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アヤツジ・ユキト 1987-1995
綾辻行人
評論・エッセイ 出版月: 1996年05月 平均: 7.00点 書評数: 2件

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講談社
1996年05月

講談社
1999年06月

No.2 7点 Tetchy 2021/04/14 23:38
本格ミステリ作家綾辻行人がデビューした1987年から1995年にかけてあらゆる所で著した雑文を網羅したのが本書。その範囲は自身の作品のあとがき、他書の解説はもとより、推薦した作品の帯の惹句から文庫に挟まれる小さな冊子めいたチラシのほんの数行の文章まで本当に多岐に亘る。

本書のような本が編まれる目的はやはりいわゆる“新本格”という名称を世に根付かせた『十角館の殺人』を発表した綾辻行人の道程を記録として遺していくことを一義にしていることは明確だが、果たしてこれは作者自身にとって有意義であったかは甚だ疑問だ。
もし私が綾辻氏ならばこのような記録は某所で書き散らした雑文として記録に残さないことを選ぶだろう。なぜならそれらは年を取って振り返った時に実に恥ずかしい思いを抱くからだ。従ってこの綾辻氏の決断は正直無謀とも思える勇気を感じた。

それが証拠に書かれている内容は若気の至りとも云える内容が非常に多い。TVゲームに対する愛情だったり、アーティストに寄稿した歌詞だったりとそれらは夜興奮した時に一気呵成に勢いで書いてしまった、翌朝読むと実に恥ずかしいラヴレターに似た思いを抱くからだ。
従ってよくもまあ臆面もなく発表したものだと感心するやらあきれるやらと思ってしまった。

さてこの頃は1年に1作のペースで自作を刊行しておりながら、後半になると出版社に強要される、いわゆる「カンヅメ」を強いられなければ作品を物にできない遅筆ぶりをとめどめなく綴っているため、現在に至る数年に1冊の刊行ペースの萌芽が垣間見えて、現在の綾辻氏が抱える更なる遅筆ぶりの弁明文になっているところが興味深い。

さて内容についてはここでは敢えて触れないでおこう。これは新本格黎明期に残された歴史的文書なのだから。

しかしこのような本はある意味罪である。本書では綾辻氏が監修に携わって見事にコケたゲームソフト『YAKATA』に携わる直前で終わっているため、その後の展開が非常に愉しみに思えてならない。
まあこのように思う私自身が捻くれ者であるのだけど。

No.1 7点 メルカトル 2021/04/14 22:29
『十角館の殺人』での衝撃的なデビューから八年四カ月の軌跡を、綾辻行人自身とともに振り返る。エッセイ、解説、書評から推薦文、あとがきに至るまで、この間に発表されたすべての「小説以外の文章」を、詳細な脚注と各年の回顧録をつけて完全収録!アヤツジファン待望・必携のクロニクル。
『BOOK』データベースより。

全てが本音で書かれているとは思いませんが、綾辻行人の穏やかでありながら、内に秘めた情熱が良く伝わってくる文章が多いなと感じます。
これを読めば、綾辻の色々な顔が見えてきます。恩師島田荘司とのミステリ観の乖離、自身のミステリに相対するスタンス、ホラー映画やスプラッターへの愛着と憧憬、異形なものに対しての執着、宮部みゆきと生年月日が同じである事、麻雀名人戦で結局最後まで決勝戦に進出できなくて悔しかった事、小説家としての年を重ねるごとに拗れていく鬱状態、カンヅメに苦しんだ思い出等々、数え上げればキリがありません。

又、当然のことながら京大のミステリ研時代の仲間である法月綸太郎や安孫子武丸、麻耶雄嵩に関する記述もあります。他に登場するのは、氏の大好きな楳図かずお、谷山浩子、もう一人の恩人である竹本健治や中井英夫、小森健太郎、京極夏彦ら多数。
所々に配されている写真を見ると若いなあ、というより幼いなという印象が強く残ります。童顔だった若い頃、残念ながら今では見る影もありませんが。
個人的には京都の北部に位置する私にも無縁ではなかった地、岩倉の事が書かれていたのも懐かしさを誘いました。それと様々な人に支えられ、多くの縁に導かれて今の小説家綾辻行人があるのだなと、それを運命と言うのかも知れないなと思ったりもしています。


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