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[ 本格/新本格 ]
法月綸太郎の消息
法月綸太郎シリーズ
法月綸太郎 出版月: 2019年09月 平均: 5.57点 書評数: 7件

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講談社
2019年09月

講談社
2022年10月

No.7 5点 パメル 2021/05/07 08:58
「白面のたてがみ」と「カーテンコール」は、ドイルとクリスティーという偉大な先人の作品に法月綸太郎が切り込む、小説の小説というべき作品。表面には浮かび上がってこない作品の真意が、彼らの作品のあるものに隠されている可能性があると綸太郎は睨む。そして原作を精読し、行間から浮かび上がる真実を捕まえようとする。彼の到達した結論が正しいか否かはあまり問題ではなく、読むという行為がいかに創造的になりうるかを改めて認識させるのが、この2作品の価値でしょう。目の付け所は評価したいし、考察に興味のある方は楽しめると思いますが、このような事に興味のないような自分にとっては、退屈で仕方がなかった。
残りの「あべこべの遺書」と「殺さぬ先の自首」は、帰宅した法月警視から推理作家で息子の綸太郎が話を聞き、事件の真相を推理する形といういつものパターンで悪くは無いのだが切れ味は今ひとつ。

No.6 5点 HORNET 2020/01/05 16:44
 ここまでの方々が書かれているように、1作目「白面のたてがみ」とラストの「カーテンコール」は、海外古典ミステリの分析推理譚となっており、法月綸太郎のオーソドックスな事件簿ではない。「白面の…」はドイルとチェスタトン、「カーテン…」はクリスティの作品を題材としているが、登場する各作品のネタバレが平気でされるので、今後それらを読もうと思っている人は避けた方がいいかもしれない。
 他2編は、警視の父親が持ち込んでくる事件の謎を、自宅で解き明かすいつものパターン。2人の死者の遺書が入れ替わっている、殺人が起こる前に犯人が自首してきた、と「謎」は非常に興味深いものなのだが、結末として明かされる犯人の行動心理は「すとん」と納得するところには至らなかった・・・という印象だった。

No.5 5点 まさむね 2019/11/26 22:23
 2017年以降に書かれた「法月綸太郎シリーズ」の中短編をまとめた作品集で、同シリーズ開始30周年(「雪密室」の刊行から30年)を記念する一冊とのことです。
 正直、本格短編と言えるのは「あべこべの遺書」と「殺さぬ先の自首」の2作。前者はアンソロジー「7人の名探偵」で既読であり、初読時には穴はあるけどなかなか面白いと思ったのですが、二度読みであったからなのか、加筆修正されたといえ、むしろ犯人(側)の行動の不自然さに今さらながら引っかかった次第。「殺さぬ先の自首」も確かに面白いけれども、「~冒険」「~新冒険」「~功績」に収録されている好短編と比べると…といった印象。
 他の2作品「白面のたてがみ」と「カーテンコール」については、法月綸太郎シリーズの場を借りた研究発表(推論展開?)といった趣向が強く、おそらく好きな方は堪えられない面白さがあるのでしょうが、個人的に求める「法月綸太郎シリーズ」ではなかったなぁ…と。
 まとめると、このシリーズの短編は個人的に大好きなだけに、ちょっとハードルを上げ過ぎて読んでしまった感があったのかなぁ…と反省。

No.4 5点 虫暮部 2019/10/04 11:03
 「白面のたてがみ」「カーテンコール」――北村薫の『六の宮の姫君』他の“小説の体裁をとった文学談義”に対する返答じゃないかと思う。“北村先生、ミステリ・ファンに芥川だ太宰だと言っても馴染みが薄い、コレをやるなら題材はこうでしょう!”。問題は、論議の過程で不可避なネタバレが、純文学ならさほど問題にならないけれどミステリでは致命的だと言うこと。名前等もっとぼかしても内容は通じるだろうに。
 「あべこべの遺書」――関係者が、知らない筈の事情を知っているように行動している。色々不自然な失敗作、修正し切れてないよ。
 「殺さぬ先の自首」――旧作「ABCD包囲網」の雪辱戦? “「わざわざ警察に目をつけられるようなことをして、その先どうするつもりだったんだろうか」”に関する心理的な裏打ちを設定していて、これならまぁ許容出来るかな。

No.3 6点 名探偵ジャパン 2019/10/01 15:03
名探偵・法月綸太郎の作品集としては、実に七年ぶりの本だそうで、特に「あべこべの遺書」が収録された「7人の名探偵」を未読の人にとっては、「生きとったんか、ワレー!」と言いたくなる、まさに(作者もあとがきで触れていましたが)相応しいタイトルです。
今や作家・法月綸太郎は小説家とミステリ研究・批評家の二足のわらじを履く文筆家なわけでして、その性格がモロに反映された作品集となっています。

で、その「研究家」としての二編は、「凄いことを発見、研究して書いているのは分かるけど、(私が浅学なせいで)いまひとつピンとこない」というのが正直なところで、作中に触れられている数々の古典を読み込んでいる方であれば、また違った(というか本来の)楽しみ方ができるのでしょうね。確かにこれは小説にする必要はなかったかもです。

「まっとうなミステリ小説」である残り二編は、これぞ法月の面目躍如! と言いたいところなのですが、どちらも魅力的な謎に合理的な解決が図られるのはいいとして、短編向きのネタではなかったのかなと思います。この二編を中編に膨らませたものと、研究家としての二本を別個に刊行したほうがよかったように感じました。

No.2 6点 ねここねこ男爵 2019/09/27 10:37
「あべこべの遺書」は初出のアンソロジーではツッコミどころ満載だったが、この短編集Verでは一応形になっている(構造を変えたのではなくツッコまれそうな部分に予め言い訳している、という感じだが)。
ただ構造がそのまま故、服毒死の下りなどはだいぶ苦しく、結局真相は分からずじまいにしていることなど全盛期ほどのキレはないと思った。

長期シリーズの小説だと、作者が歳を重ねたため考え方感性が変化しキャラクターが別人になることがままある。本作ではキャラクターはそのままだが作風が…。作者は評論を多く手掛けているためか、「白面のたてがみ」「カーテンコール」はモロにそうなってしまっているというか。クオリティはともかく(面白いけど)、評論で書くべきネタを無理やり小説化したという印象が拭えない。

No.1 7点 青い車 2019/09/12 21:30
 実に7年ぶりとなる探偵・法月綸太郎の新刊。なかなかに興味深い内容と構成だったため、やや長めのレビューを書きます。
 まずは、ストレートな安楽椅子もの二作から。『あべこべの遺書』は提示される謎が飛び抜けて不可解な一作です。尚且つ、それを一から十まで理詰めで解こうというスタンスも相変わらず維持しています。わずか50ページの短編にして情報量が濃くて読み応えがありますが、やや複雑すぎるのはネックでもあるでしょうか。
 『殺さぬ先の自首』はモノでなく心理をカギにした謎解きの一作です。こちらはかなりわかりやすい解決ですが、最後に至るまでそれを読む側に悟らせないのは流石といえます。少し有栖川有栖『モロッコ水晶の謎』を思い出しました。
 そして、この本ならではの異色作が、上記の二作をサンドウィッチする形で収録された『白面のたてがみ』『カーテンコール』です。作者ならではの律儀な研究ぶりが窺われる途方もないホラ話(貶してるわけではなくいい意味)で、ドイル、チェスタトン、アガサらに対する敬意がきちんと表れている点が好印象でした。


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