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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
白の協奏曲
山田正紀 出版月: 2007年09月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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双葉社
2007年09月

No.2 7点 虫暮部 2021/05/25 12:40
 こういう“撤去作戦”が実施されたら、私はどうするだろう。火事場泥棒のほうが怖いな~。テレビやラジオを聴取する義務は無いのだから、そんな指示は知らないぞと言い張れる。居留守を使って数日部屋に籠もるか。
 物凄い大金とか財物とか、人間一人の身の丈とあまりにスケール感の違う欲望を見ると、その対比に哀しみを感じてしまうことがある。結末の“散骨”の場面もそんな感じだった。
 第一楽章で説明される“囚人ゲーム”はちょっと説明不足。
 楽団員は全員男性なので表紙のオブジェにはミスがある。

No.1 5点 人並由真 2019/07/21 01:38
(ネタバレなし)
 スポンサーである企業が倒産し、活動が困難になった民間オーケストラ集団「M交響楽団」。指揮者の中条茂ほか、その存続を何が何でも守ろうとする約30名の残存メンバーは、悪人や裏社会の弱みを突いて金をだまし取る集団詐欺を繰り返し、オーケストラ活動継続のための資金を貯めていた。だがその詐欺行為の証拠を掴んだ謎の女・霧生友子が一同を脅迫。彼ら30名を自分の私兵とし、非常識ともいえるある大プロジェクトを企てる。一方、警視庁公安部のエリート・状元紀彦は、日本の政界の黒幕と言われる老人・神馬康生(しんめこうせい)とその秘書・水沢知佐子に接触。同じ日本国内の対テロ諜報機関でありながらセクト争いを繰り返す警視庁公安部、自衛隊の第二課、内閣調査室の枠を越えた強権の新情報組織「JCIA」の設立というプランに向かって邁進するが……。

 双葉社の「小説推理」1978年1~2月号に前後編で分載されたまま、約30年近く書籍化されなかった逸話の、一時期は幻だった作品。
 めでたく、おなじみのミステリ研究家・日下三蔵氏による発掘を経て著者・山田正紀の快諾を取り、2007年に初めて単行本化された。

 それでまた、ごく私的な思い出話になるが、評者は大昔に、自分が大傑作と信じる『火神を盗め』を頂点に山田正紀作品(主に冒険小説系)に傾倒していた時期があり、それゆえこれ(『白の協奏曲』)も前述の「小説推理」に分載されたのは知っていたものの、いつまで経っても書籍化の気配がないので気になって、当時の「小説推理」の編集部に「この作品はいつ本になるんですか?」と電話をかけた覚えがある(今で言う「突撃」だな~笑・汗~)。その時、電話の向こうの編集氏から「ああ、あれはウチ(双葉社)から出ないんです……(どこから出るかは不明)」と返事をもらったものだった。その節はご対応、ありがとうございました(平伏)。
 そしてその後の1982年に、(この単行本版『白の協奏曲』の解説で日下氏も触れている)、同じ山田正紀の同じ(中略)テーマのポリティカルフィクション『虚栄の都市』が刊行された(ノン・ノベルズ)。
 だからかつては『虚栄~』があの『白』の書籍版なのかな? でもなんか内容がかなり違うような……と思っていたりしたのだった。
 そういうわけでそのうち、国会図書館でも行って当時の「小説推理」を確認しようしようと思っていたら、いつの間にか時が経ってしまい、あっという間に21世紀(笑・涙・汗)。
 そのうちに、こうやって日下センセのおかげで一冊にまとまり、手軽にいつでも読めるようになった。こうなるとなんか飢餓感も薄れてしまい(さらにいうなら「幻の作品」が幻でなくなったことが、古参のミステリファンとしてシャクな気分も正直あった~笑~)、これまで本が刊行されてから10年以上、読まずに放って置いたのだった。
 まあこの作品については、そんな訳、こんな訳なのです。
(しかし結局この本は、生まれた場所の双葉社から刊行されたのね。まあたぶん日下先生が目をつけて、大元の版元に企画を持ち込んだんだろうけれど?)

 それで今回初めて通読してみて、肝心の内容の方の感想だが、うーむ。Amazonなんかのレビューではおおむね好評なようだが、個人的には30年目に本になって、自分自身も長らく読まずにとっておいて、これか……の思いが強い(もちろん10年あまり読まなかったのは、あくまで当方の勝手だが~汗~)。

 冒険小説の主人公チームが貧乏楽団というユニークな文芸、主人公と対になるもう一人の主人公・公安エリートとの対峙の構図、主題となる大規模な陰謀に仕組まれた謎と真相……などなど、物語の要素要素は確かに面白いのだが、一方で作品の総体としてはその具材を並べることばかりが先行し、パーツの食い合わせがあまり良いとは思えなかった。
 なにより主人公チームがこの(中略)の陰謀に動員されるのが偶然のなりゆきなり、どうしてもやむをえない事情の結果という流れならともかく、しっかり計画的にキャスティングされたというのが無理があるだろう、作中の現実としてのリアリティを欠くだろう(ラストに一応、この件について、人間関係上のエクスキューズは用意されているようでもあるのだが、それでも根本的な部分で、こんなアマチュア集団を呼び込むだけの必然性は希薄では?)

 あとは、ある重要な人物配置上の大ネタが見え見えなのと、二つのツイストを盛り込んだ終盤のまとめ方が、どうもこなれが悪い。
 ラストの二つの逆転劇のどちらも、どういう趣向で読者を面白がらせようとしてるのはよくわかるつもりなのだが、作中のリアルとして……これってアリなんですか? ずいぶん都合のいい事態の流れだね、という感慨が湧き出てくる感じのクロージングなのであった。

 なんか文字量も物語のスケールに比してかなり少なめだったし、21世紀にワープロやらパソコンやらで多大な文字数の長めの長編が書きやすい環境だったら、もうちょっとデティルを書き込んで、もっとしっかりした説得力のあるものになったのでは……という気がする。

 ちなみにこの作品のミステリとしての最大のサプライズは、なぜ(中略)のホワイダニットなんだけれど、そこにいくまでに頭が冷えてしまったせいか、あるいはもっともっとその恐るべき真相に驚愕し、家の中を走り回るべきところ、それが全くあかんかった(涙)。
 ここでまたAmazonのレビューの話になるが、最後の真相は怒る人がいるかもしれませんという主旨のことを言っている御仁もいる。
 けれど、自分の場合、怒りも感心もしない。ただ、作者がきっとこれを決め球にしようとしていたことはよくわかるのに、それがどうにも心に響かない……。そんな感じなのであった。

 まあ、作者があとがきで、自分の作家生活の中での青春の一冊という主旨のことを言ってるけれど、それはなんとなく、よく分かる気もする。
 前述の『火神』『虚栄』さらには『謀殺のチェス・ゲーム』『50億ドルの遺産』などの、実に玉石混淆といえるかつての山田正紀の冒険小説群といっしょに、この作品をもっと早めに読んでいたらどうなっていたであろう。もしかしたらかなり評価は……かもしれないのだが。
 評価は思い入れを込めるがゆえに、あえてキツめでこの点数で。


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