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[ 冒険/スリラー/スパイ小説 ]
グラント船長の子供たち
ジュール・ヴェルヌ 出版月: 2004年07月 平均: 8.00点 書評数: 1件

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2004年07月

No.1 8点 Tetchy 2016/04/11 23:50
ひょんなことから捕えた鮫の腹の中から出てきた壜の中に入っていた紙片から有名な航海家グラント船長の遭難の情報を得たことで、その子供たちと共に私財を投げ打って船長探しに行く冒険物語である。まずこの鮫の腹から出てきた紙片が冒険の始まりというのが実に劇的である。

とにかく驚かされるのはあらゆることについて専門家並みに詳しい説明がなされている事である。最初の冒険であるヨットによる太平洋横断では航海術についての詳しい説明がなされ、続いてチリに辿り着いてからの南米大陸横断ではチリの案内人の詳しい描写とアンデス山脈の厳しい極寒状況での登攀やだだっ広いパンパスでの照りつける日差しで難儀するグレナヴァン一行の様子が克明に描かれる。
まるで見てきたかのような詳細な描写には驚きを隠せない。何しろ1868年の作品である。今のように飛行機が発達して手軽に世界各国に生ける時代ではなく、海外旅行は死と隣り合わせの危険な旅であった頃の作品であることを考えると、なぜヴェルヌがこれほどまでの迫真性をもって描写する事が出来たのかと不思議で仕方がない。

ただ昔のフランス小説の定型ともいうべきか、非常に枝葉が多い小説である。とにかく物語が脇道に逸れることしばしばで、端役が登場するエピソードは勿論の事、薀蓄がかなり散りばめられており、これが結構な分量で挟まれる。世界の航海史から、オーストラリアのゴールドラッシュの歴史、さらにユーカリの特性と枚挙に暇がない。
これらページを割いて語られる薀蓄のうち、舞台がオーストラリアに移った時の地理学者パガネルが語る歴代の航海士たちによる開拓の歴史はその最たるもので読んでいる最中、自分は何を読んでいるのか、見失う事しばしばだった。
しかしこれらの薀蓄も実は物語の迫真性に大いに寄与してくる。この辺についてはまた後で述べよう。

正直1部のチリ横断行は典型的なジュヴナイル冒険物語といった内容であったが、2部のオーストラリア横断行から裏切りによる財産の喪失と人間の卑しさを思い知らされるビターな内容になり、次第に物語の色合いが変わっていく。少年読み物から大人の冒険小説へ物語のトーンが移り変わるが、何と云っても3部の難破して辿り着いたニュージーランドでの逃亡行の迫真性は実に鬼気迫るものがあった。今まで読んだスリラーの中で一番恐ろしいと思ったといっても決して云い過ぎではないだろう。

ヴェルヌはそのスリルを際立たせるために上に書いたようにかなりの分量で彼らの人食いの歴史を述べ、そしてグレナヴァンの目の前で原住民が死者を貪り食う風景を克明に描写する。それはまさに地獄絵図そのものの血まみれの狂宴で、夢にまで出てきそうな残酷性に満ちている。地理の授業でその名のみ知っていたマオリ族がこれほどまで恐ろしい種族だったとは寡聞にして知らなかった。ニュージーランド、怖ぇ!

本書は少年の胸躍らす冒険譚に3つの手紙の解読と云う謎解き要素―この手紙の解読が彼らの冒険の道行きを決定し、物語の最後までその全容は明らかにされないという念の入りようだ―、更に旅の僥倖とも云えるグラント船長の元乗組員との邂逅とその裏切りというサプライズ、そして人食い人種の執拗な追跡劇に諦めかけたところでのグラント船長の発見という、波乱万丈の4文字がこれほど相応しい物語もない。本書は1868年刊行の小説だが、今読んでも心揺さぶられる一大冒険物語だった。


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