点。
③『こうもり』
これはよくわからない。貴生川という名前の男が突然出てきて、まさか貴族探偵の本名ということはないだろうから、流れ的に作家大杉の本名なのかなとか思いながら読んでいたんだけど何か違う。双子ならアリバイも崩れるけど反則らしいし、いったいどう決着付けるんだろう?と思っていた所にあのオチだから、ズッコケたとしかいいようがない。4点。
④『加速度円舞曲』
地味な見取り図の割には思ったより動きがあって楽しかった。6点。
⑤『春の声』
ロジカルというより強引に納得させた感が強い。5点

No.25 7点 レッドキング 2019/12/29 10:36
捜査のみならず推理さえ行わない究極の安楽椅子探偵。「どうしてこの私が、推理などという面倒なことをしなければいけないんだ・・」あっぱれなセリフ。ずんぐり執事、可憐メイド、巨漢運転手、使用人探偵トリオがよい。

・「ウィーンの森の物語」 密室作成目的のロジック・・➀自殺偽装 ➁「侵入可能なA」への冤罪擦り付け ➂「『侵入可能なA』へ冤罪擦り付けするB」の仕業に見せかける偽装・・眩暈を誘うほどの密室ロジック。「目的➀」及び発覚時の保険としての「目的➂」の為の密室が、ささいな事故から➀のみならず➂の意図さえも見抜かれてしまう。
・「トリッチ・トラッチ・ポルカ」 バラバラ肢体を利用したアリバイトリックと血と雨のロジックによるトリック見破り。
・「こうもり」 作中人物達を欺きながら、読者には始めから「正解を告げる」という、一捻りした叙述トリック。
・「加速度円舞曲」 殺害現場隠蔽の為の死体移動、死体移動隠蔽の為の家具移動、家具移動隠蔽のための・・・ 何重にも連鎖する因果ロジック。
・「春の声」 「AがBに殺され、BがCに殺され、CがAに殺され」ってエッシャーの騙し絵みたいなこういうの好きだ。「隻眼の少女」でも重要な要素だった「右側左側のロジック」がここでも利いている。

※以前「春の声」単体で採点しましたが削除して、皆さんに倣い短編集として登録し直しました。全体で7点。

No.24 8点 バード 2019/02/02 12:27
各短編ごとの点数
1 ウィーンの森の物語 7点
2 トリッチ・トラッチ・ポルカ 7点
3 こうもり 9点
4 加速度円舞曲 8点
5 春の声 5点

平均したら7点ちょっと?ただし、短編でこのようなhighアベレージをだすのは難しく、お見事。よって少しげたを履かせて8点にした。

読む前はキャラものライトミステリと思っていた。しかし、1~4の仕掛けは上手く、本格至上主義の人でも満足するできばえと思う。(5は少し力技が過ぎる気もするが。)
特に、3は最後まで読んだ後、もう一度読みかえしてしまった。それだけ良い仕掛けということだろう。

加えて、貴族探偵が主人公兼モブ(こいつが居なくてもミステリ的には問題がないという点で)という新しいタイプのキャラでこれも面白かった。

No.23 7点 HORNET 2018/09/29 13:13
 安楽椅子探偵どころか、配下の者に指示して推理をさせているだけという異例の探偵「貴族探偵」シリーズの初作。
「ウィーンの森の物語」…「糸を使った密室トリック」というもはや骨董品のようなトリックだが、その「失敗」から本筋的な話の仕掛けが生まれていて巧い。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」…麻耶氏らしい、ぶっとんだアリバイトリック。
「こうもり」…「地の文では嘘を書いてはいけない」という本格ミステリのルールを完全に逆手に取った読者への仕掛け。なるほど。
「加速度円舞曲」…犯人の「こうであっては怪しい」を潰すための工作の連鎖。
「春の声」…加害者と被害者が三すくみの状況。この真相はちょっと強引だったかな。

 私にセンスがないのか、タイトルの意味がよく分からない。後でこの本を見ても、タイトルで話を思い出すことがまったくできないと思う。

No.22 7点 邪魅 2017/03/03 16:30
全体的に謎解きは凄く魅力的ですね
いずれの作品も良く練られていて素晴らしいと思いますが、貴族探偵のキャラがあまり好きじゃないです

以下ネタバレを含みます

こうもりは自分の中ではマイベストです
違和感は随所に見られました、が叙述トリックが使われているという前情報は得ていながらも見破られず、やっぱりこの人は上手いと思いましたね
蛍に通じるところも多かったかな

トリッチトラッチポルカのアリバイ工作は良いなあと
美容院という点を生かして、そして一見トンデモに見えるトリックですが窓の状況を推理していくとその過程に至るしかないというロジックは中々秀逸

