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[ SF/ファンタジー ]
第二の顔
マルセル・エイメ 出版月: 1957年01月 平均: 6.00点 書評数: 1件

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東京創元社
1957年01月

東京創元社
2008年03月

No.1 6点 人並由真 2021/04/09 04:40
(ネタバレなし)
 1930年代末のパリ周辺。「ぼく」こと38歳の平凡な中年で、広告仲介会社社長ラウル・セリュジュは、役所に出かけたその日、いつのまにか自分の顔が全く変わっていることに気づく。そこにあるのは、30歳前後のかなりの美青年の顔だった。不条理な現実に戸惑いながらも、とにもかくにもこれを事実だと受け入れたラウル。彼は自分の会社から何とか資産を持ち出し、表向きは海外出張を装いながら隠遁生活に入る。「ロラン・コルベール」と名乗ったラウルは、この怪事を妻ルネーの叔父で、好人物ながらいささかボケかけた老人アントナンに述懐。一方でとある考えから愛妻ルネーを、初対面の美青年ロランとして<不倫>の情交に誘うが。

 1941年のフランス作品。
 昭和の広義の翻訳ミステリ分野では、結構有名な不条理ファンタジーだと認識していたが、本サイトでもまだレビューがない。じゃあ、と思い、書庫で見つかったこの一冊(創元文庫の帆船マーク)を読んでみる。
 そういえば、読了後に訳者あとがきを読んで改めて意識したが、この作品、乱歩の『続・幻影城』の中で<変身願望>テーマのサンプルとして取り上げられていたのであった。

 主人公ラウルの唐突な変身の原因は不条理小説の常として? 最後まで読んでも不明(神のみわざらしいとか、そういう観測は作中でなされるが)。

 とにもかくにも、若くてハンサムな顔、そして新たな名前という、これまでと刷新した容姿と素性を手に入れたラウルだが、だからといって行動の枠が大きく広がったりはせず、自分の奥さんを別人を装って寝とりにいくというのが、笑えるような切ないような微妙なところ。そのほか数名のヒロインたちとの関係性をふくめて、若いハンサムに変身したからって何が大きく変わるものでもない、元の位置からそう遠ざかれない、という主張も覗いてくる(まるでサム・スペードの語る、失踪したダンナのその後の逸話のようだ)。
 
 大設定の突拍子なさの反面、その後の展開はおおむね地味で地に足がついた感じだが、それだけに随所のユーモアや人間模様のペーソス感がなかなか味わい深い。ラストの決着はちょっと引っかかるところもあるが、まあその辺は。
 とりあえず、読んでおいて良かった、とは思うけど。


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マルセル・エイメ
2000年07月
壁抜け男 (角川文庫版)
1976年01月
壁抜け男(早川書房版)
平均:5.00 / 書評数:1
1957年01月
第二の顔
平均:6.00 / 書評数:1