春の声の真相も嫌いじゃないです
寧ろ好きです トンデモないですが、確かにそれ以外考えられないでしょう

それ以外の作品も良く練られていて実にレベルの高い短編集だと思いました

No.21 6点 パメル 2017/01/19 11:52
五編からなる短編集
貴族探偵と名乗る探偵は全く動かず捜査は使用人に任せ自分自身は女性にデートを申し込んだりしている
情報が集まり次第貴族探偵が事件を解決に導くかと思いきや解決自体も使用人に任せている
この設定自体は面白いし悪くはないのだがその使用人たちの謎解き披露が淡々としていて今一つ盛り上がらないのが難点
「こうもり」はこういう騙し方もあるのかと叙述トリックの新しいかたちを見せつけられた感がある傑作
「嘘は書いてないでしょ」と読者に笑いかけてる作者の顔が目に浮かぶ

No.20 7点 青い車 2016/02/13 22:52
自らは情報収集はおろか推理すらせず、すべて使用人任せの名探偵という人を喰った設定が目を引きます。しかし、内容はしっかりヴァラエティに富んだ麻耶雄嵩流のパズラーが集まっており、作者のファンなら間違いなく面白く読めるでしょう。逆に破天荒なトリックに慣れてない人は許せないであろう作品も一部あります。
以下、各話の感想です。
①『ウィーンの森の物語』 あるハプニングにより横滑りする犯人の行動を読み解く手際はなかなかです。ちゃっかり糸に関してフェアなヒントを提示しているのも抜け目がありません。
②『トリッチ・トラッチ・ポルカ』 アリバイ・トリックはさらりと書かれていますが、よく考えるとかなりぶっ飛んでいます。
③『こうもり』 本短篇集のなかでもっとも世評が高い作品です。何と言ってもアンフェアに見えてまったく嘘を書かず、ぬけぬけと成立させた叙述に尽きます。最初に推理を読んだとき、一瞬何が起こったのかわからなくなりました。
④『加速度円舞曲』 ロジックで攻めまくる、地味ながらも純度の高いパズラー。車の位置という些細なことから次々に推理を紡ぎ出していくステップが気持ちいいです。
⑤『春の声』 ロジカルな推理を突き詰めた結果、到底信じられないような真相が導き出される、いかにも作者らしい力作かつ怪作です。

No.19 7点 風桜青紫 2015/12/29 10:49
もともと麻耶雄嵩のパズラーものは嫌いではないし、どの作品も本格ミステリとして一定水準以上なので楽しめた。しかし、なんといっても『こうもり』のインパクトが圧倒的。この仕組みは不親切だという意見も多いが、叙述トリックにメタな要素を重ねていけば、これは間違えなく行き着く先のひとつだろう。さて、ここまでやってしまった次にはどんな仕掛けに行き着くんだろうか……。

No.18 7点 りゅうぐうのつかい 2015/12/01 18:26
事件の調査だけでなく、推理までも使用人にさせてしまう貴族探偵。
この人を食った、馬鹿馬鹿しいとも言える設定がいかにも作者らしい。
いずれも良くできているが、個人的一推しは「ウィーンの森の物語」。
「ウィーンの森の物語」
犯人の心理を「裏の裏の裏」まで深読みする複雑な論理構成。「バッグに残された指紋」と「現場に残された糸」から導かれる推理がすばらしい。
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」
大胆なアリバイトリックに意表を突かれた。
「こうもり」
メイド田中の説明で出てくる人物名に「あれ?」と思い、最後の一文に驚く。
「加速度円舞曲」
運転手佐藤が、犯人の思考から積み重ねられた行動の連鎖を鮮やかに解明する。クイーンの「チャイナ橙の謎」を連想した。
「春の声」
三すくみの殺人の謎の真相は確かにこれしかなさそうだ。納得。

No.17 5点 ボナンザ 2015/09/22 16:23
確かにこうもりは秀逸ですが、全体的に貴族探偵という設定に共感できず。

No.16 7点 yoneppi 2015/01/28 21:28
他のひとが言うように「こうもり」は秀逸だが綺麗に展開している叙述トリックとは言えずちょっと分かりづらい。それでもやっぱりこの作家は凄い。

No.15 6点 名探偵ジャパン 2014/07/22 00:27
「2014年本格ミステリ・ベスト10 第1位!」
のシリーズ第1弾
という東スポも真っ青な帯の文句に、書店の棚の前でずっこける(心の中で)
内容はかっちりとしたミステリで、この貴族探偵なる人物に対する評価で、作品の好き嫌いがはっきり分かれるだろう。
短編集だが、中でも白眉なのは、なんと言っても「こうもり」だろう。ここまでくると(やられると)清々しい。件の関係者揃っての昼食の場面を読み返してみるが、うん、確かにどこにも嘘は書いてない。
他の叙述トリック(書いちゃうよ)は、「やーい騙された」という悪意のいたずらを受けたような感覚に陥ることが少なくないが、これは、笑って許せてしまうというのか。赤いヘルメットを被った作者が出てきて、「叙述トリック大成功!」と書かれたプラカードを掲げられる。そんな雰囲気。

No.14 6点 アイス・コーヒー 2014/03/27 15:49
貴族探偵は捜査ばかりか、推理・犯人の指摘まで召使任せの奇抜すぎる「名探偵」。本人曰く、「あくまで召使は探偵の所有物だから問題ない」らしいが…。連作短編集第一作。

短編の内容は、相変わらず麻耶作品らしいもの。「ウィーンの森の物語」は単純なフーダニットだが、「トリッチ・トラッチ・ポルカ」や「こうもり」のトリックはストレートだが独特。特に「こうもり」は読者の裏の裏をかくような話で、認めない人は断固認めないだろう。(これは「貴族探偵」全般に言える。)
「加速度円舞曲」は純粋なパズラーで意外性はなかったが(オチが読めたが)、論理の強固さに驚かされる。「春の声」は………「不可能を除外したときに残ったものが、たとえどんなに信じられないものでも真実」の言葉通り。ネタ自体は古典的なものだが、ある意味で麻耶作品を受け入れることが出来るかの指標になる作品。
そもそも、「推理どころか何もしない探偵」という設定自体がアンチミステリ的で賛否が分かれるだろう。しかし、(私個人の意見として)「貴族探偵」がなぜ「探偵」なのかといえば、ただ「貴族」だからではないだろうか。

No.13 8点 いいちこ 2014/03/22 10:13
舞台設定や、トリックの奇抜さではなくロジックで勝負している点など、骨格は「謎解きはディナーのあとで」に非常に似ている印象。
ただ事件の真相や登場人物の性格付けには、この作者らしい稚気やエキセントリックさが発揮されている。
収録作品では「こうもり」が断然。
読者をあざ笑うようなアクロバティックな逆●●トリックは前代未聞で驚くべき奇想。
反則スレスレだが唯一無二のキレ味

No.12 5点 makomako 2014/01/13 10:49
 どうもこの作家とは相性が良くないのかもしれない。貴族探偵と自分で名乗っているのだが、自分は全く何もしないでお助けマンのような使用人たちが事件を解決する。この探偵のもとは昔漫画であった「おぼっちゃまくん」なのであろうか。
 推理内容もまあ納得できるものもあるが、ひどいのもあるよ。
 

以下ネタバレ。
 そっくりさんが出てくるのは反則みたいだし、死にいたるような怪我をしているのにそれに気づかず犯罪を犯していたなどと、到底納得しかねる結論で物語りはおしまい。
 作者は本格推理なんて所詮こんなもんですと言いたいのであろうか。
 かく言う私も文庫の帯に2014本格ミステリベスト10、第1位をみて購入してしまったのだが、良くみるとそのあとに---のシリーズの第1弾!!とある。
 だまされた。
 

No.11 7点 白い風 2013/12/28 23:25
貴族付きの執事・メイド・運転手による推理。
「謎解きはディナーのあとで」の影山を思い出しましたが、個人的にはこちらの方が好きですね(笑)
それにしても麻耶さんの探偵は個性的ですね。
謎解き以上に私はそちらのキャラ設定に魅力を感じました。

No.10 6点 E-BANKER 2013/11/17 16:01
常磐洋服店の超高級スーツを着こなすダンディな男。その名も「貴族探偵」。
自身では決して動かず、考えず、ましてや推理など瑣末なことは使用人に任せる・・・破天荒な“名”探偵が主人公の連作短篇集。

①「ウィーンの森の物語」=実際の探偵役は貴族探偵の老執事・山本が務める本編。しかも、事件は針と糸を使った密室トリックがメインなんて・・・ふざけてるとしか思えない・・・のだが案外まともなラスト。
②「トリッチ・トラッチ・ポルカ」=メイドの田中が本編の探偵役。アリバイトリックがメインとなるのだが、バラバラ死体とアリバイといえば、だいたいこういう方向性になるよなぁ・・・という真相。でも、結構ブッ飛んでる。
③「こうもり」=本作中で一番のボリュームを誇る本編。探偵役は今回も田中が務める。これもアリバイが事件のメイントリックとなるのだが、トリックは反則技のような気がするけど・・・これも作者のおフザケかな?
④「加速度円舞曲」=ひとりの女性が巻き込まれた落石事故から殺人事件までに発展してしまう本編。探偵役は大男の佐藤。現場の見取り図がふんだんに出てきて興味をそそるが、ちょっと分かりづらい感じ。それにしても貴族探偵・・・我が儘すぎ!
⑤「春の声」=大富豪の跡を継ぐ美しい娘と、その娘の花婿候補の三名。三名の花婿候補がほぼ同時に殺害されるという不可思議な事件が発生。しかも現場は雪密室。そして、三名それぞれが別の男を殺した容疑者という妙な状況に・・・。今回は今まで登場した山本、田中、佐藤のそれぞれが三名を殺した犯人を当てるというスゴイ展開に。結末はまぁ、ロジックをこね回してるという気がしないでもない・・・

以上5編。
一作ごと問題作を発表している作者らしい、一筋縄ではいかない作品集だな。
それほど派手なトリックやプロットが用意されるわけではないけど、独特の皮肉っぽさやお遊びを感じられる作品が並んでいる・・・
そんな読後感。
貴族探偵のキャラそのものは別にどうということもないし、表面の皮を一枚むけば、ロジックの効いた普通の短篇という骨組みが見えてくる。
こういうレベルの作品を出し続けられるのは、やっぱり作者の能力といういうことになるのだろう。
続編も出たのでそれも楽しみ。
(これって、やっぱり「富豪刑事」にインスパイアされたのだろうか?)


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